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Anima Raw Craft —最弱アニマと譲れない僕らの青春クリエイティブ—  作者: 白草羞
第一章 『僕だけが灰色だった、あの春』

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第一章1  『ユズと、灰色の小さなやつ』

 「世界は良いモノで溢れている。」

 身の回りを見渡してほしい。日常を書き留めるためのペン、いつも自分の旅を共にしてくれるバッグ、空を見上げるとどこにでも飛んでいけそうな気がする飛行機。どんなモノにも作り手の方が、使う人の想いに寄り添って作り上げている。

 僕が作ったあの世界もそうだった。家の中にいてもボタン一つで国中を見て、触って、感じられる仮想世界。現実世界のありとあらゆる制約に縛られることなく、みんなが自由に自分の世界を楽しめる空間。

 僕一人では到底実現できなかった世界を傍観者のように見ながら、隣にいた灰色の小さなやつを思い出す。彼がいたから今の自分があるのだと…


***

時間を少し巻き戻す

***


 桜が舞い散る、良く晴れた穏やかな春。「この世界じゃ、誰でもアニマを持っている。」

 入学式の朝、僕——大成ユズは、最寄り駅の改札を抜けながら心の中でそう唱えた。別に誰かに説明しているわけじゃない。ただ、緊張をほぐすための、いつもの癖だ。

 物心ついた頃から、人の傍には必ずアニマと呼ばれる生き物がいる。姿は人それぞれで、大きいやつも小さいやつも、かっこいいやつもちょっと変わったやつもいる。アニマはその人の才能や個性が形になったものだと言われていた。強くて立派なアニマは、決まって何かが飛び抜けてすごかった。

 駅から続く坂道を登ると、校門が見えた。制服姿の生徒たちが吸い込まれていく。その肩や頭の上に、思い思いのアニマが乗っていた。七色の羽をもつ鳥。青白く発光する蛇。黒く鮮やかなエメラルドグリーンの羽をもつ蝶。みんな綺麗で、堂々としていた。

 僕は自分の左肩に目をやった。そこには、灰色の小さなかたまりがいた。丸っこくて、手足がやけに短くて、目だけがやたらと大きい。種族すら判別できない、なんとも言えない生き物。名前もまだつけていない。

 「……まあ、いいか。」僕がそうつぶやくと、そいつはぱちくりと目を瞬かせた。

 本当はよくはなかった。正直に言えば、ずっと気にしていた。幼稚園の頃から、僕のだけなんか違った。友達のはもっと凛々しかったし、兄貴のはもっと大きかった。僕のだけが、ずっとこの灰色の小さなやつのままだった。

 でも今日だけは、それより大事なことがあった。僕はポケットから折り畳んだ紙を取り出した。入学前から何度も読み返した、この高校のクリエーター科のパンフレット。端がもうよれよれになっている。

 滝澤みや美。パンフレットに載っているその名前の下に書かれた言葉を僕は暗記していた。「モノは、作った人間の意志を超えたとき、はじめて世界を変える。」

 この人の授業を受けたかった。それだけで、僕はこの高校を選んだ。校舎の中に足を踏み入れながら、僕は小さく息を吸った。灰色の小さなやつが、僕の肩でちょこんと姿勢を正した気がした。


 「ギィ……」僕は少し緊張気味に教室のドアを開けた。するとそこには、ポツポツと席に座ってなにかの設計図を書いたり、部品を組み立てているクラスメイトと思われる人たちがいた。なお、この高校は全国からモノづくりが好きな人が集まってくる形式のため、だいたいがこの入学式で初対面となる。

 やはり、先ほど校門近くで見たような立派な生き物が目に留まり、改めて自分の灰色の小さなやつに劣等感を抱いてしまう。

 それから何分かして、クラスメイトが全員集まったところで、廊下からどこか威厳のあるハイヒールの音が徐々にこちらに近づき、教室のドアを勢いよく開けた。

 「コツ……コツ……カツカツカツ、バンッ」間違いない。何度も穴が開くほどみたパンフレットに書かれていた滝澤先生だ。初めて直接見たが、何者でもない僕から見てもオーラがある女性だった。スタイルがよく、ハイブランドのオートクチュールかと思わせるような黒にゴールドのラインが入ったジャケットにパンツスタイルで、高さ10cmはあろう革のピンヒールを履いており、まるでハイキャリアな大物女優かのような出で立ちであった。唖然としていると、更に唖然となる一言が教室内に響き渡った。

 「入学式なんて何の役にも立たないものに時間を使う必要はない。今からこのクラスを二つに分けます。」と。


 ——僕は耳を疑った。これから入学式で校長先生のお言葉や学生代表からの入学への決意表明といった、新入生全員が気を引き締めて明日から直向きに頑張ろうと胸に誓う日になると心の準備をしていたのに、その入学式に出ないなんてあり得るのだろうか。両親も我が子の晴れ舞台を心待ちにしているのではないだろうか。

 すると、僕の心を読んだかのように、「心配はいりません。あなた方のご両親にはすでに了承はとっています。私に全て教育を任せると。それで、クラスを二つに分けるのは、見込みのある学生とそうでない者を振るいにかけるためです。私は見込みのない者に時間を費やすほど暇ではありません。振るいにかけて残った者のみ私のクラスに受け入れます。」

 「…」クラスメイトの大半が絶句している中、一人豹のような猫を相棒に持つやつが問いかけた。「どのように振るいをかけられるのでしょうか?」

 「話が早くて助かるわ。あなた達のアニマを見て選びます。高校生のあなた達の言葉は信用していませんが、あなた達の心を映したアニマは信用しています。」

 僕はまた唖然としたが、すぐに頭を切り替えた。「アニマが判断基準だと…そもそも滝澤先生にはアニマが見えているのか。」

 アニマは未成熟な子供に寄り添ってサポートをするのが本来の役割のため、子供の頃だけにしか一緒にいれず、大人になると自然消滅すると言われている。また、他人のアニマが見られるのもアニマを持っている人だけで、つまり大人には見ることができないはずだ。

 またもや僕の心を読んだかのように滝澤先生は発言した。「あまり公にはされていませんが、子供を指導する立場にある一部の大人にはアニマを見ることができます。実はあなた方のことはリサーチ済みで、既に誰が私のクラスになるのかも決まっています。今から名前を呼ぶ20人はこの教室に残ってください。それ以外は隣の教室にいき、別の先生の下で授業を受けること。」

 そして次々に名前が呼ばれていく。「久保川、宮城、太橋・・・、そして最後に志水。」僕の名前は呼ばれなかった。

 「なぜだ…それは僕が一番よく分かっている。けれど、憧れの滝澤先生の下で、世界を変えるモノづくりをしたくてここにきた。ここにいる誰よりもその想いの強さだけは負けないのに、なんでそれがアニマに表れていないのか。」と心の中で叫ぶが、内向的な自分は発言ができない。ここまできても感情を表に出せない自分に嫌気がさす。すると、目だけが大きい灰色の小さなやつと目が合った。

 思えばこいつとはこれまでこれといった会話はしてこず、ずっと左肩にのっかっているだけの存在だった。そいつがなにかを伝えたそうにずっとこっちを見ている。その本気の眼差しに僕は少し勇気をもらった気がした。

 「僕も滝澤先生のクラスに入れてください。」

ここまで読んでいただきありがとうございます。この物語は私の学生時代の苦労を昇華させ、読者の皆様にもどうか自分の人生を諦めないでほしいという想いから作りました。

このメッセージ性から、リアリティーを保ちつつ、どこまで小説としてのファンタジー要素を盛り込めるか考えた結果、いまのアニマという形に落ち着きました。私は現実の世界でも、アニマという形はなくとも皆様強い想いを持って生きていると信じています。そんな想いが少しでも花開く手助けになることを心から願っています。


第一話では私に大きな影響を与えた恩師との出会いを書きました。この後も個性の強いキャラクターをたくさん登場させたいと思っておりますので、ぜひまた読んでいただけますと嬉しいです。

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