第3章05話
第3章05話
あれから一週間、水郷城は大騒ぎだった。現実に目をつぶり、平和を楽しんでいたツケを払う時が来たような気がする。
「哲司殿、また依頼なのだが……」
「宜しいですよ」
「済まないな」
小者達の移住が止まらない。既に10000小者は引き受けている。
「水郷境の周囲の地域からは、陰陽師が居なくなったようだ」
「70人以上は退治したので逃げているようですよ」
「早くお前の言う事を聞いておけば、こんなに大騒ぎにならなかったな」
「違いますよ。奴等が環境を破壊し出してから3年以上経つてますから」
「そうだな」
「神様達も移住して来てます。水郷境の山や集落に祠を建てて入って貰っていますが、水郷境の開拓と開拓者を増やす事に合意して頂けませんか?」
「哲司殿の好きにやって良いぞ。水郷境が拡大すれば水郷城も広がるしな」
まさか神様達まで保護を求めて来るとは思ってなかった。
お百姓さんや木こりや猟師達が好意的なので助かっている。
「もう透き通って来ている神様達は見たく無いですよ」
「本当だな」
「予算的には大丈夫なのか?」
「私も知世も、それ程金がかからないので水郷境からの収入は止めてますので」
「お前は無報酬で働いているのか?」
「山賊とヤクザと陰陽師を狩るので、収入は十分にありますよ」
「気楽だな」
実は凄い収入なのだ。我が家の資産は増え続けている。
「水郷境も水郷城も活気が出て来ましたね」
「街は妖怪と獸人で景気が良いと聞く」
「今までは名も無い小者達でしたが、悪さをしない中者と言うか普通の妖怪が入って来ているぞ。天狗の里の商店街ですら妖怪がウロウロしておる」
「中途半端な6感持ちも仕事を求めて水郷境に来てますからね。笹美の国の方針と真逆になってますけど」
「中途半端な6感持ちは、どう扱っている?」
「開拓民しか無いと思ったら、職人さんが多いのですよ。お陰様で鍛冶屋とか板前さんとか大工さんが増えましたね」
「美味しい物が食べれるようになるのは嬉しいな」
最近は水神様も食べるのが好きになっている。
城の幹部会も幹部会らしくなって来ているがそろそろ《5年計画》くらいはやらないとマズい。
水郷境はやっているのだけど。両方はキツいのです。水郷境は部下が優秀だけど、此処は誰も居ないからね。
一時解散となり水の里に行った。休まないと持たない。水美が服を脱がせ風呂に入れてくれた。会議だらけなので3時間は稼いでいるので、ほぼ1日休める。
最近は水美手製の鱒寿司で息をついている。胃にもたれないので、凄く助かる。
『水神様の優柔不断が今になって響いているな』
『今、責めても可哀相だよ。河瀬の家さえ放って置かれたのだもの。足元から崩れる寸前だよ』
『何故それに怒らぬ?』
『俺は婿だし、そのお陰で知世さんに会えたし水美とも会えたからね』
『そう言って貰えると嬉しいな』
身体を休めていると水神様から緊急召集がかかった。服を着て慌てて水郷城に行くと、水神様と天狗さんが困った顔をしている。
「哲司殿、困った。善姫から緊急の受け入れ要請だ」
腰元らしい女性が水神様にひれ伏している。
「お願いで御座います。姫が頼田一漸に狙われ城内で孤立しております」
「どうする哲司殿?」
「水神様の気分次第でしょう」
「そう言うな。決断できんから相談しておる」
25歳くらいの綺麗な腰元さんが、泣きながら土下座していた。放って置いて殺されるのも夢見が悪いし……
「水神様、我々には笹美城の情報が全く無いので助けるのも一考です」
「……確かにそうだな……頼めるか?』
矢張り振られた。刀を抜いて妖力を通す。
「お腰元、俺を連れて飛べるか?」
「は、ハイ!」
俺は透明になって腰元に言った。
「すぐに行こう」
腰元さんが俺を連れて善姫の元に飛んだ。目の前に派手な色使いの陰陽師が3人立って居たので、出会い頭に真ん中の陰陽師を斬り捨て、左隣の陰陽師の首を飛ばした。
「氷球」
「氷球」
右側の陰陽師に氷球を撃ち、防御している間に右袈裟懸けに斬った。
出会い頭の奇襲で完全勝利だった。3人分の高位陰陽師から入って来る力は凄いものが有った。
「善姫ですか?」
後ろを振り向いて、腰元さんの隣で小刀を逆手持ちしていた女性に聞いた。
「左様です」
噂とは違って30歳くらいの清楚な美人だった。
俺は2人を連れて水郷城の控えの間に飛んだ。
「水神様、連れて来ました」
善姫は小刀を鞘に収め、水神様に礼儀正しく挨拶を始めた。
「笹美の国の善姫と申します。この度は殺される寸前に助けて頂き、有り難う御座います」
「良く参られた。歓迎しますぞ」
「此処におりますのはスミと申します。長く腰元として仕えている者です」
「今日は御苦労であったな」
天狗さんが善姫を見つめている。どストライクみたいだ。
『水美。天狗さんが』
『……みたいだな。放っておけ』
「頼田一漸に狙われておったのか?」
「ハイ。ですがそちらの若い武家殿に助けて頂き、頼田一漸配下の陰陽師幹部3人も倒してしまったので、頼田一漸も動けなくなることでしょう」
さっきの、ど派手陰陽師が頼田一漸配下の陰陽師幹部だったのか。たまたま奇襲で簡単に殺してしまった。どうりで大量の力が来た筈だ。
「頼田一漸が空間操作推進の張本人ですよね?」
「そうです。そして、あの3人があちこちに割れ目を作っておりました。そのお陰で笹美城の城下の空間は暴走しつつあります」
善姫受け入れで色々知る事が出来た。
「これで空間に割れ目を作れる陰陽師が減りましたので、水郷城の被害は少なくて済みますね」
「そうだな。哲司殿感謝するぞ」
「後は政治の話しですので、これにて失礼」
俺は飛翔でサッサと逃げ帰った。
屋敷に行くと、知世さんと宣姫が興味津々で待つて居た。
「旦那様、旦那様。善姫は?」
「30歳くらいの清楚な美人だったよ」
「清楚な美人とヤマコ……凄い!」
宣姫が完全に想像の世界に入っている。
「30歳くらいって若くないですか?」
「あっちでの10年は、水郷城みたいな場所で歳を取らなかったかもしれないし、分からないよ」
「ムフフな10年間ですね」
「宣姫が直接聞いてみたら?」
「母に殺されます!」
「10年で何人産んだのだろうな?」
一眼姫まで出歯亀に感染している。ピョコリ瓢箪までワクワクしている。
「馬鹿な事を言ってないで、水郷境の仕事の前に昼飯にするよ」
2人と2妖怪が万歳していた。
寿司屋に行くと善姫の話題はそっちのけで、食べるのに専念している。
俺は鯛と平目の刺身でビールを飲んでいた。
『水美は何を食べる?』
『妾は常に哲司と同じ物で満足だ。食べたければ水の里で食べれるしな』
『済まないな。こっちで食べると胃がもたれるみたいで』
『相当疲れているのだ。昨夜も妾に助けを求めたではないか』
『済まないな。知世さんに一気に抜かれると力が抜けて呼吸がし辛くなって……』
『知世の回復に追い付いていないのだ。良い思いをした後は我慢せい』
顔が赤くなってしまった。
『迷い人がこっちに慣れる方が大変なのだ。知世も安全に妊娠出来るようになるのに、もっと力が必要だしな』
最近は忙しいので水郷城で16時間、水の里には2度に分けて50時間近くの割合で過ごしている。水美に足して貰わないと身体が持たない。
『水郷境の5年計画が終わらないとね』
『そうだな』




