7-4 間話・助けたいと思った婚約者〜オズバルド視点
「父上、あの」
「うん、ダメ」
「まだ何も言っていませんが」
「養女を突き放したいとか、そういう話だろう? ダメだよ。オズが伯爵一家を引き付けているからこそ、皆が動き易いのだから」
私の考えは父上に見抜かれてしまっていて、何も言い出せない。何か代わりになるような案があるならば兎も角、現状は父上の言う通り、私があの一家を引き付けていることが手っ取り早い。
まだまだこういった事案に対する知識も経験値も不足している私が父上を説得出来るような話を出せるわけがない。仕方なく引き下がるしかなかった。
「さすが公爵様。奥様以外は子どもにも容赦ないや」
ヘルムがぼやき、父上が「ん?」 と笑顔を向ける。ヘルムは何も言ってません! とサッサと逃げていった。次にラテンタール伯爵家へ行くのは四日後。それまでには父上が飛ばした手の者がラテンタール伯爵領から帰って来るだろう。
ラテンタール嬢の兄上について情報は仕入れておきたい。
きっとラテンタール嬢も兄上について知りたいと思っているだろうな、なんて思いながら自室に引っ込んだ。
三日後。明日にはラテンタール家へ赴くその日、父上の手の者がラテンタール領から帰って来た。
父上に呼ばれた私とヘルムは話を聞くべく執務室に赴く。ヘルムが呼ばれたのはラテンタール嬢と交流があるためだろう。
「報告を」
「は。ラテンタール領の領民から話を聞くと、嫡男が領地入りした五年前は、前伯爵と共に領地の視察を行ったり領民と交流を測ったりしてました。二年前までは。二年前から徐々に前伯爵が姿を見せなくなり、嫡男のみ領地の視察をしていましたが、半年程でそれが無くなりました」
「一年半前に何があった?」
「ラテンタール伯爵領にある屋敷へ行って執事や侍女に声をかけたのですが、口を割らず。護衛はおらず使用人は必要以下の人数しか居ない。
仕方なく侵入したところ、それまで執事・侍女・メイド・下働きの者が必要最低限居たのが、執事一人に侍女が二人。メイドが三人で下働きが一人という有り様でした。そこで解雇された下働きとメイドを探して話を聞き出した所、どうやら二年前に前伯爵様は病がちとなり一年半前からは寝たきりになったようです」
「なに?」
他家の当主を退いた者のその後などあまり聞こえて来るものではないが、それでも当時の当主同士で交流があれば手紙くらいのやり取りはあるもの。
しかし、父上が驚いたのであれば、前伯爵が寝たきりなど噂にもなってない。もしかすると誰一人として知らないのではないだろうか。
「それ故に、嫡男は祖父の面倒を、執事を含めた使用人達と交代で担っており、執事と嫡男の時間が取れる時だけ領地の経営を何とか見ている状況らしいのですが、正直なところ寝たきりの前伯爵様を侍女やメイド達だけで看るのは短時間が精一杯らしく、領地経営には殆ど手が回ってない状態のようです」
「そこをラテンタール伯爵が隙をつくように増税しているのか……。しかし、領民も知らないのだな?」
そういえば、ラテンタール領の領民が王城まで訴えに来たから今回の内情調査になったわけだから、領民は知らないわけだな。
「はい。どうやらラテンタール伯爵が気紛れのように領地に赴いていきなり税を上げる、と通達して終わり、のような視察とも言えない行動をしているみたいで。
それで領民達は前伯爵様の元に赴くけれど、そんな状況なので執事ですら領民達の声を聞く時間も取れないようで。侍女やメイド達も同様です。医者が定期的に診るようですが一向に回復の目処は立たず。
跡取り教育を受けている嫡男も面倒を看ている疲れからどうにもならないようです。皆が皆、前伯爵様と自分のことでいっぱいいっぱいといった所でしょうか」
「分かった。……だが、前伯爵が寝たきりだという事も通達せず、領民達の声も聞けないのであれば、その現状であっても許される事ではない。誰しも家族がそうなる可能性があることが前提なのだ。通達すらしないのは、怠慢である。考慮すべき事情があっても、だ。この件は陛下に奏上する」
父上の威厳ある声音に背筋が伸びる。
前伯爵の容態が悪くても領民の命を預かっている以上、何の対策も取ってないのは、怠慢として見られても仕方がないという父上の言葉は重みがある。
「それにしても、前伯爵や嫡男がそんな状態ならば、ラテンタール家から領地への報告などは届いていても確認が出来てない状態かもしれないな」
父上は難しい顔をしている。確かに報告書を送っているのに何の対応もないのであれば、領地に送られた報告書の内容を誰も知らないことになる。
……それは、ラテンタール嬢の状況を最低でも一年半は誰も知らない、という事ではないだろうか。
あのクリスとかいう執事やフォールとかいう庭師は、前伯爵から返答が無いことを疑問にも思っていないのだろうか。
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