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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第五章

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第49話 均衡の代償

 氷都フロストリアは、崩れ始めていた。


 上空を覆うアストレア連邦王国の軍旗。

 空中艦が放つ結界砲。

 魔導騎士団の整然とした進撃。


 対するフロストリア軍は、タリナ王国遠征の直後だった。


 負傷兵が多い。

 癒しの術は追いつかない。

 剣を握る腕は震え、魔導士たちの魔力は底をついている。


 一方的だった。


 氷の街路で、兵が薙ぎ倒される。


 防壁が破られ、塔が崩れる。


 まるで狩りだ。


 ――これを狙ったのか。


 至高位大魔導師

 アウレリア・ノクティスの瞳が燃え上がる。


「……グラン!!」


 氷塔の上に立つ若き分霊体へ、怒号が放たれる。


 青年は穏やかにそれを見下ろしていた。


「最も効率的な選択をした、あなた達と同じ……ただそれだけですよ」


 その冷静さが、何より残酷だった。



 アウレリアは杖を強く握る。


「儂の存在を忘れておるぞ!」


 空気が凍りつく。


 詠唱は高速。

 圧縮された魔力が空間を軋ませる。


 次の瞬間――


 極大氷結陣が展開。


 蒼白の閃光が地上を薙ぎ払った。


 アストレア軍の前列が、まとめて呑み込まれる。


 悲鳴すら上がらない。


 一瞬で千近い兵が消滅した。


 氷と共に、痕跡すら残さず。


 アストレア側に動揺が走る。


 だが。


 氷塔の上。


 若きグランは、ただ小さく笑った。


「……避けては通れないようですね」


 青い瞳が細まる。


「あなたとの戦いは」


「いいでしょう。相手をして差し上げましょう」



 アウレリアの足元に、巨大な魔法陣が浮かぶ。


 幾何学模様が幾重にも重なり、天空へと伸びる。


 古代召喚術。


 禁呪に近い領域。


「来い――」


 雷鳴のような詠唱。


「バハムート!」


 空が裂ける。


 漆黒の巨龍が姿を現す。


 天を覆う翼。


 星を飲み込む双眸。


 その咆哮が、世界を震わせた。


「お前に何ができる、グラン!」


 巨龍が口腔に光を集める。


 極大の破壊光。


 放たれた。


 氷都を越え、戦場全域を白で塗り潰す。


 視界が消える。


 爆音と衝撃。


 数秒、いや、永遠にも感じられる沈黙があった。



「……ふっ」


 煙の向こうで、笑い声がした。


 やがて視界が戻る。


 若きグランが平然と立っていた。


 無傷。


 衣一つ乱れていない。


 防御陣すら展開されていなかった。


 魔力の障壁も何もない。


 ただ、立っている。


「……何を、した……?」


 アウレリアの声が震える。


「バハムートの一撃だぞ……」


「魔法防御も無しで、防げるはずがない!」


 青年は、肩をすくめる。


「防いでいませんよ」


「受け止めただけです」


 青い瞳が、冷たく光る。


「この程度、防ぐまでもありません」


 アウレリアの背筋が凍る。


「ばっ…バカな…」


「僕にはそよ風にすぎません」


 淡々とした口調。


「キミじゃ、僕には勝てない」


「同じ至高位大魔導師という枠にいると思っているなら、それは誤解です」


 空気が震える。


「あの称号はね、双璧をなす二人の世界最高という枠で作られたんですよ」


「でも、僕の力は、そんな枠に収まりきらないんですよ」


 一歩、踏み出す。


「そして今の僕は、封印もない」


「老いもない」


「全盛期のままです」



「試してみますか?」


 青年が、静かに手を掲げる。


 新たな魔法陣。


 それは先ほどのアウレリアよりも深く、暗い。


 神話級召喚。


「オーディン」


 重低音のような詠唱。


 空間が歪み、異界の門が開く。


 片目の神。


 槍を携えた影。


 その存在が咆哮する。


「よせ……!」


 アウレリアの制止は、届かない。


 槍が振るわれた。


 光でも闇でもない。


 裁定の一撃。


 一瞬。


 フロストリア軍の中央が、空白になった。


 一万人の兵士が消えた。


 悲鳴も、血も、残らない。


 存在ごと。



 静寂。


 焦土の氷原。


 アウレリアの膝が、崩れる。


「……強い……」


 彼女の声が、かすれる。


 圧倒的。


 魔力の質。


 根本的な格が違う。


 理解してしまった。


 勝てない。



「殺せ……」


 誰に向けた言葉か分からない。


 だが、口からこぼれる。


 グランは、優しく笑った。


「そうですね」


 静かな足取りでアウレリアに近づく。


「あなたの役目は、ここで終わりです」


 青い瞳が、わずかに憐憫を帯びる。


「均衡のための犠牲」


 その手が、ゆっくりと持ち上がり、振り下ろすと共に至高位大魔導師アウレリア・ノクティスの姿は消えた。

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