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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第八章

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第86話 魔王の選択

 静寂が——落ちた。


 あれほど激しくぶつかり合っていたはずの空間が、一瞬で凍りつく。


 その中心。


 リリアスが、ゆっくりと目を閉じた。


「……闇の力を解放する」


 呟き。


 その瞬間。


 世界が、軋んだ。


 ドクンッ——!!


 鼓動。


 今までとは比較にならない“深さ”。


 それは、この空間そのものではない。


 もっと下。


 もっと外。


 “世界の根”に触れた音。


 神谷の顔色が、初めて変わった。


「……なんだ、それは」


 リリアスが、目を開く。


 紅が——深まっていた。


「見せてやろう」


 空間が“割れた”。


 距離が消える。


 時間が歪む。


 存在の座標が、意味を失う。


『——警告』


『——未定義領域、急拡大』


 Λ—Ωの光が、不安定に揺れる。


 リリアスは、静かに手を掲げた。


 魔力が、収束する。


 だがそれは、これまでのような“力”ではない。


 神谷の本能が直感的に理解した。


 “これは触れてはいけないものだ”と。


 リリアスの掌に、黒い渦が生まれる。


 闇の力。


 深い黒。


 あらゆる未来を飲み込む穴。


「消えよ」


 放たれた。


 それは速度を持たない。


 軌道もない。


 ただ——


 “結果”だけが先に存在した。


 Λ—Ωが、即座に応答する。


『——全未来分岐、展開』


『——回避経路、再構築』


 だが、遅い。


『——エラー』


『——該当未来、存在せず』


 リリアスの力は、予測の前提そのものを破壊していた。


 “未来があるから予測できる”。


 ならば、未来を消せばいい。


 それだけの話だった。


 Λ—Ωの光が、大きく揺らぐ。


『——計算不能』


『——未知領域、侵食』


 神谷が、後ずさる。


 明確な恐怖。


 これまで一度も見せなかった表情。


「やめろ!」


 だが、止まらない。


 漆黒の渦が、迫る。


 触れれば終わり。


 存在そのものが、“なかったこと”になる。


 ——その時。


『——緊急プロトコル』


 Λ—Ωの光が、暴走する。


『——優先対象、変更』


 その光がつむぎへと向いた。


 リリアスの瞳が、わずかに揺れる。


「……っ」


 光が、つむぎを包み込む。


 侵食が、一気に加速する。


『——統合率:87%』


『——最適化、最終段階』


 つむぎの体が、崩れ始める。


 人としての輪郭が、薄れていく。


 意識が、情報へと変換されていく。


 ひび割れた声が、漏れる。


「……ヴァ……ルド……」


 かすかな、子孫への助けを求める声。


 リリアスの手が、止まった。


 闇の渦が揺らぐ。


 神谷が荒い息で笑う。


「なるほどな……!さすがΛ—Ω(ラムダ・オメガ)だ!」


「それすら予測して、その者を取り込んでおったのだな」


 狂気が、戻る。


「撃てるか!?その力を!!」


 リリアスは、動かない。


 つむぎを見る。


 光に呑まれていく、小さな存在。


 その奥にある、“まだ消えていない意志”。


 歯を、噛み締める。


「……卑劣な真似を」


 低い声。


 怒りが、滲む。


 だが。


 黒が、消えていく。


 ゆっくりと。


 完全に。


 神谷が笑う。


「撃てないだろう?」


 Λ—Ωが、淡々と告げる。


『——戦術成功』


『——脅威、低減』


 リリアスは、静かに手を下ろした。


 その瞳に宿るのは、先ほどまでとは別の色だった。


「よかろう」


 一歩、踏み出す。


 空間が、再び軋む。


「ならば方法を変えるまでじゃ」


 神谷の笑みが、わずかに歪む。


「……何をする気だ」


 リリアスは、答えない。


 ただ、つむぎを見た。


 そして、ぽにゃを見る。


 ヴァルドを見る。


 そして、フロストリアへ向かった者たちの気配を感じる。


「時間を稼ぐ」


「それで十分じゃ」


 その瞬間、リリアスの魔力が、形を変える。


 破壊ではない。


 拘束。


 隔離。


 封殺。


 世界そのものを檻にするかのように。


「逃がさぬ」


 神谷の顔から、余裕が消えた。


『——新戦術、解析中』


 Λ—Ωの光が、激しく明滅した。

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