第13話 二人の決意
私はジェラルド様の寝室に招かれた。
よく整理されており、本棚には難しそうな本が沢山ある。
天蓋付きの大きなベッドがあり、あそこで寝たら気持ちよさそうとちょっと思ってしまった。
なぜ招かれたのかというと、対ムゾンに向けた話し合いのため。
「ムゾンをどうにかして失脚させねばならない」
怒りに燃えるジェラルド様のお顔は美しい。
私は一つの提案をする。
「やはり、私がジェラルド様暗殺のことを公にすれば……。国中に、大々的に発表してしまうんです」
証拠はない。
しかし、現に毒人間である私がムゾンに育てられた、ムゾンに命じられたと騒げば、あいつだって決して無傷じゃ済まないはず。
だが、ジェラルド様は首を振った。
「ダメだ。他の方法を考えよう」
「なぜです!?」
「君にそれをさせたら、君が暗殺者だったことが広まりすぎてしまう」
「そうです! だからムゾンにもダメージを負わせることが……」
「それをやると、君を処罰せざるを得なくなる。それはダメだ」
「いいじゃないですか!」
「ダメだ」
有無を言わさない迫力だった。
嬉しいけど、他に手はないように思える。
「でも、それではどうやってムゾンを追い詰めるのです?」
「ムゾンについて、情報を一度まとめてみよう」
ムゾンはレグロア帝国でも、特に力を持つ貴族の一人である。
発言力や影響力はもちろん、それなりの武力も有している。
国の捜査官を派遣しても、尻尾を出す真似はしないだろう。
もちろん、何らかの大義名分をつけて直接倒してしまうという手もあるのだが――
「私の地盤が固まっていない以上、それをやると、国内の貴族の反発を招く恐れがある」
「それはそうですね……」
まだ若い皇帝が自分に対抗する貴族を大っぴらに暗殺でもしたらどうなるか。さすがの私でも分かる。
「やはり、奴の罪を暴くのが一番スムーズだ。それも奴から自白するような形で……」
「……」
ムゾンが自分から罪を自白する。
そんな方法があるとは思えない。
あるとすれば、あいつのことだから自分がピンチになった時しかあり得ないだろう。
自信たっぷりで、用心深さも持ち合わせているあいつをどうにかして――
ふと、私はある作戦を思いついた。
「あの……ジェラルド様」
「ん?」
「ジェラルド様とムゾンの二人で、会見することはできるでしょうか?」
「それは可能だと思うが……」
「では是非、あいつと会見して下さい!」
ジェラルド様は私を見つめ、思案する。
「なにか考えがあるようだな。分かった、セッティングしてみよう」
私の“作戦”を聞いたジェラルド様は、ムゾンへの書状を作り始めた。
内容は『いつまでもいがみ合っても仕方ない。一度腹を割って話し合おう』というもの。とても綺麗な字だった。
もちろん、ムゾンはこんな書状を額面通りには受け取らないだろう。
こちらに何か魂胆があることぐらいは用心するはずだ。
「だが、ムゾンは来る。君に平然と暗殺者を送り込んでくるあたり、私を軽く見ているのは明らかだ」
「はい、間違いなく来ると思います」
ジェラルド様を軽く見ているのなら、この“挑戦”から逃げるようなことはしないはず。
「あとはニーシャ、君が言った作戦を実行する」
「私があいつに抱いていた想い、全てをぶつけてみせます」
ジェラルド様がうなずく。
書状はまもなくムゾンの元に送られる。
後日、あいつから返事が来た。
ムゾンは応じるという。
会見は返事から来てから一週間後。
宮廷内の食堂で行われることになった。
こちらの作戦の第一段階があっさり成功したわけだけど、向こうからしてもこれはチャンスなのだ。
ここではっきりとジェラルド様に対する優位性を示せば、今後の権力闘争も有利になる。
逆に、ジェラルド様がこの会見でムゾンに気圧されるようなことがあれば、ただでさえ脆い地盤をさらに崩されかねない。
ムゾンに勝つには、ジェラルド様が人間としての力であいつを上回らねばならない。
「一週間後、あの悪魔を倒そう。二人で」
「はいっ!」
ジェラルド様が私に右手を出してきた。
「握手だ」
「握手……? でも……」
「いいから」
私は握手をした。
初めての時は手をかぶれさせてしまったけど、今はそんなこともない。
「君もだいぶ毒を御すことができるようになったようだね」
それはその通りだ。
ずっと訓練してたし、あの三人の治療によるものも大きいと思う。
「おかげさまで……」
「ムゾンを倒したら、私たちはきっと幸せになれる」
「はい……!」
そう、あの悪魔を倒して、ジェラルド様の皇帝の座を盤石のものにする。
それが私の幸せ。
一週間後、全てが決着する。




