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第4章06話

第4章06話


『哲司、起きろ』


 結局、寝てしまっていた。


『何かが近づいて来ている』


「善姫さん、起きて下さい」


 善姫さんも人の温もりで寝てしまっていた。


「何かが来てます」


『2匹だな』


『少し大きそうだね』


 森から大きな狼が飛び出して来た。水美がいきなり氷撃で倒すと、もう1匹現れた。


「氷撃」


 2匹目は俺が倒した。2メートル以上の長さの長い牙を持った狼だった。


「妖獣ですね」


 2匹を水美袋に入れる。


「里が有ったら売れると思うのです。我々はここの通貨を稼がないと旅が出来ません」


 善姫さんが納得している。


「村か町を探さないと駄目ですね」


「善姫さん、ここの言葉は?」


「私達とは違う言葉です」


 水神様の御利益が有ると良いのだが。


「善姫さんは少しは理解します?」


「13年も居ましたから。でも殆どヤマコと話すだけでしたので」


 そういえばヤマコは人の言葉を話すのだった。


『水美。どっちに飛べば良い?』


『少し飛ぶと村が有るようだ』


 水美の言う通り、10分も飛ばないうちに村が見えて来た。


『城壁付きだな』


 善姫さんと門の前に降りると、番兵が慌てている。妖術が珍しい世界なのだろうか?


「何者だ」


 日本語だった。


「河瀬哲司。妻の善だ」


「何用であるか」


「獲物を売るのと旅館だな」


 何とスンナリ通してくれた。


「獲物を買ってくれる所は有るのか?」


「右手の3軒目の店で買ってくれる」


 門番さんも親切で余り威張らない。ここは笹美村という名前で人口は2500人くらいらしい。

 通りの3軒目に行くと、結構大きな店だった。


「獲物を買って貰えませんか?」


「はいはい、どうぞこちらへ」


 広い土間に通してくれた。土間にヤマコと大型狼を出して、鑑定を待つ。


「大物ばかりですね」


「ここら辺りは大物が多いのか?」


「最近は大物が増えて、皆が困ってます。危なくて狩りも細り肉不足でしたので、有り難いですね」


「ヤマコが14匹と、妖獣狼が2匹で金貨9枚と7銀貨ですが?」


「それで良いよ」


 番頭さんが六角形の金貨9枚と、やはり六角形の大銀貨1枚、銀貨2枚をくれた。

 番頭さんに聞くと、大銀貨2枚で金貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚。

 中銅貨10枚で銀貨1枚、銅貨10枚で中銅貨1枚だそうだ。


「不思議な事に笹美と同じですよ」


 番頭さんが色々教えてくれる。


「番頭さんも笹美の国から?」


「笹美の国から飛ばされた者が多いですね。この村は笹美村と呼ばれてます。他の村だと言葉が変わるので、皆で集まってしまい村になりました」


「他に町とかも有るの」


「在りますよ。町なら歩いて3日くらいの所に在ります。大きな町で3ヶ国語くらい使われてます。お客様があちらから来たばかりで、旅をする予定が有るなら庄屋様の所で人別帳に登録して通行手形を出して貰うと良いですよ」


 寄せ集めの村だけあって簡単に登録出来るらしい。

 早速、庄屋の所に行った。


「人別帳に登録に来た」


「はいはい。御武家様の御名前は?」


「私は河瀬哲司。これが妻の河瀬善と申す」


「ご出身は?」


「水郷境です」


 帳簿に書いて、おしまい。


「登録税で二人で金貨1枚です」


 金貨を払うと手形をくれた。これで旅が出来るなら安いものだ。


「妖獣を集めておいて良かったですね」


「登録税が高過ぎですよ」


 善姫さんが怒っている。


「私が妻で宜しいのですか?」


「姉にしようとも思ったのですが、俺と善姫さんでは似ても似つきませんので勝手に夫婦になってしまいました。怒らないで下さい」


 善姫さんでは美人過ぎて姉弟は通らない。


「怒るなんて……仮でも嫁扱いされて嬉しいのです。汚いとか臭いとか言われ続けて来ましたから」


『酷い扱いだの』


『本当だよね。いくらこの世界の習慣とは言え酷過ぎだよ』


『こっちに居る間だけでも哲司が嫁に扱うんだな』


 知世さんに言い訳出来る範囲でね。


 次に門番さんに教えて貰った風呂の有る宿に行った。


「今日は一部屋しか空いてませんが」


「それで構いません」


 善姫さんが話を決めてしまった。取り敢えず泊まることにして前払いしておいた。2人で食事抜き1日8銀貨、風呂は2時間で3銀貨だった。


「1日に2金貨は稼がないと駄目ですね」


 風呂は5時からだったので少し早い昼飯を食べ、少し狩りをして資金稼ぎをする事になった。


「宿の食堂か外の食堂、どちらにします?」


「外の食堂に行きませんか?」


 善姫さんの提案に乗って蕎麦屋に行く事にした。

 蕎麦屋とは名ばかりで、結構色々な物が提供されている。俺と善姫さんは上天丼とビールを頼んだ。

 店のお姉さんに聞くとヤマコの村は結構有るようで、被害者が増えているようだ。


「明日からはヤマコの村探しですね」


「こんな笹美の国から飛ばされた人達の村が有るのですから、この近辺のヤマコ村に居る可能性は高いですよね」


 俺も善姫さんの意見に賛成だ。


「妖獣を狩りながら村探しをしましょう」


 話をしていると天丼とビールが来た。


「この天丼は美味しいですね」

 

「ビールも中々ですよ」


 揚げ出し豆腐を追加で頼んで、善姫さんと半分こした。


「色々と食べれるので半分こは良いですね」


 水郷城では善姫さんと殆ど話さなかったので、とても新鮮な気分だ。思っていたより、遥かに楽しい人だった。


 店の外と言うか門の辺りが騒がしい。庄屋さんと部下の人が走って行った。

 蕎麦屋の店主とお姉さんが心配そうに外を見ている。


「何事です?」


「笹美城の奴らがまた来ているみたいで」


 蕎麦屋の店主は村の幹部らしい。


「笹美城がここも支配しているのですか」


「自分達でさえ帰る事が出来ない癖に、侍連中が乗っ取りに来るのですよ。笹美城の侍は毎回追い出しているのですが、だんだん数が増えてましてね」


 追い出された侍で、別の場所に集落を作っているのだそうだ。


「笹美城の侍は嫌われているの?」


「皆、見たくも無いですよ。陰陽師と組んでそこら中に裂け目を作って、我々がここに飛ばされた原因を作った連中ですからね」


「そりゃそうだね」


「御武家様、出来れば庄屋に力を貸してやって下さいよ」


『哲司、行くぞ。倒せば金になる』


 水美がやる気を出している。


「善姫さんはここに居て」


 俺は蕎麦屋の店主と門に向かった。善姫さんも薙刀を出して付いて来てしまった。


「何回も言うが、この村は笹美城の配下に入る気は無い。お引き取り願おう」


 庄屋さんが門の外に集まっている浪人風の奴らに言っている。全員で30人くらいか。ボロくなった陰陽師風が2人程混じっている。

 村の警備兵は10人くらいしか居ない。普通の村が雇える数はたかが知れているので仕方無いが明らかに劣勢だ。全員で槍を構えて門を守っている。


「力では我々が上になった。諦めて笹美城の侍である我々に支配権を渡せ」


 侍の親分らしいのが丁度宣言した所に我々が着いた。


「御武家様が手伝って下さるそうです」


 蕎麦屋が庄屋に言っている。村の若いのが集まって来ているが、戦略的には駄目っぽい。


「庄屋。倒してしまって良いのか?」


「そうして頂けるならば是非」


 水美がいきなり氷を降らせた。


「降雹」《こうひょう》


 俺も少し遅れて降雹を放つと、あっという間に戦いは終わった。


『哲司。こいつ等の金は集めたぞ』


 流石に水美だ。


「庄屋さん。死体は消してしまうから武器を集めて」


 集まっていた村人達が刀を集めて装備している。少し強そうに見えるようになった。


「御武家様。大変お世話になりました」


 庄屋さんと蕎麦屋さんが俺に礼を言っている。


「こいつ等の集落は何処に在る? 全滅させないと、また来るぞ」


 庄屋さんと蕎麦屋さんが相談して、決心したようだ。


「近くです。飛翔を使えるのが居ますのでご案内します」


 直ぐに俺と善姫さんを集落に運んでくれた。


 集落の入り口に居た見張り2人は問答無用で善姫さんが薙刀で斬り捨ててしまった。

 俺が集落に飛び込むと25~6人くらいの侍を居たが、水美が降雹で片付けてしまった。

 小屋の中から陰陽師と初老の侍が出て来た。


「氷撃」


「氷撃」


 氷撃を連射して斬り込もうと思ったら、氷撃だけで終わりになってしまった。まあ俺の出る幕が少しだけ有ったようだ。


『全滅だな。結構儲かったぞ、50金貨以上有る』


 水美が、またお金を集めたようだ。皮袋の中を覗いて喜んでいる。

 庄屋さん達も集まって来ている。小屋を全部確認しているようだ。


「御武家様は、お強いですね。お陰様で笹美城の侍達は全滅したようで、当分平和になりました」


 刀などを集めてから死体を片付けて全員で村に帰った。



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