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1-1 晴れて平民生活

 ヘルムさんに連れ去られて、私は有り難くラテンタール伯爵家から出ることが出来た。


「ヘルムさん、ありがとう」


「どういたしまして」


「でも、出て行けって言われたけど、実際はまだラテンタールの人間だよね、私」


「大丈夫。公爵様が籍を抜いてくれるよ」


「まぁロイスデン公爵様ならその辺は抜かりなくって感じだよね」


「ご令嬢、公爵様の名前を呼ばないの?」


「ご本人に許可を得ているからといって、ところ構わず名前を呼ぶなんて畏れ多いことしないよ。それに普段から名前を呼んでいたら、第三者の前でもそうなってしまいそう。これから私は平民だよ? 身分差があるよね」


「ご令嬢ってば真面目だねぇ」


「うーん。真面目というか、身分制度の大切さ? 国の身分制度って貴族は貴族の、平民は平民の他の法に通じるでしょう。となると身分差を気にしない態度を取っていたら、他の法をも蔑ろにしてしまうかもしれないし。それに、他人が身分差を蔑ろにしても指摘出来ないでしょう? 身分制度というのは、国王陛下が頂点であることを示すことだから。貴族も平民も身分差を蔑ろにしてしまって国王陛下を蔑ろにしてしまうことになってしまったら、他国に対しても示しが付かなくなりそう」


「ご令嬢、本当に十二歳かい? 随分と大人びた考えだねぇ」


 ヘルムさんにうっかり色々と語ってしまう。十二歳ではなく、中身プラス四十五歳なのでヘルムさんよりだいぶ年上です! なんて言えるわけがない。

 私はあはは、と気不味さを誤魔化すために笑ってみたけれど、多分ヘルムさんには誤魔化し笑いだと見抜かれてる。でもヘルムさんはそのことを追及してこなかった。……大人である。


「さて、じゃあご令嬢を侍女殿の所へ連れて行くかな」


「ヘルムさん、ソレ」


「ソレ? どれ?」


「ご令嬢って呼び方。もう平民の私にご令嬢って可笑しいでしょう」


「あー、そっか。どう呼ぶ?」


「ネスティーで」


「じゃあネスティーちゃん、だな」


「いきなり子ども扱い!」


「いや、十二歳は子どもだよ」


 そんな他愛ない会話をしながらも、早歩きでヘルムさんは私を抱っこしたまま辻馬車乗り場まで連れて行ってくれた。


「重くない?」


「寧ろネスティーちゃんは太ってください」


 辻馬車乗り場でも私を降ろす事なく抱っこしたままだから尋ねたら、そんな事を言われた。……だって食べ物がなかったから。


「おや、お嬢ちゃん、お父さんに抱っこされているのかい?」


 ヘルムさんから太ってくださいってお願いされて、何も言い返せなかった私の耳にご年配の女性の声が届く。ヘルムさんごと振り返れば、おばあちゃん、と呼びかけても差し支えなさそうな年齢の女性。

 ヘルムさんが「お父さん……」 と密かにショックを受けていたので、ポンポンと抱き上げてくれる腕を叩いてからおばあちゃんに笑いかけた。


「お父さんじゃなくて、お兄ちゃん! 遠くでお仕事していて、お休みになったから会いに来てくれたの!」


 笑顔を浮かべて言えば、おばあちゃんは「そうかい、お兄ちゃんかい」 とウンウン頷き、何か機嫌が良くなったのか、私に飴玉をくれた。


「お兄ちゃんと仲良く食べな」


「ありがとう」


 私とヘルムさんの髪の色も目の色も違うのに、おばあちゃんは“父”と間違え、“兄”と納得した。その上、ヘルムさんに抱っこされている私の手にヒョイと飴玉を二つ乗せて来るのだから只者じゃない。ヘルムさんも警戒しているようで私を抱っこしている腕に力が入った。


「公爵様から伝言。髪の色を染めるように後で道具を持たせるそうだ。あと、そのうち顔を見せに行く、と。ヘルムにはネスティー嬢をきちんと守るように、と」


 飴玉を乗せるついでに小さく、そして男性の低い声で伝言だと“おばあちゃん”は言った。……成る程、公爵様の使用人だか護衛だか、そんな人なのだろう。

 ヘルムさんをチラリと見れば、ニヤリと笑う“おばあちゃん”の顔を見て、誰なのか分かったようでホッとしていた。ヘルムさんが安心出来る相手なら、間違いなく公爵様の関係者だろう。

 “おばあちゃん”は、辻馬車に一緒に乗って、途中で降りて行った。

 私とヘルムさんは二回辻馬車を乗り換えて、昼前にあの家から出たのに、宰相様が領主の侯爵領へ到着したのは夕方になっていた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


第二章最終話で辻褄の合わない部分に気付き直しました。読まなくても大丈夫です。辻褄が合ってないことに気付かれた読者様がいらっしゃいましたら、混乱させてしまい申し訳ないことをしました。


また、本作品を小学館ファンタジーノベル&コミック大賞にエントリーしてみました。

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