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第10話 道化クロウ・ラートル

 朝食を済ませ部屋に戻ると、その人はいた。


「ヒャッホーッ!」


 派手な服に派手なメイク。

 ジェラルド様の道化クロウ・ラートル。

 皇帝のおそばにいて、楽しませるのが仕事だ。

 きっと心の中も派手なんだろうなぁと勝手に思ってしまう。


「おはよう、ニーシャ!」


「お、おはようございます……」


「とてもいい挨拶! 最高だ! だけど敬語は不要さ! ボクたちの仲じゃないか!」


 朝からテンションが高い。

 この人の役目はジェラルド様を楽しませること。

 だから、このぐらいでなきゃいけないんだろうけど。


「朝はあっさりしたものが食べたいね! ……なんてね! アッハッハッハ!」


 はっきりいって……ギャグセンスは無い。


 するとクロウはいつの間にか両手に赤い玉を持って、ジャグリングを始めた。とても上手い。五つぐらいのボールをホイホイ操っている。

 思わず拍手してしまう。


「ハハッ、ありがとう! ニーシャもやってみる?」


「いえ、私は……」


「さ、どうぞー!」


 玉を二つ渡され、強引にやることになってしまった。


「えーと、こう?」


 右手の玉を放って、左手でキャッチ、左手の玉を放って、右手でキャッチ。

 なかなか上手くいかない。


「リズミカルにやるのがコツさ」


 しばらく練習したら、二つの玉でのジャグリングはできるようになった。

 初歩中の初歩だけど、嬉しかった。


「すごいすごい! グレートだ!」


 褒めてくれた。悪い気はしない。


「ありがとう……」


「ボクもたまにはいいことするんだよねぇ~! ボールの扱いが上手いだけに!」


 クロウが何かを期待するような目つきでこっちを見てくる。


「え?」


「ああ、“たま”と“ボール”をかけたギャグでね……」


 クロウのギャグは面白いつまらない以前に、分かりにくい気がする。

 と、心の中でついダメ出ししてしまったわ。


「じゃあ、玉乗りしつつ、中庭にレッツゴー!」


 今度は直径1メートルほどの玉に乗って、クロウは移動を始めた。

 ギャグはともかく、運動神経は一流なのだろうと分かる。

 私も歩いてついていく。


「おっとっと、おっとっと」


 クロウはこけそうになることもあるが、そのたびに器用にバランスを整える。

 おそらくわざとやってるんだろう。大したものだわ。


 宮廷内の中庭に着いた。

 芝生が広がり、木々も庭師によって丁寧に整えられてある。

 素晴らしい光景だわ。

 一体ここで何をするんだろうと思っていると――


「じゃあ、ここにシートを敷いて……ダンスしよう!」


「え、ダンス?」


「へーい! へーい! へーい!」


 銀色のシートの上でクロウはいきなり踊り出した。手を振り足を上げ、かなり激しいダンスだ。


「さあ、一緒に!」


「は、はい」


 見よう見まねで私もやってみる。

 ダンスなんてやったことないから下手くそで恥ずかしい。

 だけど、なんだか楽しい。

 そして、ものすごく汗をかく。


「体が熱くなってきたわ……」


「そう、それでいいんだ! もっと汗をかいて! 熱くなろう!」


「あ、でも私の汗って毒で……」


「気にしない、気にしない! レーッツダンシン!」


「はいっ!」


 私もテンションが上がってくる。

 悔しいけど、クロウの異常なハイテンションに釣られちゃう。


「ホットになると、ホッとするよね!」


 ギャグに関しては無視する。


「アーッハッハッハッハ!」


 とうとう笑い出した。私もつられて笑ってしまった。


「ふっ、ふふっ……」


「お、笑ったね、ニーシャ!」


「別にあなたのギャグで笑ったわけじゃ……」


 つい言い訳してしまう。でも気持ちよかった。

 クロウには本当に人を楽しませる力があるのかもしれない。

 やがて私は汗だくになっていた。


「喉渇いただろ、水飲むかい?」


「ええ、ちょうだい」


「じゃあ、はい」


 クロウはどこかを向きながら、私が取りやすいようにボトルを投げ渡してくれた。

 私はボトルに入った水をグイッと飲む。

 とても美味しかった。

 運動後の水は格別だわ。


「美味しい……ありがとう」


「これぞ見ずに水を渡す!」


「へ?」


 クロウが解説を始める。


「今のは、水と“見ず”をかけたギャグだったんだー!」


 もうどうリアクションしていいか分からない。

 お願いだから、もっと分かりやすいギャグにして。


「じゃあ、ダンス再開!」


「うんっ!」


 この日は一日中ダンスをして汗まみれになった。

 私の汗はかなり毒が混じってると思うけど、シートのおかげで直接地面に触れることはなかった。


「どうだい、気分は?」


「うん……楽しかった」


 たっぷり動いたので、夕ご飯もとても美味しかった。

 私ったらお代わりまでしてしまった。

 運動は楽しい。ダンスは楽しい。クロウのギャグも……ちょっと楽しい。そう思える一日だったわ。

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