3-2 間話・叱られる理由〜ヘルム視点
説教が終わったのだろう。
満足そうなアズと肩を落とすオズバルド様。
ネスティーちゃんは大人しくずっと待っていた。ドアの向こうが気になるのか心配そうにジッと見ていたけれど。肩を落とすオズバルド様を心配そうに見ていたけれどチラリとアズを見て何か思う所があったのか、ネスティーちゃんはオズバルド様に何も言わなかった。
アズが作った朝食を食堂のテーブルに運ぶ。テーブルは同じでも長いテーブルだからアズとネスティーちゃんが向かい合って座り、俺とオズバルド様は結構距離を開けてから席に着いた。これが今のオズバルド様とネスティーちゃんの距離だって分かってもらえればいいんだけど。
アズが出してくれた朝ごはんは美味そうで腹が鳴る。オズバルド様も同じ物のようだ。
「アズ、これ」
「私が作った物ですのでお口に合うかどうか……」
尋ねるネスティーちゃんに、アズが済まなそうに眉を下げるが、ネスティーちゃんは首を左右に振ってから、慎重にパンを手に取る。
「柔らかいっ」
思わず、と上がった声は小さいが、強くて感動をしているようだ。
その一言でネスティーちゃんがどんな物を食べて来たか分かる。俺も孤児院に入る前の母と生きていた頃や、孤児院の頃はパンは固いものだ、と思っていた。
白くてフワフワと柔らかいロールパンなんて、公爵家で拾われてから知った。
チラリとネスティーちゃんを見れば、テーブルマナーは身に付いているのだろう、綺麗な所作でパンを千切って口に入れている。キラキラと目を輝かせている所を見れば相当柔らかいのだろう。
「アズ、美味しい。ありがとう。焼きたてのパンはフワフワで柔らかいって教えてくれたけど、その通りだね!」
「はい。……本当は、それが普通なんですけどね」
貴族の令嬢として育って来たのだ。毒見をする時間等を考えたとしても、温かいスープにフワフワとしたパンなど、当たり前のように食べて来られたはずだった。……あんなクズが父親でなければ。
公爵様にお仕えしてから、公爵家の給金に驚いた事がある。まだ見習いも見習いで何の役にも立てていない頃なのに、何処かの店で雇われていたり港の荷運びだったり、そういった給金の高そうな仕事でもこんなに貰えないはずだ。それも何十年と働いていても。
流石に公爵様に
「こんなに貰えません」 と言ったら公爵様は
「貴族には高貴なる者の務め、というものがある」 と言った。その意味を教えてもらった時、初めて貴族という存在が必要なものなんだって知った。いや、身分?
公爵様が言うには
「貴族が平民から羨まれるような贅沢な生活を送るのは、その分だけ義務を負うからだ」
と。
平民が何十年も働いたって食べられないような高級な食材を使った食べ物が食べられるのも、一生かかっても着られないようなシルク素材の衣服が着られるのも、嗜好品……酒やタバコだったり宝石をふんだんに使った装飾品だったり、そういった贅沢品を享受出来るのも。
その代わりに国や領地などに災害が起きるなり、戦になるなり、平民ではどうしようもないことが起きた時には、我々貴族が己の身を賭して平民を守る。つまりこの命と引き換えに平民を守るなり爵位を捨ててでも平民を守るなり、そういったことを行う義務があるから、らしい。その覚悟も無い者が貴族という身分に胡座を掻いているのは許されない事。貴族とは、そういう存在なのだ、と公爵様は言う。
また、そういった事が起きずとも、平民の意見ではどうにもならなかった……例えば道普請について、なども平民の代わりに貴族が率先して道普請を行うなり、国に訴えてその必要性を説いて国主導で行うなり。そういった声を上げても聞いてもらえない時には代理として声を上げていくのだ、と。
それが、貴族の存在意義なのだ、と公爵様は言った。
初めて貴族とはそういう存在なのだと理解した。
でも己の給金について確認をすれば、公爵様は一笑してから言った。
「与えられるものは与える。それも貴族の義務だ」
それ以来俺は公爵様に何も言わなくなった。
これは、公爵様の厚意であり、高貴なる者の義務なのだ、と。そういう公爵様の息子なのだから、発言も行動ももう少し考えて欲しい。
きっとオズバルド様なら出来る、俺はそう信じたい。
ただ……この方、なんかちょっとだけポヤポヤしているっていうか。のんびり気質っていうか。アズの説教の意味は理解出来るけれど、まぁいいや〜と流してしまいそうな所があるから、なぁ……。大丈夫かな。
なんだかんだ俺はオズバルド様のこと嫌いじゃないから、オズバルド様が自分なりに婚約者であるネスティーちゃんのことを気にかけているのは分かるから、どうかアズにもネスティーちゃんにもオズバルド様の気持ちを理解して欲しいんだよな。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




