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Seven deadly sins 根源たるもの

 GUILDの事務所には私の自作のカレンダーがある。12ヶ月365日のカレンダーだ。

 が、私は何故1年が12ヶ月365日なのかを説明できないし、マグナオルド王国では1年の始まりの宗教行事を起点として、国王が新しい年の始まりを宣言する。そして目に見えて形を変える月を使って日を数えるので、私の名画を添えたカレンダーは、GUILD内のみの使用に留まっている。


 私は皆が「亡者の行進」と声を揃えて言う、炎天下の中、農夫達が汗を流す絵が描かれたカレンダーに目を向ける。今日は9 August、シノビ達が発って10日。そして帰って来る日だ。

「ねえ、医療品に欠品は無いかしら?」

 私は棚の奥に追いやられている医療品を引っ張り出す様に、それとなく指示を出した。


 事務仕事メインの本部では殆ど用が無く、点検しなくても使ってないんだから減ってない事は誰にでも分かる。重傷用のなんて特にだ。 

 一番近くの席の女の子が渋々立ち上がり、棚から包帯やら薬やらを取り出して机に並べていく。そして女の子が包帯の包装布を外した最高のタイミングで、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

「大変です! シノビ様が大怪我を! 早く手当をするものを!」

「貴女、それを持って早く行きなさい!」

 私は偶然包帯を抱えていた女の子を走らせ、他の子には切創用の軟膏と、化膿止めの軟膏を持たせて後を追わせた。


「マリア様······こうなると知っていたのですか?」

「ええ、非道いでしょう。でもこの犠牲が無いと、ウェルも貴女も······もっと大勢が命を落とす事になるわ」

「······心痛お察し致します。配慮が足りませんでした」

 私はアルバを連れて玄関に向かう。しかし本当に心が痛い······GUILDの発展の為に犠牲は当然だと、平気でそう判断出来てしまう壊れた心が痛い。



 玄関では傷だらけのシノビが床に寝かされ手当を受けていて、私の姿が目に入るとシノビは上体を起こした。

「申し訳有りません姫。姫より預かった隊員を、全て失ってしまいました」

「後にしましょう。今は手当を受けて下さい」

「······承知。では某の息がある内に、横になって話させて頂きます」

 息がある内になんて言ってはいるが、シノビ自身の応急手当が良かった為か、話す事自体は苦になっていない様だし、薬を塗って安静にしておけば明後日にはすっかり治っている。

「そんなに重要な話なのですね。では聞きましょう」

 妻役のアルバが横になったシノビの手を握り、私はシノビの傍らで耳を傾けた。


 曰く、指定された村の周辺に野営地を設営してから二日目に、村の男同士の喧嘩や夫から妻への暴力が多発した。調査しようにもシノビ達に対しても些細な事で怒り出し会話にならない。更に忍耐強く鍛錬されたカゲの隊員も、驚く程に気が短くなっていた。

 三日目の朝になると、魔物や獣の威嚇の声に起こされ、不快感から物に当たり散らす隊員が現れた。それが切っ掛けで、シノビ隊は仲間の言動に些細な事で怒り、武器を取り、殺し合いが始まった。


 何とか一命を取り留めたシノビは村の様子を見に行った。そこも村人同士の凄惨な殺し合いが行われた後で、更に魔物や獣も紛れ込み、村人の生き残りと怒りのままに争っていた。シノビが村人の加勢に入ろうとすると、村人はシノビに罵声を浴びせ、シノビはそれに激昂した。

 そしてシノビも殺し合いに参加しそうになったその瞬間。さっきまでの怒りが嘘の様に、ハッと我に帰ると、同時に急激な脱力感に襲われ、暫くの間シノビも村人も魔物も、ただ無気力にその場に佇んで居た───



 私は件の資料に目を通している。私は明後日にはベルメックの南西に、その奇怪な現象の調査に向かう。しかし困った事に未来のヴィジョンが鮮明に見えない。きっと私の想像を超える何者かがそこに居るのだ。

「───魔石の様な一本角のあるゴブリンね」

 資料の中で一際気になるのはこの記述だ。魔石は魔力の結晶と言われていて、魔法を使う際の補助にも使われる。その辺に落ちていたり、大事にしまっておいても勝手に消耗して消えてしまう事もある変な石だ。

 それの様な角······確かに未来のヴィジョンでもそれらしき魔物は見える。だから何だと言うのだ───


「角······か」

 人類の魔人種の中にも、額に一本角を有する種類があり、その人物がPartyに参加すると、私達は壊滅する事になる。───何か関係が有るのだろうか?

「当たり前の様に使っていたけれど、魔力に魔法に魔石······魔物、それに魔人種······何処の国も、どれも“魔”にあたる言葉が入っている···関係無い訳無いわね。由来とか知ってる人居るのかしら? ······ひゃん!」

 私は突然尻尾を掴まれて変な声を上げてしまった。

「あら、ベアトリクス起きてたの? いらっしゃい、抱っこしてあげる」

「おかあさん、なんでわたし、おしっぽないなの?」

「何でかしらね? 欲しいの?」

「ほしい!」

「駄目よベアトリクス、人の物を欲しがっちゃ───あ」

 私は私が資料を見つける未来を探した。魔人種の種類は一本角、対の巻き角、被膜翼、翅、蛇尾、獣尾の6種類ある。

 そして今、怪しい事例が有るのは凶暴化と食害と乱交······その内の凶暴化と一本角は関連付けが出来そうだ。と言う事は他にも───

「ベアトリクス、一緒に捜し物をしましょうか?」


 私とベアトリクスは、整理整頓を怠けた結果の資料の山から新たに二つの資料を発掘して、合わせて五つの資料に目を通している。

 そして私の予想通りに、食害には翅、乱交には蛇尾、あとかなり地味な被害だが、際限無く膨れ上がる欲求を満たす為に手段を選ばなくなるのが獣尾で、妬みを起因に普段取らない様な行動をするのは被膜翼が、其々目撃される魔物に特徴として現れている様だ。

「seven deadly sins...」

 グレイスの記憶にある人を罪に導く原因······その戒め、7つの大罪───その内の憤怒、暴食、色欲、貪欲、嫉妬の5つが対応しているが、怠惰と傲慢の事例の報告書が無いし、魔人種の特徴も1つ足り無い。だが、今はいい───

 これはまだ───未来においてもまだ、私の仮説の域を出ないが、きっと魔人種は人の原罪を拡散している。

 そして次の敵は憤怒(Wrath)だろう─── 



 ベアトリクスは私の膝の上で仕事を怠けてすっかり眠ってしまった。私は、私の罪の象徴で最愛の娘を抱いて、天を仰ぎ、目を閉じた。

「我が母神よ、御身の子らを悪の魔から守り給え···」

 ソフィアの神は女神で、この世界はその腹の中だというのだから凄いものだ───と、グレイスが言っていた。

「Lord, to guard us...」

 私はグレイスの神へも「私達が悪魔に負けぬように、私達をお守り下さい」と祈りを捧げた。

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