9-3 大事な話だそうで
「それで、だな。ネスティーに謝ることがある」
「なにか」
「ネスティーの夢のこと、父上から聞いた。私が冒険者を目指す夢だとか」
……ああ、それ。
夢っていうか前世の小説での話、とは言えませんから曖昧に頷きます。最近の私自身の環境が目紛しく変わってますので正直なところを言えば、忘れてました。あはは。
「ネスティーには済まないが冒険者は目指さない。いや目指せるくらいの腕力は欲しいとは思うが、冒険者で家族を養えるのはほんの一握りだと聞く。大抵は身を立てられるくらいで精一杯だそうだ。つまり、私が独り身ならばそれも可能だろうが、ネスティーと二人で暮らして行くことが出来ない。ネスティーも冒険者になると言うのならば話は別だが、こんなに弱い身体では無理だと思う」
……いえ、確かに弱いですけど。もう少しオブラートな言い方を覚えて! もうちょいデリカシー付けて!
でも確かに私は冒険者にはなりませんよ! 目指してません! 冒険なんて危険なことに興味ないです、平凡万歳!
「そうですね。冒険者には興味がないです」
「そうだろう」
「でも、もう少し体力は付けたいですかね」
私はこの時、うっかりモノを言う事は実は危険だということをすっかり忘れていた。つまりまぁ。
「じゃあ私と一緒に体力作りをしよう!」
と、オズバルド様がノリノリになってしまったのだ。しかも体力作りメニューまで即座に作り出すとは思いもよらず。自分の口から出たこととはいえ、迂闊な発言を悔やみました。
尚、体力作りメニューは、次男のイルブルド様が騎士団所属でそこの体力作りメニューを参考にした、とのことで。バリバリの筋トレでした。
腕立て伏せに腹筋・背筋・腿上げ・スクワット・ランニング……と日本でも運動部でよく見られた筋トレのメニューですね。無理ですよ。この身体で全部が出来るようになるには年単位じゃないかな。こんな筋トレメニューではなく、軽くストレッチをしてランニング程度でお願いします。ということでストレッチとランキングを毎日無理なくやることをオズバルド様と約束しました。
ま、まぁ体力作りはしたいですからね。
「体力作りは分かりました。取り敢えず話を戻しますが、オズバルド様は冒険者になら気はない、ということでよろしいですか」
「そうだね。ネスティーも冒険者になる気はないだろう。ネスティーはこの侯爵領の中心地で少し店を回ったと聞いた。元気になったら私も一緒に行こう。私もどんな仕事があるのか知りたいし、平民が買う物の金額も知りたい。平民の物は安いと聞くがそれは多分貴族として生活をしているから、だと思うんだ。ネスティーと結婚するのに貴族の感覚では危ないから。アル兄上は公爵家の跡取りだが、イル兄上は騎士団に入って平民の生活を少し知っている。寮生活だから自力で全部やっているわけじゃないらしい。でも平民と貴族の金に関する感覚や知識の比重など違う所があると言っていた。イル兄上のように騎士団に入る程、私は剣で身を立てられる腕前はないし、騎士団に入ろうとも思ってない。だからネスティーと一緒に色々と見聞を広めるつもりだ」
オズバルド様の未来には、当たり前のように私がいる。良いことなのか正直、分からない。
でもまぁ敢えて私が居ない未来を考えることをここで告げる必要も無いはず。オズバルド様が成人するまで三年。私が成人するまで六年。
その六年の間にはオズバルド様の気持ちが変わっているかもしれないし、私の気持ちにも変化があるかもしれない。或いは公爵様が私に飽きてオズバルド様との縁を切ってくるかもしれない。
オズバルド様が成人して冒険者になろうとなるまいと構わないし、その辺は忘れていたけれど。忘れていないことはある。オズバルド様の婚約者の死ーー。つまり私の死。
先ずはオズバルド様が成人するまでの間に、私は体力をつけて小説では死ぬ未来を回避したい。……あの家から出たとはいえ、本音は私が十五歳を過ぎるまでは、死なないとは言い切れないから。
人間、いつかは死ぬ。
でも出来るなら少しでも長く生きたいと願う。
十五歳はさすがにちょっと早い気がするんだよね。
だからまずはそこを超えたい。
結婚なんてその後に考えてもいいと思うんだよね。オズバルド様には言えないけど。
一先ず十五歳を超えるまでは、結婚のことは置いておこう。オズバルド様も冒険者にならない、と決めたのであれば小説とは違う内容になる。私が死ぬ未来が低くなった、ということなのかな。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




