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第3章15話

第3章15話


 タマ左右衛門さんと会うのに、水の里に行くのを遅らせた。


「御屋形様。お忙しい所、時間を割いて頂き有り難う御座います」


「いいえ、忙しいのはお互い様ですので。で、今日は」


「実は、御屋形様が悪霊討伐をしていると聞いて、分家の3男を討伐したと聞きましたので」


「はい」


「なら、これで分家の悪霊は全滅で御座います」


「は?」


「分家の婆は一年程前に討伐済みで、嫁と3人娘は死んだ直後に現れ見回り番が討伐しました。長男と次男はタマ五郎を襲って数日前に出まして、我々兄弟が討伐して置きました」


「……そうなんですか」


「御屋形様と知世様に心労をかけても無駄ですので三男を討ってからと思ってましたが、御屋形様が三男を討伐したと聞き御報告と相成りました」


 相変わらず主人に似ず有能な家臣達だった。という事は残りは普通の悪霊と考えて良いので、我が家というか水郷境にそれ程問題を起こす存在では無くなる。

 水郷城には化け物クラスでなければ入り込めないし、水郷境にだって現れれば力は半減するので怖く無い。水郷境の出身者が悪霊になったのと訳が違う。


『水美、近所の神様達に聞いてみようか?』


『それが良いな』


 最初に万穣神社に行く事にした。


「これはこれは、久しいですね」


 相変わらず涼しげな顔付きの神様だった。


「ご無沙汰しております」


「聞くところに依ると小物達も幸せに暮らしているようで、感謝しております」


「今日は神様に少し教えて貰おうと考え、お邪魔しました」


「悪霊討伐の話しですか?」


「既に耳に入ってましたか」


「この辺りは平穏ですよ。鬼婆が悪霊を捕らえて黄泉に返してますから」


「鬼婆がですか?」


「そうですよ。この辺りには鬼婆が三種類出てます。昨日、御屋形様が倒した悪霊を召喚して地域に混乱を招く者、黄泉の使いで悪霊を捕らえて黄泉に送り返す者、何かの依頼なのか悪霊を捕らえて何処かに送っている者ですね」


「はあ……」


「悪霊を捕らえて何処かに送っている鬼婆は、戦場の跡の浄化にはなっているようですしねぇ」


 ナンか話しが変になって来ているような気もする。


「一番悪いのを御屋形様が滅ぼしましたから、ここら辺りに悪影響を起こす鬼婆は存在しませんよ」


 万穣神社の神様も気楽なものだった。善悪では無く自分達に利益であるなら気にしないようだ。


『相変わらず田舎の小神はのんびりしておる。

二社神社と松木神社も行ってみるか』


 水美が呆れ気味で言って来たので、お弁当を買って会いに行く事にした。


「良く来たな」


 松木神社の神様に弁当を持って行った。松木の神様は弁当の蓋を開けて喜んでいる。


「御神酒も有りますよ」


「済まんのう。気を使わせて」


 御神酒の方は早速飲み始めている。


「悪霊の事を聞きに来たのじゃろ?」


「実は、そうなんですよ」


「ここら辺りは問題無いな。おぬしが討った鬼婆が出した悪霊は妖怪達が退治したり他の鬼婆が黄泉に帰したりで、ほぼ片付いておる」


「戦場の悪霊を仕切っている鬼婆の事は知りません?」


「ここら辺りにも来ていたようだが、会っておらんのじゃ」


「さすがに鬼婆は神様に挨拶しに来ませんか」


「来ないのう」


 余り情報収集にはならない。


「二社神社の神の所で聞くと良い。あそこらは暇さえ有れば笹美の国と樫の国で戦っているので、悪霊も出やすいからな」


 という訳で二社神社に行く事になった。どちらの兵隊が居ても面倒なので透明になって行ったのだが、兵隊達は居なかった。


「神様、お久しぶりです。河瀬哲司です」


「河瀬の御屋形様か、久しいのう」


「これはお土産です」


 お弁当と御神酒をあげると、とても喜ばれた。


「嬉しいのう。こんな立派な弁当は久しぶりじゃ」


 神様が弁当の蓋を開けて喜んでいる。


「それで、今日は何の用件じゃ?」


「実は鬼婆ついて聞きたいのですが」


「ああ、最近ここら辺りに来ている鬼婆じゃな」


 やはり把握しているようだ。


「戦場で悪霊化し兵士を何処かに送っているようですけど、何処に送っているのか知りません?」


「あれか、兵士の国に送り返しているようだぞ」


「敵国ではなく自分の国ですか?」


「そうらしい」


「何故か知ってます?」


「怨みを持っている場所に返しているのではないかな」


「それが敵国では無く自国なのですか?」


「自分が戦場で死んだ時、偶然会った敵兵に殺されてその兵士を怨むのか? その敵兵士だって死んでいる確立は高いぞ」


「はあ」


「怨むとすると、自分をそのような状況に追いやった者や社会への怨みではないかな」


「なる程」


「飛んできた矢で死んだ者が、誰に殺されたか認識出来るのか? 乱戦の最中で死んだ者が誰を怨む?」


 神様は難しい事を考えているようだ。俺には分からない。


「あの鬼婆達に会って聞いた訳では無いがな。気になるなら探し出して聞くが良い。見つけるのは大変だろうが」


「黄泉の神様がやらせでいるのですかね?」


「知らん。黄泉とは関わりあいたく無い」


 バッサリと切られてしまった。二社神社の神様に礼を言って帰って来た。

 仕方無いので水神様に会いに行った。


「哲司殿、ご苦労様だな。何か分かったのか?」


「それが、どんどん話しが分からなくなって来てまして」


 河瀬の分家の悪霊は全滅した事と神様達に聞いた話しを説明する。


「なる程な。悪意の鬼婆と黄泉の使いとよく分からない鬼婆達が居て、昨日哲司殿達が悪意の鬼婆を祓った訳だな」


「そういう事らしいです」


「なら、暫く様子を見る事にするか。こちらには実害が無さそうだ」


「良いのですか?」


「良い。黄泉とは関わり合いたく無い」


「神様達は皆さん黄泉嫌いなのですね」


「あそこと関わると面倒でな。考えの根底が違っているように感じて来る」


「確かに現世の神様と死後の神様では考えが違っているのかもしれないですけど……」


 すり合わせもする気が無さそうだ。後は水神様に任せて、知世さんを引き取って屋敷に帰った。


「旦那様、知世はもう自由にしていて良いのですね」


 俺から見ると充分自由にやっていたような気がするのだが。


「分家の連中は全滅させたし、水郷境と水郷城に居る限りは絶対大丈夫」


 知世さんが凄く喜んでいる。

 晩御飯まで相当時間も有ったので久しぶりに夫婦仲を思いっ切り良くしたら、精気と妖力をゴツソリ取られてしまった。


「宣姫さんと善姫さんに約束が有るので、城に行って来ますね」


 自分だけ風呂に入ってモウロウとしている俺を置いて知世さんがサッサと城に行ってしまった。


『知世も大分健康になったようだな。後2~3年で子を産めるようになるだろう』


 水美が畳の上で倒れている俺を水の里に連れて行ってくれた。



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