10-1 市場調査再び(?)
取り敢えず、オズバルド様とヘルムとアズの四人で再び侯爵領の中心地を巡る事が決定。そんな本日太陽が昇るのと同時にオズバルド様が現れました。……着替えてないんですけど。一応、淑女云々よりも着替えもせずに人前に出るのは恥ずかしい気持ちくらい、持ってますが。
アズがオズバルド様の背後から慌てたようにやって来て怖い顔で睨んでます。アズ、相手は公爵子息だから! そんな睨まないで!
「ええとオズバルド様、おはようございます」
「うん、おはよう。着替えたら早速、体力作りをしよう」
ああ……、朝早くの突撃は、それですか……。
まぁ確かに体力作りは大事ですけど……。睡眠も大事だと思うんですよねぇ。早すぎませんか……
「随分早くから、ですね?」
言外に早すぎですけど? と抗議してみる。
「朝食前に身体を動かせば、朝ごはんが美味しく食べられるぞ」
そうかもしれない。そうかもしれないですけど!
……違う、そうじゃ、ない。
どうしてだろう。オズバルド様の背後に居るアズの声無き声が聞こえて来た気がした。
オズバルド様なりに私を心配してくれているのは分かる。理解している。だけど! お願い、理解して下さい。睡眠も大事な体力作りの一環だと思うのです。
そう思いながらもオズバルド様の心配を無碍に出来ない私は、アズに目配せをして若干テンション下がったまま着替えて体力作りのために部屋を出ました。部屋の外ではオズバルド様が仁王立ちしてました。……いや、そう見えただけですね。でも多分、今か今かと待っていたのは確かでしょう。
「お待たせしました?」
疑問になったのは、私と視線が合った瞬間、視線を逸らされたからです。アレ? 待ってなかった? と、つい疑問になってしまいました。
「いや、待ってない」
これだけ聞くとあれだ、デートの待ち合わせで待った? 待ってない。今、来たとこ。っていう昔の恋人達の会話みたいだわ。……状況は全く違うけど。
「そうでしたか。では、よろしくお願いします」
オズバルド様は、此方をチラリと見て、うん、と頷く。なんで視線が逸れてんの? と思っていたらアズの笑顔とぶつかりました。……なんか黒いオーラ出てる気がするのは、私の気のせいだよね。
アズ、まさか。オズバルド様にお説教を……うん、していたね、絶対。アズのあの笑顔はそんな気がしてならない。触らぬ神に祟りなしって日本の諺があったねー。見なかったことにしておこう。
「お嬢様、おはよう」
「おはよう、ヘルム」
「オズバルド様が朝から突撃したんだって?」
困った人だなぁって視線をオズバルド様に向けつつ、ヘルムの問いに頷いておきました。オズバルド様はヘルムからも視線が逸れているので多分ヘルムからも小言を言われるとでも思っているのでしょう。フォローする気はないです、頑張ってね、オズバルド様。
そんなわけで、先ずは身体を解すことから始めます。ストレッチをして気付きました。どうやら私の身体は随分と凝り固まっているようで、身体が固いんですよ。無理やり手足を伸ばすと痛いです。それで思い出したのは、長年使用していた背丈に合わないベッドのこと。あんな窮屈なベッドで寝ていたのです。時折手足を伸ばす程度じゃあ意味が無かったのでしょう。つまりまぁ、全身が凝るわけです。
そうか。私の身体は此処から既にボロボロなんでしょうね。よし、伸ばしましょう。
……結局、全身を伸ばすだけで精一杯でした。いや、それだけでもう疲労困憊なんです。どれだけ体力無いんだ、私。でも。オズバルド様の言うように、朝食は美味しく食べられました。いつも以上に。
「ネスティー」
オズバルド様に呼ばれて視線を向ける。朝食も終えて一息ついた所。
「今日は私も一緒に出かける。だから、私が、その、抱っこをして、いい、だろうか」
衝撃で三度オズバルド様のお顔を見ました。
えっ、なんて?
今、抱っこ、とか、言いませんでした?
えっ、オズバルド様に? 私が? 抱き上げられてお散歩するって? えっ、いや、嘘でしょ? というか、少しずつ体重が増えてきた私をオズバルド様が抱き上げるの? いや、重くて無理じゃない?
……というか、何故にそんなことをしたい、と思ったんですか、オズバルド様。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




