初陣⑦
「さて…」宮崎と別れ路地裏のワープゲートにたどり着くと、中山が口を開いた。
「帰るとするかね…我らが令和時代へ…。」
ゲートの木枠に向かって手をかざす中山の背中へ向かって、楽人は言葉を放った。
「あの…中山さん…。僕、もっと強くなりたいです…。一人で怨霊を倒せるように…まだまだ必要なことがたくさんあるってわかりました…。また、鍛えてください…!」
ぼんやりと光りを放つゲートを背に、中山は楽人に向き直って言った。
「その心意気だ…少年…。戻ったら…覚悟しておけよ…」にやりと笑いながら、後ろへ向かって歩き出し、その姿が光に包まれて見えなくなった。
楽人とハクも中山に続き、光の中へ歩き始めた。
「ふむ…」
漱石は屋敷の中で次の作品について頭を悩ませていた。いや、次作のことを考えながらも、心は別のところにあった。
数週間前、漱石は気が付いたら病院のベッドにいた。医師の説明によると、家の近くで突風に巻き込まれ、頭を強く打って一時的な記憶障害になったとのことだが、命に別状はないそうだ。
その時の突風によって家の一部も破損したそうだが、災害被害とのことで行政と連携している専門の団体が無償で家の修繕をしてくれたらしく、漱石が退院した時には家のどこが破損したのかもよく見ないとわからないほど丁寧に直されていた。
しかし生憎女中のキヨはその時の災害に巻き込まれたのか行方不明になってしまったらしく、現在も捜索中らしい。気難しい自分にうるさく言わず、静かに寄り添ってくれるきよが行方不明になったことに漱石は心を痛め、また自宅近くの災害だったこともあり責任も感じていた。自分がしっかりときよを守っていれば…そう考えてもどうしようもないとは思いながら、その考えを払拭できずにいた。きよの留守の間だけでも世話をしてくれる新しい女中を探さねばとは思いつつ、どこかできよが帰ってくることを考え、知人に紹介を頼めないでいた。
そして時期を同じくして、しばらく家に泊めていたはずの3人の探偵たちも影も形もなくなっていた。泊めていたはずの部屋を見たが荷物などの痕跡も何一つなく、きよもいないことから本当に彼らを泊めていたかどうかすら疑ってしまうほどだった。もしかしたら脳を打ったことによってありもしない記憶が発生しただけかもしれない。しかし…
「それにしても…変わった探偵だった…少年と…軍服の青年、壮年の男性か…。なんだか私を守ってくれていたような…そうだ、猫だ。真っ白な美しい猫を連れていて…猫、か…」
漱石は文机に置いていた万年筆をゆっくりと手に取ると、原稿に向かって次作のアイディアを書き始めた。




