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To the world その網にかかったモノは

 私達がDungeonの調査から戻る頃には、本部の建屋はまあまあそれなりにほぼ完成しており、私は真新しい所長室で業務にあたる様になった。これからデネブラウの家は揉めに揉めて、そんな所に居ては仕事どころでは無くなるので、予定通りに施工が進んで助かった。


 そしてその時はあっという間に訪れ、私とアルバは、同じ日に最初で最後の出産を経験した。

 生まれた子供はどちらも予知通りに人間種の女の子で、その日の内に意図的に取り替えられ、私はアントニオとアルバの子を、アルバはウェルと私の子を育てる事になる。それぞれ名前は、私の娘がベアトリクス。アルバの娘がルシアだ。


 今はお互いに相手が腹を痛めた子を抱いて向かい合っているのだが、これが何とももどかしい。

「マリア様······その······良いですか?」

「良いわよ。ベアトリクス、アルバお母さんのところに行こうか? ───ルシア、マリアお母さんのところへいらっしゃい」

 そして子供を交換すると、履き慣れた靴が足に馴染む様に、使い慣れた櫛が手に馴染む様に、まるで失った半身を取り戻したかの様にしっくりと馴染んでしまう。

 馴染むと言う事は再び戻す際には、引き剥がされる様な心の痛みを伴い、私の犯した業の深さを思い出させてくれる。



 そして月日は流れ、白く閉ざされた世界が新たな芽吹きを迎える頃、私達のGUILDはマグナオルド王国全体に勢力を拡大していた。

 GUILDの勢力は、全員が国家に牙を剥けばの前提ではなるが、既に一国の軍事力に匹敵する域に達している。これには流石に国も黙っては居れず、私に王都へ出頭する様にと令状を寄越して来た。

 当然それは受けるとして、私は王都の常置の正規兵約500名に対し、全国の支部から忠誠心や戦闘能力の高いの冒険者236名と、使役する魔物10体を集め、国が脅威と感じている情報網と連帯感と組織力から成る大戦力を引き連れ、王都へ行ってやった。



 武力と富が中央に集中しているこの国では、王都に住むのは王族と兵士と貴族が殆どで、王都に居る農民だけでは食料を自給できず、各地からの貢物と商人が掻き集めて来た商品で生活が成り立っている。


 この構造には支配者が気にも止めない問題があり、武力が王都に集結している為、地方の領主が武力行使を依頼しても対応が遅く、それにより其々の領は私兵を組織する事や徴兵を掛ける事で、山賊や魔物に対応している。

 税として納める農作物、食品、日用品の量も馬鹿にはならない。デネブラウ家を実質掌握してからは領の運営にも携わる様になったが、地主に対する過酷な要求と王都への不満と苦労は理解出来た。


 私がこれから見る他所の国にも何かしらの問題は有る様だが、この国は目に見えて偏りが酷い。良い所は他国に比べて、其々の領の小作農の人数が多い事だろうか。それも納税要求を満たすための策なだけなのだが───。

 そこに出て来てしまったのが私達のGUILDだ。私達は国家の武力が担うべき所の代替に見事に合致して、外敵の脅威を退け、特に田畑への被害を減らした事で農作物の量に余裕を作り、領主やそこに住まう人々の多くの支持を集めてしまった。国としては実に歯痒い事だろう。



 王都の外でGUILDの冒険者と軍が睨み合う中、私はウェルとフムス、それとカゲを連れて王城で会談に臨む。まだまだ私程度の小娘には王族が直々に出向くなんて事は無く、顔を合わせるのは偉い御役人様達だ。

 まだまだ舐められてはいるが、もしここで私を亡き者にすれば、瞬く間に冒険者が王城に向かって雪崩込み、大打撃を受ける事になるのは容易に想像できる様で、会談は実に平和的に進んでくれた。

 国からの要求は“国家への貢献”で、私からは“国家からの公認”を求めた。私達の武力による圧力が無ければ要求が“国家への従属”になるのだから、まあ何とも現金な事だ。

 私達GUILDは実に良い成果を得られた。“マグナオルド王国の公認”、これが有る事でGUILDは国の名前を堂々と使って他国と交渉できる様になった。



 マグナオルド王国は東西南の三方に隣接する国を持つ。東はバッケルハール、西はアロンデバル、南はベルメック。その何処もが緑豊かな魔物の世界に、偶然見つけた比較的安全な開けた平野を中心に人が集まり、開拓を進め国家を成してきた様だ。

 隣り合った腐れ縁で表面上は仲良くして居るが、国境代わりの魔物の森の中に、水や開拓が容易な場所を見つけては偶に領土争いを起こしている。

 私が手を付けるのは、先ずはこの三国の何れかからだろう。───いや、同時並行的に話を進めるのか。


 流石に行き成り端っこの村や町で営業をしてしまうと、侵略行為とみなされてしまうので、先ずは各国に書簡を送り、国の首脳部との面会の場を作るところからだ。

 書簡にはこれでもかとGUILDを受け入れる事の利益を書き記してやった。不利益なんて地方が武力を持ってしまう事だけなので、それは其々の国が上手く民と付き合って行けば良いだけの事だ。



 先ずは予知通り南のベルメック王国から返事が来た。ここは南方がベッタリと魔物達が闊歩する開けた住みやすい地域に接していて、国の南方の人々は兵役に就くのが義務だ。なので「そんなモンは要らん」の回答が来た······まあ、そんな意志は直ぐにひっくり返る。


 次は西のアロンデバル王国からの回答が来た。東は舐めた事に返事を寄越さない、なので最初の足掛かりはアロンデバル王国になる。それでも中々気の長い話で、面会の実現は一冬越えてからになるのだが。



 アロンデバル王国は比較的柔軟で、先ずは私達の言うところのDungeonがある北西の町に、試験的に導入して貰える事になった。マグナオルド王国から随分遠くに離されたが、これは私達GUILDが怪しい動きをした時に一気に潰す為だろう。勿論私はそんな事が起こらないのは知っている。


 未来視で予習できる私と違い、ウェルやフムス達は文化の違いに苦慮する事になった。シノビ達カゲは精鋭なだけあって順応は早かったが、その中でも一番の問題は言語だった。

 末端の帰属意識の低い一般人を除き、互いが互いの国家に誇りを持ってその言語を使っている為、どちらかの言葉に合わせようなんて話にはならず、意志の疎通を取るのに莫大な労力を費やす事になる。

 その軋轢を埋めるため互いの摺り合わせ───では無いから、これは······架け橋か? 私は何処の国の言語でもないグレイスの国の言葉、Englishを両国の架け橋に使い交流を広めていった。


 魔物等の固有名称はそれぞれの国や地域で定着しているものがあり、アレだコレだと中々に的を得ない話が繰り広げられる。

 私は作った図鑑と合わせて、グレイスが読んだ本の中から似通ったMonsterの名称を充て、それをGUILDの正式な名称として扱った事で、意志の疎通と情報の収集が円滑に出来るようになっていった。


 魔法に関しても問題が山積していて、各個人のてんでバラバラな名称と魔法の造形により、誤認からの被弾の事故が相次いだ。そこで魔法も体系化し、魔法の名称と造形を統一して、GUILDで無償で指導する方針をとった。

 魔法がさっぱりな私には分からないが、名称は使い慣れた自国の言語の方が効果を連想し易い為か、そこにEnglishはあまり定着する事はなかったが、それでもマグナオルド人とアロンデバル人の混合Partyの場合は、Englishによる連携で多大な成果を上げる事が出来た。


 そしてアロンデバル王国のその町は、Dungeonを基幹としてそれに伴う産業が活性化し、只魔物に怯えるだけのろくに税を納める事の出来なかった町の長の態度が、財務官に対してちょっとだけ横柄になった様だ。

 私はその成果を引っ提げて、アロンデバル王国の各地にGUILDの支部を展開し、カゲを使いバッケルハールとベルメックに情報工作を仕掛け、競争心を焚き付けられた両国はGUILDを受け入れる様になった。



 4カ国に跨り事業展開していれば、集まる情報の量は馬鹿にならない。しかし量は有るが殆ど馬鹿げた性も無い様な情報ではあるのだが、その中でもDungeonの情報は興味深い。

 過去にも遡って情報を集めていると、現在確認されているとあるDungeonと類似したDungeonが、過去にも存在していたのだ。それとDungeonに近寄らない様にしていたら、いつの間にか消えていたと言う事例もある様だ。

 そうなるとDungeonは一定周期で移動をしている可能性が出て来たのだが、しかし私が知る事が出来る限りの未来では、Dungeonの生態の解明に至り、私の知的好奇心が満たされる事が無いのが残念である。



 建屋が完成し、多くの職員を抱え賑やかになったGUILD本部の職場でいつもの様に仕事をしていると、1つの資料の束が目に止まった。

「魔物達の領土付近で集落の壊滅······か。なんかこういうの最近よく見るわね」

「そうですね。───そうだマリア様、これにも目を通してみて下さい。その集落の壊滅の前に凶暴な魔物の群れが確認されていた様です」

 私はアルバからその資料を受け取り、早速2つの資料を照らし合わせた。


「はぁぁ、これはどう考えてこの凶暴な魔物が原因よね。───しかもこれって西へ移動してる?」

 魔物の報告と集落の壊滅は、報告書に書かれている時期を追うと相関が見られた。

「マスターマリア、こっちにも同じ様なのが有りましたよ。どこだったかなー」

「私も見た! 私が見たのは食害だったかな? なんか集落の人達も食欲が増して二重苦だったって!」

「あ! 有りましたよー。───······わぁお! ど、どうぞ!」

「何、どうしたの? ───······わぁおって、貴女これ、そんな事言える内容じゃ無いわよ。でも、これは何とも······ここに住んで居なくて良かったとしか言えないわね」

「どうしたんですかマリア様?」

 資料の内容は“魔物や獣や人までもが、そこら中で種族問わず交尾している”だった。アルバに資料を渡すと、程なくして何とも言えない言葉が上がり、資料は職員の女の子の手をたらい回しにされて行く。


 私は最初の資料を再び手に取り目を通す。報告は今のところアロンデバルからのみ上がって来ている様だ。

「この流れ······次はベルメックに来そうね」

 このところ、此処ぞと言う時以外は未来視は使っていない。それは仕事の最中は別室でヘレナに預けている、ルシアとベアトリクスの成長を見てしまわない為だ。

 二人が無事成長することは既に知っているが、それだけで良い。私の復讐の為に生まれて来た子達でも、彼女達の些細な成長や、些細な言動がとても喜ばしいのだ。


 私はもう一度資料を見やり、そっちに意識を集中させる。

「───必要なのね」

 私はベルメックの南西の町に、シノビ率いるカゲを調査に向かわせた。

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