転移? 転生? 3
園歌が小さい頃夢中で見ていた2人組みのアニメのキャラクターを思い出した。そういえば幸留ちゃん人形も、今思えばそのキャラクターの衣装だった気がする。
フリルたっぷりのフレアミニの白いワンピース。丸出しの鎖骨の下の胸元には大きなリボン。やはりフリルのついたブーツ。最初はメイドかと思ったがやはり魔法少女の方が近いかもしれない。
「こんな格好あんまりです……」
見ればゆかりさんの顔は真っ赤に染まっている。スカートのすそを引っ張って落ち着かない様子でつま先で床を叩く。
僕の衣装も大概恥ずかしいが彼女の場合、その年齢も考慮すればトラウマレベルの恥辱だろう。また凄く似合っているのが痛々しい。
口が裂けても似合ってますよ、などとは言えない雰囲気だ。
「慰めの言葉も見つかりません……」
「いえ…もう気にしないでください……裸でいるよりましですから」
「うん。よく似合ってる」
自分達以外の声に驚いて振り向くと、扉を開けて園歌の学校の制服を着た少女が観察者のような無表情な瞳で僕達を見つめていた。
「もしかして幸留ちゃんなのか? 」
「ちゃんはいらない。幸留でいい。ゆかりさん。似合ってる」
制服姿の幸留ちゃんはボーイッシュな感じのショートヘアーだが前髪は長く、何本ものピンで前髪を留めている。幸留ちゃんはやや猫背でだるそうに歩く。
「良かった。幸留ちゃん無事だったんですね? 大樹さんも美歩さんも心配してましたよ? 」
「ちゃんはいらない。心配も。パパとママに頼んだ。2人を私の部屋に連れて来る事」
「そうなのか。幸留ちゃんが……」
「ちゃんはいらない」
……なんだか感情が読みにくい子だ。
人形のようにその表情を変える事がなく、セリフも素人の声優みたいで黒い影のクルト・クニルより遥かに感情が読みにくい。
「着替え終わったら公爵様に会って。15分。公爵様は忙しいから」
そのぶっきらぼうとも言える物言いに思うところはあるが、クルト・クニルも言うように今は向こうの出方を探る必要がある。
「その前に聞きたい事が色々あります」
「道々話す。ついて来て」
ゆかりさん言葉にも棘が立っている。この状況では棘の立つのも仕方ないが、ここは幸留ちゃんに従い公爵様とやらに話を聞いておいた方がいいだろう。
何より現状を把握する事が第一だ。
「尽くんはあのままなら今夜には死んでた。ゆかりさんはもう10年も紗希を呪ってる。だから紗希と2人を引き離した」
僕達が彼女の後について部屋を出ると、いきなりの核心の話題から彼女の説明は始まる。
「今夜死んでたって? 僕はそんな切羽詰ってたのかよ! それにゆかりさんの呪いは旦那さんが亡くなって消えたんじゃないのかよ」
「呪いはゆかりさんが生きている限り効力を発揮する。園歌や椚良親子にかけられた呪いは反魂の呪い。魂の願いを反転させてしまう。最悪の呪い」
「願いを反転? 」
「紗希や園歌。ゆかりさん。魂の願いが何か私は知らない。けれど願いが反転して呪いは顕化する」
「ちょっと待ってください! じゃあ、本当に夫を殺したのは私の呪いで……いまは紗希を、娘を呪い続けるんですか? 私は……」
彼女は僕が見ても分かるほど青ざめて震え、それを押さえ込もうと強く唇を噛む。
「たった今そう言ったじゃない。無駄な話はやめて」
「もうちょっと言い方を考えてくれ幸留ちゃ……幸留。その言い方はあんまりだ」
あまりに人間の感情を無視した情報の伝達に、僕は彼女を諌める。
「すまない。私は他人を気遣うのが苦手だ。気に入らない事があればいつでも止めてくれ。ごめんね、ゆかりさん」
何なんだこの謝罪は? 他人の感情どころか自分の感情さえどうでもいいと思っている様な徹底した冷たさに、僕の背筋がぞわりと汗ばむ。
園歌がものすごく頭のいい子だと言っていたが、天才とは贅肉をそぎ落とした者だと言う。彼女は感情という贅肉をそぎ落としてしまったかのようだ。
僕はゆかりさんの肩に手を置く。彼女の肩は冷たくなっている。何か言いたかったが言葉が出ない。
徐々に僕の手の平から伝播して彼女の肩を温める。彼女は僕の手に自分の手を重ねると「ありがとうございます」とだけ呟いて俯いた顔を上げた。
「続けていい? 」
ゆっくりと顔を上げる彼女を見て、幸留が僕達に顕微鏡越しにでも見るような冷静な視線を送る。
「ええ……お願いします」
そう答えたゆかりさんの震えは止まっていたが、まだ小さく唇を噛んでいる。僕達はまた幸留の後について歩き始める。
紗希ちゃんが小学生のような姿のままなのは、ゆかりさんの呪いのせいなんだろうか? 子供の成長を願う親の気持ちを呪いに変えた、もしそうだとしたら恐ろしくたちの悪い呪いだ。
陰湿と言ってもいい。
「同じ反魂の呪いを受けても。願いによって様々な形で呪いは作用する。かくゆう私も反魂の呪いを受けた。恐らくその呪いは園歌に向かう。だから園歌をこちらに呼ぶ事も。私があちらに帰る事も出来ない」
「幸留も呪われているのか? じゃあ君は園歌のためにこちらに残ったのか? 」
「半分はそう。私の魂の願いがなんなのか、私自身分からない。ただ園歌に向かう可能性が非常に高い。そうと考えただけだ。もう半分は好奇心だ。私の知らない世界に興味があった」
園歌の話をするときだけに彼女は僅かに感情を覗かせる気がする。僕の気のせいだろうか?
「ついた。ここに公爵様がいる」
僕達の目の前には豪華なドア、ではなく見慣れた襖がある。僕は目覚めた部屋の造りからここは西洋の城のような場所と考えていたが、先程歩いてきた廊下や目の前の襖を見る限り、和洋入り混じった文化の建物のようだ。
「こんな建物に襖とか。おかしいと思う。中も和室だからここで靴脱いで」
全く表情が変わらないので彼女の言う「おかしい」がどんな意味なのか測れない。人は言葉だけでなく、様々な要素を交えてコミュニケーションをとっていたんだと、彼女と会話していると痛感させられる。
頭がおかしいのか様式がおかしいのか面白おかしいのか、彼女がどう思っているのかさっぱり分からない。




