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6-6 散歩しながら市場調査?

 この世界というのか、まぁ間違いなくこの国ではあるのでしょうが。伯爵家を出て現在のお屋敷に来てから気づいたわけですが。日本人の作家が書いた小説が関係するからなのか、それとも私をこの国に転生させた神様辺りの気紛れなのか、日本の家電製品がいっぱいあります。動力は太陽光とか風力とかなので所謂エコなんですかね。

 でもこうして見ていて不思議なことに、自動ドアは無いんですよ。お店のドアが木。看板も木。家電製品があるのに。ご都合って言ってしまえばそれまでなんですけど、違和感があるのに無いという変な感覚。溶け込んでいると言えばいいのか。家電製品があるならガラス製の自動ドアだってあってもいいのに、それはない。不思議というかこれはもう、異世界だから。の一言で済ませる案件なんですかねぇ。

 さておき。

 その店の看板に描かれているティーカップ。

 喫茶店なのかそれとも食器類のお店なのか。

 という事でこの店から入ります。

 ヘルムに下ろしてもらい中に入ると、様々な食器が置いてあります。という事で食器店。木の温もりを感じさせるカトラリー。手に馴染むなら買ってもいいかなぁ。ん? あれは形からするとご飯茶碗では? 陶器ではなく木製のご飯茶碗かな。いや寧ろ汁椀? えっ? やっぱり日本人が書いた小説に似た世界だから? 私は見た事ないけどもしやお米があるの? ご飯茶碗でも汁椀でもいいけど米があるなら食べたい! 箸! 箸もあるじゃん! テンション上がるっ。

 なんて心の中で盛大に叫んでました。流石に声には出しませんよ。アズとヘルムに説明するのも大変ですし、抑々店内は他にお客さん居ますし。


「すみません」


「はい」


「あの、お年寄りが使い易いスプーンってないですかね」


 茶髪に茶色の目の前世の私と同年代くらいの女性が店員さんに話しかけるのを何となく耳に入って来ました。


「お年寄りが使い易いスプーン? というと?」


 店員さんが困ったように尋ね返してますね。


「ずっとこの木で出来たスプーンを使っていたんですけどね。最近、おじいさんもおばあさんも使い難いと言っているので、使い易いのはないかなぁと」


 私が先程見ていた木の温もりを感じさせるカトラリーからスプーンを女性は指差します。店員さんは「そう言われてもねぇ」 と困り顔。

 まぁそうですよねぇ。

 使い難いって言われても、何がどう使い難いのか分からないと使い易いスプーンなんて分からないですよね。

 お客さんの女性も困り顔です。

 ……ふむ。私は今、十二歳。十分に子どもです。

 あまり嬉しくないですが、見た目は少しずつ太って来たとはいえ、未だ未だ痩せているし背も伸び悩んでいるので、更に子どもに見えます。

 という事で。

 この外見を活かしてちょっとお二人の間に介入してみましょう。


「ねぇねぇ、おばさん」


「えっ、な、なんだい、お嬢ちゃん。おやまぁ、随分と可愛いお顔で新品のワンピースを着てるねぇ。もしかして富裕層のとこの子かい?」


 私が話しかけるとお客さんの女性は驚いた顔で私を見て、その後上から下までザッと値踏みするように視線を向けて富裕層の子だと判断した様子。うん、正解。


「ちょっとね。お母さんもお父さんも死んじゃって、使用人と一緒なの」


 こういう人って同情するような身の上話を聞いた瞬間、敵意とか排他的な思考とか無くすんだよね。

 速攻で女性は同情の目になってさっきの値踏みする視線が消え失せた。こうなったらこっちのもの。


「おばさん、お母さんにちょっと似てるかも。だからかなぁ。おばさんのおばあちゃんのお話、聞こえちゃって、心配になったの」


「あらぁ。お嬢ちゃんのお母さんに似てるかい? それは嬉しいねぇ。えっ、心配ってなんだい?」


 お母さんに似てるって言っただけで、女性の警戒心はあっさりとゼロ。

 尚、アズとヘルムは私の行動を黙って見ている。口出ししない方がいい、と判断してくれてありがとう。


「うん……。おばあちゃんもおじいちゃんもご飯が食べられないんでしょう?」


「ああ、そうなんだよ。だからどうしたらいいか困ってね」


「どうして食べられないの? スプーンが持てないの?」


「ああ、持てないというか、力が入らなくてねぇ。少し持って食べていてもそのうち疲れてしまうみたいで」


 店員さんは、私と女性のやり取りを最初は戸惑って見ていたけれど、段々何かに気づいたように考え始める。


「そっかぁ。じゃあスプーンが重いのかなぁ」


「ああ、そう、そう言ってたよ! もう少し軽ければ使い易いのにってねぇ!」


 私の何気ない一言に女性が我が意を得たり、とばかりに仕切りに頷く。

 店員さんが成る程、と顔をパッと輝かせて。


「そういう事でしたら、此方のスプーンがお勧めですよ」


 と同じ木製ながら店内に並んでいるスプーンよりも奥の棚から取り出す。


「ちょっと此方のスプーンより高いんですけどね」


 そう言いながら、手頃な価格のスプーンよりちょっと高めのスプーンを差し出す。手頃な方と持ち比べて重さを実感させているようだ。

 本当は秤にでも二つのスプーンを乗せて傾き加減を見せるなり、数字を見せるなりすればもっと分かり易いと思うんだけど。

 実際女性は持ち比べて見ても曖昧な表情だ。


「おばさん、良かったねぇ。軽いスプーンだって」


「あ、ああそうなんだけどねぇ。私じゃあ比べてみてもよく分からないのよ」


「そうなんだぁ。店員さん、秤にスプーンを乗せたら分かるかもね」


 此処で店員さんに、ニコッと笑顔を見せれば、店員さんがハッとした様子で奥へ行く。ちょっと待ってて下さいねって声が奥から聞こえて来たと思ったらバタバタと走って戻って来た店員さんが、秤を出した。

 どうやら天秤ではなくて秤の方。

 所謂バネ式の上皿秤。よく家庭でも学校でも見かけるような秤。電子式なら数字がデジタルで出るけど、これは目盛りを読むやつだから僅差の重さだとどうなのかなぁ。

 なんて思っていたけれど。

 手頃な価格の木製スプーンとちょっと高めだけど軽いスプーンでは数字の目盛りが誤差ではなく、ハッキリと分かる程度には差が出た。……という事は相当軽いね?


「こんなに違うの?」


 女性も思わず、と二つのスプーンをマジマジと見比べる。


「ええ。木の種類が違うのが一つ。それから此方のやや高い方は手頃な方より、ほら見てもらえれば分かると思いますけどね、持ち手の部分の厚みが違うでしょう? 高い方は薄くして軽くなるように職人が作っているんですよ」


「あらぁ、本当ね! じゃあちょっと高いけど、これを二つ買うわ!」


 そんなわけで、女性は軽いスプーンを二つ買って帰っていった。去り際に私へ「いい物が買えたわ、ありがとう、お嬢ちゃん」 と笑顔を浮かべて。

 店員さんもホクホク顔をしながら私を見て


「お嬢ちゃん、ありがとうね! それでお嬢ちゃんは何が欲しいの?」


 と尋ねて来ました。

 うーん。ご飯茶碗と汁椀と箸が欲しいけど、米や味噌があるか分からないのに買えないよねぇ。

 という事で、木製のスープカップをアズに頼んで買ってもらいました。

 そういえば、何かの雑学的なテレビ番組で見たっけ。広葉樹と針葉樹で重さが違う、とか何とか。手頃な価格の木製カトラリーは食器にするのに向いている広葉樹の木を使っているのかなぁ。欅とかカエデとか紫檀とかって聞いた気がするけど、そういう木なのかもね。

 取り敢えず、このお店は此処までにして、次のお店に行ってみよう!

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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