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2-3 間話・コレは説教案件ですね〜アズ視点

 お嬢様がグッスリ眠られていて様子を見るに明日の朝まで起きない気がするけれど、万が一夜中に目が覚めて環境が違うことに驚きパニックになっても可哀想だ、とお嬢様が眠る主人部屋の隣で休むことにした。二度夜中に様子を見に行ってみたが起きない。朝日と同時に起き出して朝食の支度に取り掛かる事にする。一階の食堂へ行くとヘルムさんが椅子に座って目を閉じていた。……何しているんですかね。


「おはよう、侍女殿」


「同じお嬢様仕えになりますから、どうぞアズ、と。おはようございます、ヘルムさん」


 返事をしながら此処で何をしているのか尋ねる。


「腹が減ったのが一つ。もう一つはオズバルド様が起きて剣の練習を始めたんで」


 お嬢様が寝てしまったので簡単にパンとスープだけの夕食だった。お腹が空いてしまったらしい。それもそうか。お嬢様が食べないなら……と、自分は適当で構わないと思ったし、ヘルムさんとオズバルド様のことは考えなかったので自分が食べるものをそのまま出しただけ。

 それにしてもオズバルド様は剣の練習か。熱心な所は好感が持てる。

 台所に立ってスープの鍋に火を付ける。

 お嬢様付きの私だが、お嬢様の所に来るまでは平民生活を送っていたので、食事の支度も洗濯も掃除も出来る。コンロの上にある寸胴には、安く手に入ったキャベツと肉屋で売られていたベーコンのスープ。塩と胡椒で味を整えている。それから白いフワッと柔らかいロールパンはパン屋で買ったもの。卵の中にチーズを入れてこちらも塩胡椒で味を整える。ひよこ豆を煮てあるがそれも朝食で出すつもり。これは私とヘルムさんとオズバルド様の分。

 お嬢様には柔らかく煮たキャベツとベーコンのスープとロールパンを半分、準備する。多分、この量でもお嬢様には多いだろう。ロールパンを細かくして蜂蜜入りのミルクの方が良かっただろうか。

 記憶を振り返り終えて、お嬢様を起こして、ロイスデン公爵様がお選びになられたお嬢様が仰るには「ライラック色」のワンピースを着せて食堂にお連れした。ヘルムさんがお嬢様のワンピースを見た途端にニヤニヤしている。


「おはよう、ヘルムさん」


「おはよう、お嬢様」


「なんで、お嬢様?」


「お仕えすることになるからね。それよりお嬢様、そのワンピースよく似合うよ」


「本当? ライラックの花の色、綺麗よね! アズが選んで買ってくれたの?」


 余計なことを言ったヘルムさんを軽く睨んでからお嬢様の質問に答える。


「いえ。ロイスデン公爵様が」


「公爵様? なんで?」


 婚約者だからだと思います……。

 だけど本気で尋ねるお嬢様に、何てお答えするべきか口籠る私の視界の隅でヘルムさんが口を大きく開けてる。間抜けなお顔だことね。

 そのヘルムさんを視界から追い出すと同時に、足音が食堂に届く。お嬢様が不思議そうに「誰か来たの?」 と私を見た。もし見知らぬ人が勝手に入って来たとしたら、護衛の意味がないですね、ヘルムさん。と内心で嫌みを溢しながらお嬢様の問いに答えるより早く食堂のドアが開いた。


「疲れた。が、いい汗をかいた。腹が空いた」


 開くと同時にそんなことを言いながらオズバルド様が入って来た。お嬢様が目と口をまん丸にしてジッとオズバルド様を見ている。


「な、なんで此処にいらっしゃるの?」


 ようやく口を一度閉じたお嬢様がか細い声を懸命に張り上げてオズバルド様に問いかけた。


「あ、ネスティー、おはよう! よく眠れた?」


「ねむれた……はい。寝られました」


 コクリと素直に頷くお嬢様が可愛い。

 それはオズバルド様も思ったのかはにかむ笑顔で髪の毛をグシャリとかき混ぜる。……髪が何本か抜けている辺り、かなり力強くかき混ぜてますかね。


「よし、じゃあ朝ごはんを俺と食べよう!」


「えっ? いや、なんでですか?」


 オズバルド様の誘いに、お嬢様が至極尤もな問いかけで返した。……そうですよね。じゃあってなんだ? 俺と食べようとは? というか、お嬢様との初顔合わせの時の印象とは全然違いますけど、あなたはどなたですか? オズバルド様の顔の別人ですか?

 お嬢様が居るから抑えてます……いや、抑えきれませんね。ちょっと顔を貸してもらいましょうか。


「オズバルド様、ちょっと宜しいでしょうか」


「怖っ。ちょっと、アズさん、笑顔が怖いよっ」


 私がオズバルド様を呼び出したらヘルムさんがすかさずそんなことを言い出した。そうは言われても、ねぇ。ヘルムさんを無視してオズバルド様を食堂から廊下に抜けるドアへ、と促す。ドアが閉まったのを確認してから、笑顔を消してオズバルド様に向き合った。


「オズバルド様、あなた、此方の計画を台無しにしてお嬢様を予定よりも早くあの家から出した、という自覚は有りますか。もちろん、とっととあの家からお嬢様を連れ出したいのは山々ですが、準備不足でお嬢様をお迎えしたくなかったのですが、私の気持ちを理解してくれています?

 それでもあの家からお嬢様が出られて此方も安堵したのも束の間、先触れ一つ寄越さずに押しかけて来るとは何事ですか!

 その上、お嬢様と朝ごはんは食べよう? は? 何を図々しいことを仰っているんでしょうね。これだから世間知らずのお坊ちゃんは嫌なんですよ!

 お嬢様にはゆっくりとした気持ちで楽しく食事をしてもらいたいのです! なんで親しくもない人と食事をしなくてはならないんですか。お嬢様が気疲れするでしょう」


 ヘルムさんは、きっと私がオズバルド様に説教をしていることに気づいている。公爵様に報告されて私に咎めがあるというのなら、その咎めは甘んじて受けるつもり。

 でも。

 私はこのお坊ちゃんに説教したことは、何の後悔も無い。お坊ちゃん育ちの弊害とも言える善意の押し付けをしてくる相手など、お嬢様から排除する。

 お嬢様の今までの生活を垣間見たから、同情でもしているのかもしれない。

 だからといって、ようやく手足を伸ばしてもベッドにぶつからない広々としたベッドで眠れることや、食べたい物や好きな物を食べられることが出来る生活を送れるようになったのだ。

 婚約者だろうがなんだろうが、心穏やかに過ごすことの第一歩となるだろう生活に水を差すのは許せない。

 誰かと一緒に食事をすることで、お嬢様が気を遣ってしまうだろうことが、何故分からないのか。

 会話を楽しみながら食べる、というのは幸せな発想だ。お嬢様はまだそこまでの心境になれない。おそらくお嬢様は真面に食事が出来るかどうか……もっと言えばどれだけの量を食べることが出来るのか、分からないくらいなのだから。

 テーブルマナーは私が教えた。でも、そういう事ではない。マナーが出来る、出来ない以前の問題で、お嬢様は人と食べることを知らないのだから。

 コレは説教案件で間違っていない、と断言する。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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