2-1 間話・コレは説教案件ですね〜アズ視点
お嬢様によくお似合いの薄紫のワンピース。お嬢様はライラックだわ! とはしゃいでたけど、この色はアレです。ロイスデン公爵様……というかご子息のオズバルド様の目の色でしょう。
あの日……記憶を遡って振り返ります。私がお嬢様をあのクズ達が居る伯爵家から出すために、というかお嬢様が出てくれる決心をしてくれたのでその決心を無駄にしないために、宰相補佐様に連絡を取ったことをロイスデン公爵様は気付かれました。
で。
ロイスデン公爵様がふらりと私の前に現れて公爵家へ来るよう打診されました。
速攻でお断りしましたけど。
不敬だと言うなら言えばいい。仕置きがあるならそれでも構わない。
でもお嬢様はオズバルド様との婚約は仮のものとしか考えてないのだから、公爵家に行くわけがない。公爵様はそんな私の考えを見抜いたようにカラカラと笑って「君は本当にネスティーの気持ちを尊重しているんだね」 と仰った。公爵様もお嬢様が婚約を仮のものだと考えていることに気づいているらしい。
気付いているから、私の不敬は問わないと仰った。……でも多分、公爵様はお嬢様のことがお気に入りだ。というか、ご夫妻でお嬢様のことを気に入っておられる様子だったし、仮じゃなくなりそうな予感しか、しない。いや、考えないでいましょう。私はどんな時でもお嬢様の味方。
そんな私の考えを知ってか知らずか、公爵様は
「じゃあ、取り敢えず宰相の所に居るといいよ。家は私が何とかしとくから」
取り敢えず、と仰った。
しかも、家は公爵様が何とかしとく、と。
いや、私がコソコソと宰相様の領地に足を運んでいる事すら気付いているよね、これ。そういえばやたらとタイミングよく辻馬車に乗れてスムーズに移動出来ていたのは……もしや。チラリと公爵様を見れば、ニコニコと笑ってらっしゃる。あー、これ、もう公爵様に行動を把握されてますね。
お嬢様、ごめんなさい。
おそらくロイスデン公爵家から逃げられません……多分。
「あ、あと、ネスティーの貴族戸籍も何とかしとく。それとネスティーの兄の件も私が確認を取るから気にしなくていいから」
「公爵様、どれだけお嬢様に肩入れされるんですか」
流石にちょっと引く。
肩入れし過ぎていて。
どの家でも公爵家はあまり他家に介入しないし、気に入った人間が居ても少し手を差し伸べる程度。こんなに肩入れをしてくるとは思ってもみない。
元貴族令嬢として、ロイスデンを含む公爵家とは、王家の監視役であると同時に国の監視役でもある、と教わった。お嬢様にもその辺は教えたが……軽く流す程度にしたのは、王命でお嬢様とオズバルド様の婚約が結ばれたことによる配慮のつもり。
仮だとしても解消されるまでは、お嬢様はオズバルド様の婚約者で、つまりロイスデン公爵家の準一員。あまり批判的な考えを植え付ける気はなかった。
「ネスティー自身を気に入っているのもあるけど、あの子、オーデの血を引いているからね。教えておこう。オーデ侯爵家の血を引く者で現在、あの血が出ているのはネスティーだけだ」
私はその言葉に戦慄した。
その可能性を考えなかったわけじゃない。
でも改めて突き付けられてしまうと、お嬢様本人はご自身の価値をまるで分かってないので、恐ろしい事態になりそうだ。私一人で守り切れるだろうか。
「だからヘルムを専属で護衛にする。あと、何人か影でネスティーを守らせる。出来れば、アズ、君からネスティーに己の価値を自覚させろ。あのクズ共の所為で己の存在価値が底辺になってしまったことも許し難いが先にネスティーに自覚させよ」
「かしこまり、ました」
それから公爵様はあっという間に家を探し出してきたと思ったら、当面の生活費まで与えて下さった。オーデ侯爵家の血を引くお嬢様のことを他者に気付かれないうちに密かにお嬢様を囲い込んでしまわれている。
でも、お嬢様の意思は尊重してくれている。
そうでなければ問答無用でお嬢様をロイスデン公爵家へ連れ去っただろうから。
ロイスデン公爵様からの使いの人が、予定より早くお嬢様が伯爵家を追い出された事を聞いて、ヘルム殿がお嬢様をお連れしてきてくれた時は、ロイスデン公爵家へ連れ去られてなかったことに安堵した。
でも、予定よりも早くにお嬢様が追い出された事情を聞かされた私は、不敬かもしれないが
「コレは説教案件ですね」
と、ボソリと呟いた。ヘルム殿は「怖っ」 とわざと両腕を摩って恐ろしげなものを見たような表情になった。
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