9-2 大事な話だそうで
「では、どうしますか」
「私は三男。家を継ぐことは無い。だから成人したら平民に身分を移そうと思う。父上には学園に通わない旨を伝え、ネスティーも通わないことは報告した」
平民に、とは簡単に言うけれど。
朝起きたらカーテンを開けるのも着替えるのも顔を洗う水を汲むのさえ、使用人に傅かれてやって来てもらっていたはずのオズバルド様に、自分であれこれ出来るのか、という疑問がある。
「平民、ですか」
「簡単なことではない、と理解している。だからこそネスティーと同居している。一人で着替えられないようでは生活出来ないから」
なるほど。オズバルド様が一緒に暮らしているのは平民生活で苦労しないために、ですか。それは構いませんが、一緒に暮らす理由って……あ、ヘルムが言ってましたね。ロイスデン公爵の後ろ盾を表すために、と。
「理解しました。でもオズバルド様、何故そこまで私と婚約を続けたいのでしょう? だって私と婚約を解消すれば貴族に残る道も有りますし、平民になるにしても私と婚約を続ける必要なんてないと思うのです」
結局、そこなんですよね。
別に私と婚約を続けるメリットってないと思うんです。いくら公爵様が私のことを気に入ってくれていたとしても。何の旨味も無いと思うんですよね。強いて言うなら母の実家であるオーデ侯爵家という家くらいなものです。
ああでも、公爵様はその血に価値があるってアズに注意喚起をしたのでしたっけ……。
「私がネスティーと婚約を続ける理由は、簡単だと思う」
「簡単?」
「初めて会った時よりも太ったが」
太ったは失礼っ! 言いたいことは分かりますけど、太ったは失礼!
でも言葉を飲み込んでおきましょう。
「ネスティーはまだまだ痩せすぎだ。もっと太っていいはずだ。だから色々な食べ物を食べさせたいと思った。それが理由」
まさかの餌付け行為をしたい、という理由だとは思いもよらなかったです……。私、ペットですか? 手負いの獣ですか?
「食べさせたい、ですか」
「うん。もっと食べて太ると良い。元気になったネスティーを見たい」
ちょっと失言はあるけど、オズバルド様の気持ちは分かった。私が元気になった姿が見たいって。いっぱい食べて欲しいってこと。それが今のオズバルド様の気持ち。私と婚約を続けたい理由。
その後のことは分からない。でも。
私に流れる血の価値とか、そういうことじゃないというのなら。
私はこの婚約が続くこと、嫌じゃない。
公爵家には旨味が無いと思うけれどね。
「分かりました。よろしくお願いします、オズバルド様」
「こちらこそよろしく」
でも、そうなると平民になったオズバルド様は……どうやって生活していくつもりなのかな。お金稼がないと生きていけないと思うのだけど。
「それでオズバルド様は平民に身分を移した後はどうなさるおつもりですか?」
「我が国では貴族の結婚は場合によっては、成人前でも結婚出来るが平民は必ず成人してから。私が成人してもネスティーが成人してないから結婚は出来ない。その間、三年。ネスティーと二人で暮らして行くくらい給金がもらえる仕事に就くとなれば、それよりも時間がかかると思う。平民の生活はしたことが無いが、勉強はしていたから。勉強で分かったつもりになってはいけないだろうから色々とアズ殿とヘルムに教わるつもりだ。それも含めてここで生活しながら私でも出来るような平民の仕事を探す」
……色々いろいろツッコミたいです。
オズバルド様、私と結婚する気があるんですね。
それも私が成人するのをきちんと待つ気もあって。
というか、生活基盤を整えようとも考えている、と。
で。
どんな仕事に就けるかこれから探すわけですか。そうですか。……アレ? もしかして公爵様だけじゃなくて、オズバルド様も私を囲い込もうとする気満々ですか。
結婚を十五歳できちんと考えているなんて思わなかったですねー。
しかも貴族じゃなくなるのに。
政略的な問題で色々契約があって雁字搦めで結婚するしか無い状態の貴族とは違うはず、なのに。
……もしや、私にたくさん食べさせたいって気持ち、一生モノの気持ちのおつもりで……?
いやいやいや。まだ十五歳でしょ? 私、十二歳だし。貴族としての義務を果たすというのなら兎も角、互いにそういうのが無い状況になるわけで。
十五歳にして、結婚相手をガチガチに決めなくても良いんじゃないでしょうかね……?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




