第16話 桃子2
~桃子2~
――遅い。
桃子はいら立ちを感じながら自室のベッドに寝転がっていた。今日は桃子の部屋で秋と映画をみる予定だったのに、とっくにその約束の時間は過ぎてしまっている。
もしかして、忘れてるとか。でもまさか。秋に限ってそんなはずない。
桃子は携帯電話を手に取り、秋の番号に電話をかける。さきほどから何度も繰り返している行為だ。
しかし、秋の電話は圏外なのか、はたまた電源が切られているのか、一度もつながらず今に至っている。試しに桜子にも電話をかけてみたが、やはり結果は同じだった。
「あーあ、もう」
誰に言うでもなく、桃子はつぶやいた。桃子はこの宙ぶらりんの行き場のない時間の過ごし方が苦手なのだ。
確か秋は旧校舎を見に行くと言っていた。もしかしたらそれに夢中で時間を忘れているのかもしれない。いや、むしろその可能性が高い。
――もしかしたら、愛想をつかされているのかも。
それは前から不安に思っていたことだ。桃子は秋と桜子に依存していることを自覚していた。
桜子は姉妹なのだからそれでも良いと楽観しているが、秋は言ってしまえば他人だ。秋にだって友達がいるし、友達との時間を大切にしたいと思っているだろう。
それなのに、桃子は秋を独占しようとしている。これではうんざりされてもおかしくないのだ。
そんなことを考えていると、ふいに花の顔が桃子の頭の中に思い浮かんだ。
――あの人も、私のことを邪魔だと思っているだろうな。
花と秋が色恋の仲にあるといううわさは桃子も耳にしたことがある。
以前、そのことについて桜子に話したことがあるが、桜子は、
「あの二人なら、お似合いだね」とほほ笑んだだけだった。
全く。桜子は本当にお人好しなんだから。
恋愛というものはきれい事では片づかないのだ。自然、人の弱い感情がからんでくる。その中で如何にしたたかでいられるかが勝負の分かれ目だというのに。
姉の桜子にはそういった気持ちがまるで足らない。何せ、一歩引くのが美学だと信じている人だもの。
――とはいえ当の桃子も、今の秋との関係が壊れるのを恐れて一歩踏み出せずにいるのだが。
何が交換日記よ。時代錯誤もはなはだしいわ。
桃子は脳裏にちらつく花の顔をふり払う。秋と花が交換日記をしているということは知っていた。日記というよりは会話帳らしいけど。
あーあ、もう。
桃子はさっきからずっと考えていたことに気持ちを向ける。何度もそうしようと思っているのだが、ある理由によってなかなか決心がつかないのだ。
でも、こうなったら、もう行くしかないか。そういえば、桜子が私に本を選んで持ってくると言っていた。
どうせなら自分で選ぶのも悪くない、か。
桃子はそれでようやく決心がついた。でも、
――やっぱり、めんどくさいなあ。
そんなことを思いながら、桃子は一人ため息をついて立ち上がった。
次回は本日20時更新です。




