冗談のような結末
次の日、エーファ達が私達の部屋にやってきた。
「やはり、大昔の魔族の遺物であったらしいようね。おそらくは海底遺跡から流れてきたものでしょう」
突如、疲れたようなエーファと機嫌が悪そうなシルヴァン王が、この前の歪で手に入れた物体をもって現れた。
魔族の部下がエーファに情報を上げた時が、シルヴァン王といちゃついているときだったのかもしれない。
そんなエーファは更に続ける。
「しかも普通ならばこの歪はその場所から離れると歪の影響を受けなくなるのだが、これの場合、影響を受けたままだった。やはりこれの流れてきた場所は特に大きな歪がある……」
「あ、うん、大きな歪みがあるのは拓斗から聞いて知ってたかも」
それを私が告げた瞬間エーファがきっと拓斗を見て、
「だったら一番最初にそこの歪みをさっさと直せ!」
「亀ですら気づくような巨大なものにお前達が気づかないのも妙な話だが……確かに感じ取りにくいか」
拓斗がポツリと呟いたのだった。
その日はそのまま眠って次の日の朝食の席にて。
焦燥感溢れるフルールを抱きしめながらシリルが、海底遺跡に向かったら大きな歪みの修正が終わるので、元の世界に帰るかもと私が伝えると、
「結衣、帰っちゃうの? せめて僕達の結婚式までいてよ」
「……私、シリルはもう少しフルールさんの意見も尊重してあげるべきだと思う」
「結婚してどうやっても逃げられない事実をつきつけて、諦めさせてからね」
シリルはとても楽しそうだった。
そしてフルールはそこでふっと笑みを浮かべて、
「ここではない何処かへ……シリル様のいない場所に行きたい」
「残念だね、フルールの居場所は僕の側だけだから、フルールは何処にもいけないんだよ?」
相変わらず言っていることが鬼畜だなと私が思っていると、そこでフルールが抱きついてきているシリルを見て、そのままキスをした。
シリルがそれに硬直しているとそのままフルールが逃げ出して、それをシリルが追いかけていく。
何だかんだでフルールもシリルを受け入れつつあるようだった。
それを見送ってからちょうどお茶を飲み終えた拓斗が、
「そろそろ行こうか、結衣」
何事もなかったかのように拓斗が私に声をかけたのだった。
機嫌の悪そうなシルヴァン王と、まるで本物の救世主を見たかのような魔王エーファを連れて、現在海岸に来ていた。
本日は珍しく男性の部下も沢山いるようだ。
ちなみにエーファが心配だということで、シルヴァン王も付いてきている。
エーファ自身が心配なのか、それともエーファを他の男にとられるのが心配なのか、どっちの理由なんだろうと私は思わずにいられなかったのだが、口には出さなかった。
そして初め、エーファはシルヴァン王が来ることに反対だった。
「私は自分の身くらい自分で守れるわ!」
「……そうだな、知っている。だが今回は特に危険な場所なんだろう?」
「それは……」
「俺は、エーファが心配なんだ。大人しく守られていろ」
「な、何を……この。……勝手にしなさい」
そっぽを向いたエーファは耳まで赤くなっていた。
素直になれないエーファさんを、シルヴァン王が優しく抱きしめている辺りが見ているとにまにましてしまう私。
そんなシルヴァン王をいい加減うっとうしいとエーファが引きはがし、転送の魔法を使うエーファ。
そうして海岸に転送されて、海岸にやってきた。
白い砂浜が広がっているが、周りは黒々とした岩がいくつも連なる殺風景な場所で、海風が強い。
その内の何の変哲もない海岸線をエーファは指さして、
「ここから海にもぐるわ」
私はそう説明されるがどう魔法を使えばいいのか分からない。
そこで目の前の魔族たちが何やら呪文を唱えているが、複雑な感じだ。
「水圧とか空気とか、どうするのかな。一気に海底に行くと、圧力に身体が慣れていないからどうなるんだろう……」
「それは現実世界と同じだな」
「うぎゅ、私はどうすれば……」
水圧で潰れたアルミ缶やら、釣り上げられた深海魚のようになる自分なんて想像したくないと私は思った。
けれどそんなことを考えている内に気づけば拓斗が何やら魔法を使っていた。
「? もしかして、拓斗が魔法を使ってくれた?」
「ああ、この世界のものには基本的に干渉しないが、結衣は世界の外から来たから手助けできる」
「ん? だから私を守るついでに他の人達からもこの前の攻撃から守ったりしていたの?」
以前氷の攻撃を受けたとき私を守るという名目で、他の魔族達への氷の攻撃を拓斗は防いでいた。
けれど確かに私が関わらないことには拓斗は基本手出ししない。
「……この世界に干渉しないようにしていたんだ。出来る限り。でないと……以前のようになるからな」
「……そんな風に優しい拓斗が私は好きだよ」
私がそう言うと拓斗が嬉しそうに私を抱きしめる。
拓斗に抱きしめられると幸せだなと私が思っているとそこで、
「そこ、いちゃついていないでいくわよ」
拓斗のようにエーファに抱きつこうとしたシルヴァン王を手で押しのけながらエーファが、不機嫌そうに告げたのだった。
一応海上からも魔族の古代遺跡である巨石群は見えていたのだが、その歪みらしきものはその中でも一際大きな建物の奥深くにあるようだった。さらに、
「入り口が3つほどあるな。3つに分かれて行動するか。連絡用の道具はあるだろう? それで中も崩れているだろうしどの道を行けば歪みにたどり着けるか様子見しながら行こう」
エーファの提案で結局、エーファとシルヴァン王、私と拓斗、部下の魔族達の三人に決まった。
こう見えてもエーファは魔王というだけに魔族の中でも一番強いので、自分は一人で大丈夫だといっていたのでこうなった。
拓斗の次に私を除けば強いのはシルヴァン王で、戦闘の経験もある分これで分けるので十分だとエーファは言っていたのだ。
シルヴァン王はもう少し魔族の部下を貰って、エーファの守護に回したかったらしいが、エーファ自身がその魔族全員をまとめて相手してあしらえるくらい強いので、少しでも部下の危険が少ないほうがいいと言って、そうなった。
「それではまた後で」
通信機をエーファが私に渡して、その海底遺跡に入り込む。
それに私はかすかな嫌な予感を覚えたのだった。
石の隙間を入り込みながら、私は拓斗の方をチラチラ見る。
二人っきりなので拓斗が気になるというのももちろんあるのだが、
「暗くてドロドロっとした、変な薄気味悪いものに体を撫で回されている気がする……」
「それはそうだろうな」
呟いた私の疑問に事も無げに答える拓斗に、私はえっと振り返る。
「何で? どうしてそんな」
「ここの歪みは人や魔族の精神に作用したり物に取り付いて効果を発揮したりするもののようだ」
「何だか呪いみたい。でもどうしてそれの影響を私は受けないんだろう?」
「俺が歪みとはいえ結衣を奪われるみたいで許せないからだ」
どうやら拓斗が何かしてくれたらしい。
しかも独占欲の塊みたいな発言が何だか嬉しい……と思った所で私は気づいた。
「それじゃあ他の魔族の人達とかエーファさんとかシルヴァン王が危ないんじゃ」
「いざとなったら、というよりは結衣に攻撃を仕掛けてきてからそれをといてやればいい」
「……この先でもしかして全員合流するの?」
「ああ、そうだが」
どうやら拓斗はしっていたらしい。なので私は、
「教えてくれればいいのに」
「空気を読んだんだ」
確かにあの場では3つに別れようと言って、エーファとシルヴァン王がお互い想い合っているような会話があったと私は思い出す。
邪魔をするのはいけないような感じだったよなと私は思いながら、
「でもエーファさん達が操られてお互い殺しあいとか殺伐とした事にはならないか不安」
「魔力が全員強いから、耐性も高い。なので、殺しあいというよりは警戒心が緩んで本音を言ってしまう可能性が増大するだろうな」
「……エーファさん、耐えきれるかな。何となくあの人素直になれない感じだし。他の人にそういういちゃいちゃを見られたくないみたいだし」
「様子を見て出て行けば大丈夫だろう」
「……それもそうだね」
私が、そう答えながら先に進むのだった。
先程から妙な気配がして、シルヴァン王はそれを振り払いながら進んでいた。
だが、途中から沈黙したままのエーファにもう少し注意を払うべきだったのかもしれない。
気がつけば腕を捕まれその部屋の床に、シルヴァン王は押し倒されていた。
「いい顔ね、シルヴァン」
笑うエーファの何処か鬼畜そうな表情が気に入らない。
自分が捕食者になったつもりなのか、俺の獲物のくせにとシルヴァン王は心の中で思いながらも、公私は分ける主義のエーファがこんな場所でシルヴァンを襲うのはおかしいと気づく。
そこで押し倒したシルヴァンの上に馬乗りになり、エーファの口角が上がる。
「ずっと思っていたの、こうしてシルヴァンを自分の好きなようにしたいと」
「……それは城でも出来るだろう?」
「こういう場所でないと私に油断をしてくれないからね、私のシルヴァン……」
うっとりとした表情でシルヴァンの頬にエーファは手を触れて、そのまま唇を寄せてくる。
エーファが自分からキスするなんて珍しいとシルヴァンは少し期待していると、
「あ、拓斗、エーファさん達いる……えっと」
私が現れた。その私を見てエーファは、
「……部下に誘う?」
と、小さく首をかしげてエーファはシルヴァン王の前で呟いた。
シルヴァン王がそんなエーファを見ながら一言。
「エーファ、戻ったら、もう俺以外に目が行かないようにさせてもらおうか」
その低い声に含まれる怒りに気づいたエーファが、ぶるりと体を震わせる。
同時に、エーファの体から黒い靄のようなものが逃げ去るように這い出ていったのだった。
どうやらシルヴァンへの恐怖がエーファの歪みの洗脳に勝ったらしい。だが、
「そこの結衣という生物が周りの奴らを惑わすのを、我が神は放っておいて良いのですか」
何故かシルヴァン王が拓斗に八つ当たりをしていた。
ちなみにシルヴァン王は、私に嬉々として走り寄ろうとしていたエーファを抱きしめるように捕まえていた。
しばらく放しなさいよと顔を赤くして騒いでいたのだが段々大人しくなっていく。
なんだかんだいってエーfさんはシルヴァン王が大好きなんだなとほのぼのしてみていると、
そこで何故か魔族の部下達の一部が、私達の前に現れた。
「助けてくださいエーファ様」
「あいつらみんなおかしくなっているんです」
「前から好きだったんだとか突然言い出して、助けて!」
そんな彼らの後ろからゆらりとその他の魔族の部下達が現れる。
ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる彼らの瞳は、ぼんやりとしている。
それに逃げてきた部下達が悲鳴を上げてきてエーファに抱きつく。
部下に慕われているエーファだが、それはシルヴァン王には気に入らないらしく苛立ったようではあったが、そこで私が気になったことを拓斗に聞いてみる。
「拓斗、どうしてシルヴァン王はそれほど影響を受けていないの?」
「ああ性質が魔族の闇の力と正反対だからだろう。闇の力に関係していて影響を受け易いのかもな」
「……ところで歪みの修正の仕方は、これまでと同じ?」
それに拓斗が頷くので、しかたがないなと私はかけ出した。
やってきた彼らに、体当たりしながら私は歪みを修正していく。
おぼつかない足取りで、歩いているのでそれらは修正しやすい。
しかも数が多いので直しきれない魔族の部下が、私に暴力を振るおうと尖見えない壁に阻まれる。
拓斗が防御の手助けをしてくれえいるらしい。
さり気ない手助けに、私は小さく微笑んでからまた歪みを修正していく。
そして全員修正してから私は、
「この人達にまた歪みの影響が出ないように出来ないかな」
「……結衣を標的にする可能性があるから……この条件なら大丈夫だな」
そう言って拓斗が、エーファも含めて魔族達全員に魔法をかける。
そして、全員で更に奥を目指したのだった。
その場所は広間のようだった。
何となく綺麗に着飾った人たちが踊っていそうな場所である。
その中央で黒い球状の塊が浮かんでいる。
これで大きな目が出てきたら気持ち悪いだろうなと私は思っていると、
「結衣、これが一番危険な歪みの大元だ」
「そうなんだ。じゃあ、早速直して……」
拓斗の言葉に私は答えて、一歩一歩近づこうとするがそこで拓斗がはっとした。
「結衣、何かがこの歪みがおかしい。早く戻れ……」
拓斗が叫んで私のもとに走り寄る。
そしてその声に私が振り返るのとほぼ同じだった。
黒い球状の塊が、私へと襲いかかり、悲鳴を上げるまもなく私を飲み込み、しょうたに手を伸ばす拓斗も共にその歪みに飲み込まれてしまったのだった。
私達が飲み込まれて、焦ったエーファやシルヴァン王、魔族の部下達が外側から歪みの修正を行っていく。けれど、
「エーファ様、あまりにも歪みの量が多すぎて現状では全ての修正は無理です!」
「結衣とあの……拓斗様を引きずり出せるまで減らせれば十分です」
「……分かりました」
部下達にそう答えてエーファが修正を開始する。
意外にこの歪みの修正は高度な技が必要なのだ。
中に私という修正能力が外のエーファと上手く接続出来れば、外と内の両方で攻撃を仕掛けられるのだが、魔力の糸のようなものを飛ばしても私には先程から届かないのだ。
それが更に不安を誘う。
一応知り合いとなって気に入っているので、心配なエーファだがそこで、シルヴァンが歪みに向かって力をふるう。
その力で歪みの球の一部が消え失せるがそれでもその大きさが少し削られた程度だった。が、
「何をするんだシルヴァン! 歪みはもっと繊細な……」
「だが量が多すぎる。手間が掛かり過ぎるなら幾らか減らしてからのほうが効率がいい」
「それで別の影響が……」
「前に、エーファが歪みを直しに行くので、その時歪みを八つ当たりで壊したことが何度かあるから大丈夫だ」
「聞いてない! もっと繊細な……」
「だが特に問題なかったから副作用は小さなものだろう。それに中にいるのはあの神と神に選ばれた恋人だ。俺程度の力でどうこうなるとは思えない」
言い切って再び攻撃を仕掛けるシルヴァン王。
確かにこの量を直接修正するには時間がかかりそうで、その相手に起こる影響……ここから流れた遺物の影響を考えると放置するよりは元を断った方がいい。
「今はそれが最善かもしれないわね」
エーファはそう判断してシルヴァン王の助力を受け入れ、その黒い塊を攻撃し始めたのだった。
周りは真っ暗闇で、何も見えないと思っていた時期が私にも有りました。
こんな暗闇中でどうしようと私が不安に思っていた所で、何者かに腕を掴まれる。
「ひぃっ」
「……捕まえた」
その声に相手が拓斗だと私が気づく。
そしてそのまま拓斗に私が抱き寄せられて……周りが、ふっと明るくなる。
「拓斗?」
けれどその灯りに映しだされた拓斗はどこか虚ろな瞳で私を見ている。
私は嫌な予感しかしなかった。
だから掴まれた腕を振り払い逃げようとするが、その力はつよくて振りほどけない。
「ど、どうしたのよ」
「よし、この世界にこのまま結衣を閉じ込めてしまおう」
とりあえず抱きしめている拓斗の頭を私は軽くはたいた。
いったい何を言い出したんだこいつという気持ちが強かったりするのだが、拓斗の瞳は虚ろなままで先ほどの歪みの気配がする。
もしかしたなら、私を歪みから守る事で精一杯で拓斗が影響を受けてしまったのかもしれない。
よくよく考えれば、私は拓斗に甘えてばかりだった気がする。
確かにこの世界最強の力を使えるから、私自身もこの世界で最強の力を持っているけれどそれをどう扱うかが難しくて何時も拓斗に頼りっぱなしだった。
そして今も、エーファが教えてくれた力の使い方で私は拓斗の歪みを修正している。
そんな私が歪みを修正する事で、この世界は救われるのだ。
こんな人と人とがお互いを助けあいながら世界は回っていて、でもこの前までは拓斗に助けられてばかりなきがする。
だからこれからする事は、凄く緊張するけれど……今までのお礼もあるのだ。
なので私も拓斗に抱きついて、力を込める。
本当はもっといい方法を知っていたのだがまだそれに私は戸惑いがある。
そして私が拓斗を抱きしめるだけで、歪みを少しは止める事は出来たがそれ以上は無理のようで、拓斗の瞳はまだ虚ろだ。
もう一度すべきだろうかと思うが、同じ手が二度も通用するかと不安がある。
なので拓斗が私を抱きしめる手は力が抜けていたので、とりあえず私は拓斗から離れるよう後ろに倒れこむように下がる。
歪みは大きくてまたも今修正したばかりのものを拓斗にそそいで、支配していこうとしているように見える。
これではきりがないが、私の力ではまだ難しい。
何と過疎と連絡できないかと、この暗闇に手を伸ばす私。
そして運が良い事にシルヴァン王達が外部から削ってくれていたおかげでその手が丁度、私が意図せずその球の一番外に触れた。その時だった。
「見つけた」
エーファのその声とともに私は身体に駆け巡る何かを感じて、一瞬、意識を失ったのだった。
「私を見つけた。このまま中からこの歪みを修正する!」
エーファがそう叫んで、魔力を送る。
私の身体に植えつけた魔法を起動してそのまま私に与えられた拓斗の力を遠隔操作し、修正する。
変化は一瞬。その黒い球にひびが入るように光が溢れ出る。
同時に破裂音がして辺りに光があふれる。
歪みが修正されたと、皆が気づいていたのだがそこで現れた人影。
拓斗と私だが、拓斗の様子がおかしい。
どこかぼんやりとした瞳で私を見つめている。
「拓斗、様?」
シルヴァン王が疑問符をつけながら問いかけると拓斗がシルヴァン王を見た。
「邪魔したのはお前か」
「いえ、俺はそんなことはいたしません」
「私の時間を邪魔した。やはり……」
拓斗はそこまでしか言えなかった。
そこで私は目を覚まして拓斗のうつろな瞳を見て、ついでに自分の力の残量がとても少ないことに気づく。
更に周りにはあの黒い歪みは消えていて、多分拓斗の中に残っている歪みで最後だろうと考えて、そこで拓斗に私は自分からキスをする。
歪みの修正の仕方は私は知っている。
だからキスをして拓斗の力を奪いながらその全てを、拓斗を支配している歪みの修正してやる。
だって許せないのだ、私は。
自分の拓斗が、歪みなどというものに支配して取られそうになっているなんて。
全部受け止めやがれ! という気持ちでキスをしていると、驚いたような瞳で拓斗が私を見ていた。
それが気分が良くて、けれど力をそれで使い果たしてしまった私はそのまま倒れこんでしまう。
その倒れこんだ私を抱きとめながら拓斗は、
「全く私には、いつも驚かされるな」
いつもの様に戻った拓斗は、私を見ながらそう呟いたのだった。
一番大変な歪みの修正が終わり、私が目を覚ますと皆が心配そうに覗きこんでいた。
何でもあの後、私はまる二日眠っていたらしい。
最後のあの歪みはやはり私を助けるために油断していたのと、たまたま力を過信した拓斗だったので影響を及ぼしたらしい。
なのであの場で私が頑張ったのは良かったようだ。
そして、それからすぐに拓斗はこの世界の重要な歪みの修正は終わったと私に告げる。だが、
「歪みはいつも起こるからそれを口実に連れてきてやってもいい」
私にしても少し長くいたこの世界にまた来れると思うと、それはそれでいいかなとも思えた。
けれど一度はそろそろ現実世界に帰ろうという話になり、接触の多かった、シリル、フルール、エーファ、シルヴァン王に見送られる。
シリルは特に悲しんでくれて、
「えー帰っちゃうの! 妹になってくれるって言ったのに!」
「何時私がそんな約束をした!」
「でも、何だか結衣の事気に入っちゃったし。可愛くて楽しかったし。というわけでこの書類にサインを……」
そこに冷たい声が響いた。
「……シリル様。結婚前に離婚届にサインしていただけますか?」
「いやぁあああ、フルール、待って、待ってよぅ、今のは出来心で……」
「日取りも決まったのに、私は確かに結衣も気に入っていますが、他の女の尻をシリル様が追いかけているような方だとは存じませんでした。やっぱり離婚届けは作っておいて正解でしたね」
「……え?」
そこでにっこりとフルールが微笑んだ。
「何かありましたら、私が署名した離婚届を置いて実家に帰ればいいと気づきましたので、昨日役所でもらってきました」
「……しまった、手を打ち損ねた……」
「残念でしたねシリル様」
「で、でも僕が署名しなければ意味は無いよね!」
「……それで、浮気に対する私への謝罪は無いのですか?」
にっこりと微笑むフルールにシリルは涙を浮かべて、
「ぜ、全部結衣が悪いんだ! あんなに可愛いから……」
「シリル様……あまり私を落胆させないでください」
「……ごめんなさいフルール。結衣に手を出すとフルールが反応してくれるので嬉しくて手を出しました。ついでに好みで可愛くて初なので遊ぶと可愛いのでからかいました」
そんな理由で私は手を出されたのかと私は悲しくなった。
ついでに痴話喧嘩に巻き込まれたらしいことも。
ただ好意はあるようなので完全に怒れないのが、私には難しいというか、私のお人好しな性格では文句は言えなくなってしまう。
そこでエーファが私に抱きついてきた。
「エ、エーファさん?」
「やっぱり結衣がいい。癒される」
見送りの時も少しやつれたようなエーファなので、何があったか大体想像がついた私は大人しく抱きしめられていたのだが、すぐにエーファは何者かに私から引き剥がされる。
「……自分が誰のものかまだ分かっていないようだな」
「うう、ぐすっ。嫉妬深すぎてもうやだぁ」
「……じゃあ、もう少しこれからはエーファの言うとおりにしてやるよ」
「! 本当!」
「本当だ」
一見譲歩しているようなシルヴァン王だがその笑みに何かを私は感じ取る。
この人また何か企んでるなと思いながらも、エーファは空気を読んで黙っていた。
そしてまた、この世界にやってくると約束してその場を後にする。
自分自身がほどけていくな奇妙な感覚を覚えて、パチッと私は眼を醒ましたのだった。
私ははっと気づいた。
見知らぬ天井というか白い天井が見える。
けれどそれはすぐに、覗き込む拓斗に覆われる。
そうだ、確か私は、この恋人の拓斗と一緒に遊園地に向かって、維持を這って絶叫マシーンに乗って気絶したのだ。
多分ここは、遊園地の休憩室か何かだろうと思う。
そこで心配そうにのぞきこんだ拓斗が、
「大丈夫か? ごめん、何時までも気絶しているし、そんなに怖かったか?」
「よくも異世界に連れて行ったわね」
「! 覚えているのか?」
「何だか知らないけれどね。全く……私どれくらい気絶していた?」
「多分、20分くらいかな」
「……短い」
「夢の世界だからな」
「でも、夢の中の拓斗と、現実世界の拓斗はちょっと違うみたいな事を言っていなかった?」
「よく覚えているな。まあ、俺もたまたま覚えていたり呼んだりできる特殊能力があっただけだからな。今までみんなに秘密にしてきたが」
「そうなの? じゃあ拓斗の秘密を初めて知った他の人ってことになるんだ。何だか嬉しいかも」
にこっと私が微笑むと、拓斗は困ったように苦笑して、
「こんな風に簡単に受け止めてもらえるとは思わなかったよ」
「私の心が広いからかもね。でも居心地が良い世界だったな。また連れて行ってくれる?」
それに拓斗は頷いて、私も小さく笑う。
そしてその日は遊園地を再び回って、普通に別れて……。
いつもの日常が湯にも戻ってくる。
そしてまた、拓斗に連れて行かれてあの世界にも旅立つが、記憶を思い出した私に拓斗はからかって。
それをエーファやフルールと一緒に愚痴るのも私にはよくある日常になっていく。
もうこれは即席異世界トリップだよなと思う。
あまりにお手軽で、異世界が身近で。話し相手もいるし。
けれどそれもまた、私にとっては幸せでな出来事でもあったのだった。
「おしまい」




