7-6 間話・助けたいと思った婚約者〜オズバルド視点
予定通り、と言って良いものか分からないけれど、専属侍女が母親の看病を続けて病に罹った、という振りをしていた。それから何日か置いて到頭病が悪化し、ラテンタール伯爵家へ戻って来ることが叶わなくなった。それを執事がラテンタール嬢に話せば、ラテンタール嬢も体調を崩した……という素振りを見せる。という計画。
そこへいつもラテンタール嬢に会いに行っている私が執事からこっそりと医者を紹介してもらう、という要請を受ける手筈になっている。
その計画を行う前々日だった。
「公爵様、前伯爵が亡くなりました」
ラテンタール伯爵領に赴いていた父上の影が緊急で戻って来た。このタイミングで前伯爵が亡くなった。
父上は直ぐに陛下に裁判の準備に入るよう連絡すると共に嫡男・ガスティール殿を保護し、本人の意思を確認後、戸籍から除籍する働きかけを自ら行う、と馬に乗ってラテンタール伯爵領へ向かった。
ラテンタール家に居る執事と庭師は前伯爵のことをどれくらい知っているのだろう。もう、余命幾許もない状態だったことを知っていたのだろうか。そんなことを考えつつラテンタール家に行き、予定通り私は執事からラテンタール嬢が病に罹ってしまったので公爵家の医者を派遣して欲しい、と走り書きされた紙を手渡された。……確かまだ医者は派遣しない、という時期ではなかったか? ヘルム経由で聞いた計画ではまだ先のはず。頷くだけにしておいて、もう一度派遣を頼まれたら、手配しよう。
そう決めていた矢先に、私は失態を犯す。
執事・クリスから手渡された走り書きされた紙を落としてしまったのだ。直ぐに拾おうとした所、養女に先に拾われ中身を見られ、ラテンタール伯爵にその紙を渡してしまい、執事・クリスを怒鳴りつけた勢いそのままに、ラテンタール嬢が居る離れまで足を向けた。
私はヘルムから聞いていたとはいえ、この時初めてその離れという名の小屋を見て、あまりの粗末さに胸が痛くなった。こんな、こんな今にも朽ち果ててしまいそうな小屋に小さな彼女が押し込められいる、そう思うだけで胸がつまされる。
そうして怒鳴りつけるラテンタール伯爵に嫌気が差して足を踏み出す手前でヘルムが「俺がなんとかします」 と言うのでその場を任せ、私は自分の失態を取り返すべく急ぎロイスデン家に帰り、ラテンタール伯爵領へ向かった父上に知らせを出し、アル兄上と母上に失態を報告し、ヘルムに彼女のことを任せたことも付け加えた。
「オズ……あなた、本当にここぞという所でやらかすことが多いわね……。起こってしまった事は仕方ないわね。いいわ、こうなったらベルに頑張ってもらいましょう。
急ぎ陛下とベルに裁判を始めるよう場を整えるよう使いを出します」
母上が溜め息を吐いて呆れつつ、父上の影をこき使って国王陛下とラテンタール伯爵領に赴いた父上に裁判を早めるよう檄を飛ばしてくれた。……直ぐにやらかす不肖の息子ですみません。
***
それから異様な速さで父上がラテンタール伯爵と嫡男・ガスティールの親子の縁を切った。……どうやったのか、私も知らない。ガスティールの意思は確認出来ているというので、それでいいのだろう。
そして裁判が行われてラテンタール伯爵・後妻・養女は横領の罪と虐待の罪が確定。
ラテンタール伯爵は褫爵の身の上。平民に身分が移行したが、職に就く範囲が決められていて、それ以外の職に就くことは許されなかった。候補は王都内の下水路掃除か王都内の全てのゴミを集積所から回収して処理場へ運ぶか、王都郊外にあるゴミ処理場で働くか、若しくはラテンタール領内の荒れ果てた土地を耕して耕作が出来る土地に従事する、というもの。どれを選ぶのかは三日以内に決めるよう裁判長から言い渡されていた。
更に後妻はその裁判で養女がラテンタール伯爵の子ではないのに、子であると偽ったことで虚偽の罪も確定した。これには養女も自分がラテンタール伯爵の娘ではないことを知っていた、ということから同じく虚偽の罪が確定。
それにより、横領と虐待と虚偽という三つの罪が確定したことでより重い罰が降されることになった。
ラテンタール伯爵の後妻と養女という身分はもちろん取り上げられたが、平民に移行するのではなく貧民に身分が移行した。
簡単に言えば重い罪を犯した者が貧民という身分を与えられる。
ラテンタール伯爵が平民なのに後妻と養女が貧民なのは、ラテンタール伯爵の子ではない事を分かっていながら、子だと偽ったことが重い罪になった。
何故ならこの国は身分制度がはっきりしている。
国王陛下が国のトップであり、その横に並び立つのは王妃で、その下が国王陛下の両親と子ども達と兄弟姉妹等の王族となり、その下が貴族で、公・候・伯・子・男そして騎士爵と準男爵の貴族と平民の中間の身分が続く。その後、平民で重い罪を犯した者達が貧民というのが我が国の身分制度。
その身分制度を軽んじた行いだ、と後妻と養女の罪は見做された。
つまり、このようなことが起こらないよう見せしめにされたわけだ。
そんなわけで、貧民に身分が移行した後妻と養女は、年老いるまで下水路掃除をすることが罰として降った。年老いるまで、というのは、大体にして身体が思うように動かなくなるまで、ということで、実は匙加減の難しい判決だった。
***
こうして、ラテンタール家は王家に伯爵位を取り上げられその歴史に幕を閉じた。
尚、嫡男だったガスティール殿は裁判の結果を知らされて溜め息を大きく吐き出した後、使用人達の今後について、父上に協力を仰ぎながら新たな就労先の確保に苦心しているらしい。使用人達の今後の見通しが立つまでは、ラテンタール嬢に会わない、と決めたそうだ。
そのラテンタール嬢は、ヘルムに連れられて専属侍女だったアズ殿が居る宰相の領地へと向かった、と聞いた。
……全く会えないまま、ということに私は非常に落ち込んだ。
【2023.10.12】ロイスデン公爵がラテンタール伯爵領に向かった、という文章の後に王城に居るという文章があり、辻褄が合わないので直しました。混乱した方がいらしたらすみません。ベルトラン・ロイスデン公はラテンタール伯爵領へ向かってます。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
第二章は本話で終了です。
明日からは【間章・彼女の前世】編をお届けします。
話数は二話で終了予定です。
尚、ネスティーの父・ラテンタール伯爵と後妻と養女・シッティーについては、ざまぁは元々考えていなかったので、このようにサラリと書かせて頂きました。
本編完結後の番外編にて、ラテンタール伯爵・後妻・養女のその後と、ヘルム視点でヘルムが言ってた王命による婚約者なのに酷い扱いについて公爵様が……云々のくだりを書く予定です。




