3-1 間話・叱られる理由ーヘルム視点
アズがオズバルド様を食堂の外に出した時には、本当にお説教するのか、と予測がついた。まぁ、大人びた会話をし、倒れる事もなく元気そうなお嬢様……ネスティーちゃんを見てしまうと、俺だって“普通の”女の子に思えてしまう。
殆ど骨と皮だけで肉付きの悪い身体ということも忘れてしまいそうなほど。
抱き上げてその軽さに驚いた。
軽いなんてものではない。令嬢として育てられたはずのネスティーちゃんは。型遅れどころか手足が見えてしまう程短いドレスを着ていた。それでもネスティーちゃんは小柄だ。十二歳という年齢よりも小さく見える。成長の個人差で収まる程度には育っているけれど、それは背丈の問題で。体重は心配になる程軽い。
そりゃあ骨と皮だけになるわけだ。おそらく肋骨が見えてしまうのではないだろうか。実際、服から見え隠れする鎖骨はくっきりし過ぎていて折れてしまわないか心配する。
つくづく、思う。
あの伯爵は自分の娘なのにこんな状況に追い込むなんて、家族としての思いやりとか優しさとか愛情とか、そういうモンはないのか、と。孤児院で育ったが、母親が生きていた頃はその愛情を与えられていた俺は、あの伯爵に対して本当に父親なのか? と疑いたくなる。
ただ、ネスティーちゃんの話では、亡くなった母親からたっぷり愛情を注がれたようで、母親を慕っているのが分かる。全然会えない兄に対しても恨む気持ちもなく、会えなくて寂しいと思うくらいのようだ。
きっとアズがこんなに真っ直ぐに育つように支えてきたのだろう。
そうは思うが、それとあの伯爵への気持ちは別物だ。まぁ俺があの伯爵に何かせずとも、公爵様はネスティーちゃんを気に入っているから、公爵様が何かしらの罰を与えるとは思うけど。
そんな事を思いながら、きっとアズからかなり説教されているんだろうなぁって思うが、オズバルド様にはいい薬だろう。どうにも三男だからなのか、長男様や次男様ほど冷静ではない、というか。のんびり気質というのだろうか。大らかな気質というのだろうか。危機感が無いし、状況を見極めて動けないオズバルド様。人柄が良いから仕方ない、で済ませてしまう部分もあったが……今回のは、まぁ仕方ない。
俺だって孤児院に行った当初は気を遣ったし、周りを警戒していた。暫くは構われたくなくて独りを選んだくらいだ。まぁそのうち、そんなことも言っていられなくなったが。
オズバルド様はご家族に恵まれている。高位貴族にしては仲良しな家族だろう。冷たさなんてまるでない。それは良いことだが、そんな家庭で育ったオズバルド様では、ネスティーちゃんが一人で食事をしたいのか、皆と食事をしたいのか、という事すら考えずに“皆で一緒に食べることが良い”と考えてしまったのだろう。
悪気は無い。
それは分かるが悪気がないからこそ、無神経ということをオズバルド様は学ぶ方がいいだろう。
だから俺は敢えて説教を止める気はない。
善意の押し付けは相手がどんな気持ちになるのか考える良い切っ掛けになって欲しい。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




