第84話 凍土の導き手
光が弾け——
三人は、白の世界へと投げ出された。
⸻
フロストリア。
凍てつく大地。
視界のすべてが、白と蒼に染まっている。
吹き荒れる風。
肌を刺すような冷気。
呼吸すら、痛い。
「っ……寒っ……!」
ひかりが肩を抱く。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
ひよりはすぐに顔を上げた。
「……探さないと」
時間がない。
つむぎが——今も、侵食されている。
レグルトが周囲を見渡す。
「でも……どこを……?」
見渡す限り、氷と雪。
そして、先の戦闘による廃墟の残骸。
それらしい建物はない。
目印もない。
ひかりが歯を食いしばる。
「データセンターって言っても……」
「普通は目立たない場所にある」
「でも……ここは異世界よ?」
手掛かりが、ない。
「闇雲に探しても……」
ひよりの拳が震える。
「間に合わない……」
その言葉は、重かった。
現実だった。
どれだけ急いでも——
場所が分からなければ、意味がない。
風の音だけが響く。
無慈悲に、時間だけが過ぎていく。
ひよりの視界に、つむぎの姿が浮かぶ。
光に呑まれていく、小さな背中。
「……ダメ」
声が震える。
「こんなんじゃ、つむぎちゃんを救えない」
その時だった。
「——迷っておるな」
声。
三人が同時に振り向く。
そこに立っていたのは、銀髪のエルフだった。
雪の中でなお際立つ、静かな存在感。
風すら避けるように、その周囲だけが穏やかだ。
ひよりの目が見開かれる。
「セリオスさん……」
ひかりが呟く。
「どうしてここに……?」
銀髪のエルフは、ゆっくりと頷いた。
「森が震えておるからな」
その声は、静かで——
だが、底知れない深さを持っていた。
セリオスは、淡々と答える。
「我は森の守人」
「そして——世界の番人の一人」
「言ったであろう?」
一歩、踏み出す。
雪の上に、足跡は残らない。
「今、何が起きているかも当然知っておる」
ひかりの心臓が跳ねる。
「じゃあ……!」
セリオスの視線が、まっすぐに向けられる。
「探しておるのは—— 根源の演算核」
言い換える。
「サーバーラック、であろう?」
ひかりが、息を呑む。
「知ってるの!?」
セリオスは、わずかに口元を緩めた。
「無論だ」
「隠したのは、我らでもある」
その言葉の重み。
この場所が、ただの施設ではないと理解する。
“守られていた”。
意図的に。
ひよりが一歩踏み出す。
「お願い!場所を教えてください!」
声が、震える。
「今行かないと……仲間が!」
セリオスは、静かに見つめた。
その目は、すべてを見通すようで——
そして、頷いた。
「……よかろう」
背を向ける。
「ついて参れ」
その一言で、空気が変わる。
道が、示された。
ひかりが、小さく呟く。
「助かった……」
だが、セリオスは振り返らない。
「勘違いするな」
冷たい声。
「これは、そなたらのためではない」
足を止めずに続ける。
「“あれ”を解き放てば——」
「この世界そのものが終わる」
風が、強く吹き荒れる。
「故に、導くのだ」
ひかりは、前を見据える。
「それでもいい」
「止める」
セリオスの背中を追う。
レグルトも、ひよりも続く。
三人は、凍土を駆け出した。
⸻
その先。
吹雪の向こう。
ぼんやりと——
巨大な影が浮かび上がる。
山のような構造物。
氷に覆われた“人工物”。
ひかりの目が見開かれる。
「……あれが……」
セリオスが答える。
「そうだ」
「根源の巣」
低く、告げる。
ひかりは、足を止めない。
拳を握る。
「つむぎ……待ってて」
その瞬間——
遠くで、光が走った。
空が、歪む。
まるで世界のどこかで、“何か”が暴れているかのように。
ひかりが息を呑む。
「……もう、始まってる……」
セリオスが、静かに言った。
「猶予はない」
そして振り返る。
「覚悟はあるか?」
ひかりは、即答した。
「ある」
迷いは、一切なかった。
その瞳に宿るのは——
決意。
セリオスは、わずかに笑った。
「ならば——」
その手が、氷の扉へとかざされる。
「開くぞ」
ゴゴゴゴゴ……
氷が、軋む。
封印が、解かれていく。
ついに。
データセンターへの道が、開かれた。
⸻
一方その頃。
深層では——
リリアスとΛ—Ωが、激突していた。
そして。
光の中で。
つむぎの瞳が、ゆっくりと——
“別の色”へと染まり始めていた。
選択の時は、もう目前だった。




