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馬鹿力男と美少女と

「お探ししました。我が君」




「…………は?」




 茜の目の前には超絶美少女が跪いていた。


 艶やかな光沢を放つ真っ直ぐな黒髪。

 薔薇色の頬に影を落とす睫毛は驚くほど長い。


 ---こりゃ、眼鏡を外した蘭子とイイ勝負……。

 何とも暢気な感想しか出てこない茜であった。


 

 先ほどまで夕暮れの街にいたのに、瞬きした後には広い部屋にいた。

 その空間はじめじめとした湿気が篭もって肌寒く、思わず身震いするほど。

 埃っぽい床には蛍光色の赤い線で複雑な円が茜を中心に描かれ、それに沿うように真鍮製の燭台が数間おきにぐるりと並んでいる。


 ここ、どこですか!?

 頭をフル稼働させても、なぜ自分がこんな薄暗い部屋にいるのかさっぱりわからない。 


「……永らくの陛下の不在、我ら魔族はこの世の光をひととき失いました」

 美少女は鈴の音のように透き通った声で紡ぐ。


「しかし此度の異界渡りの成功により、我ら魔界に再び月光が舞い降りたこと、このルツィーア・ドルタ=ノドール、ここに祝福いたします」

「……っ、ふざけるなよっ!ノドール!!」


 ---ドオォォオン!!

 落雷にも似た爆音が響いた。

 次の瞬間から、土煙が濛々と舞い上がる。


「これが陛下だと?あの美しく気高い陛下がこ、んなっ……!!」


 ゆっくりと視界が晴れてくる。


 そこには青年がいた。

 滅多にお目にかかれない美形。

 軍服というのだろうか。昔、蘭子から借りたマンガに出てくる登場人物が着ている服装に似ている。

『詰襟軍服は歴史萌えの必須アイテムよ、茜ちゃん!!』と妙に力説する蘭子の姿が思い浮かぶ。

 しかし、茜は別のことにぎょっとした。


 大人が楽に通れるほどのぽっかりと開いた穴。

 それを中心に無数の亀裂が走り、粉々に割れた壁が土埃となって空間を霞ませていた。

 しかも、青年が振り回したであろう腕一本によって、厚い壁が抉れていたのである。


「身の程をわきまえろ、若造。陛下の御前であるぞ」

 青年を一瞥することもなく、美少女は膝をついたまま冷ややかに言い放った。

「血迷われているのか、ノドール公!?こんなチンチクリンが陛下のはず……」


 兄が一人、弟が二人の福島家。

 口喧嘩は日常茶飯事である。唯一の女の子にもかかわらず、拳や蹴りが飛び交う環境の中で16年間、茜の戦闘力は着実に育まれていった。


「だぁれがチンチクリンだとぅ!?」


 言うが早いか。


 茜は青年の顔めがけて、それはそれは、見事な跳び蹴りをお見舞いした。




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