6-3 間話・ご令嬢の家〜ヘルム視点
頻繁に顔を出すと、ご令嬢は公爵様宛に伝言を、と言う。なんでも“オズバルド様と婚約していたら死ぬ”って夢を見た、とか。俺はたかが夢なのにそれを伝えろというのか……とも思ったし、夢でも酷くないか? とも思ったが、公爵様には全てを報告することを約束していたので渋々伝えた。
「夢で見た、と?」
「はい」
公爵様は少し難しい顔をして「オーデ侯爵家の血が現れたのか」 微かに呟いた。
意味は分からなかったけれど、表情からして大事なことらしい。オズバルド様もそれを聞いて「嫌われてるのか?」 と落ち込んでた。
後日、ご令嬢に確認したら今の状況はいつ死んでもおかしくない。ただ、オズバルド様の婚約者という立場なだけ、と言う。……確かに。ご令嬢は病気こそないけど流行り病にでも罹ったらヤバイ気がする。
その後、ご令嬢がまた夢を見た、とか言って、オズバルド様が将来、平民になって冒険者になることを伝えて欲しい、と言って来た。それも公爵様に伝える? まぁいいけど。オズバルド様が平民で冒険者?
天下のロイスデンの子息だよ? 婿入り先も数多あるし、公爵様の持つ爵位とやらをもらってもいいんじゃないの? なんで平民で冒険者?
公爵様に伝えたら「有り得そうだな」 の一言で終わった。有り得るのか。ご令嬢はよく分からんなぁ。夢のことなのに公爵様は事実みたいに受け入れてるし。
その後、オズバルド様は全然会えないけど、代わりに交流を続ける俺に、色々考えていたご令嬢はラテンタール伯爵家から出たい、と俺から公爵様に話すように訴えてきた。
俺はそれも公爵様に伝えて色々あって、計画が開始された。
計画が始まってからもちょこちょこご令嬢と専属侍女殿の様子を見に伯爵家に行っていた。
ご令嬢は自分が家を出たら、伯爵家の内情調査はどうなるのか気にしていたから大丈夫、と請け負った。実際オズバルド様に付いて伯爵家を訪ねる使用人なんて俺以外にも居て、そちらは公爵様から極秘の任務を与えられている部隊のはず。
俺もあまり詳しくは知らないけど、伯爵家の内情調査は進んでいる、と公爵様が言ってたから大丈夫だ。
そんなある日、ご令嬢が面白いことを口にした。
何でも伯爵家の料理長は遅刻が多いらしい。専属侍女殿も困り顔だった。何となく興味が湧いて侍女殿と共に本邸に向かい、公爵様から伯爵家の調査を頼まれている別部隊の使用人の一人に、料理長の件を伝えたら「ああ、それ」 とあっさり頷いたので多分調査済みなのだろう。
「後で公爵様から聞くといい」
「聞いていいんだ」
「話せることだからな」
短いやりとりなのは、伯爵家の使用人達に不審がられないため。その後は不審がられないようにオズバルド様の護衛として側に付いていた。
尚、公爵様から命じられている別部隊……と言っても三人だが……は、上手い具合に伯爵家に雇われている。何でも後妻である現在の伯爵夫人は、気分屋で使用人の入れ替えが多いらしい。そうした家に使用人として調査部隊を送り込むのは簡単らしくて、俺が接触した伯爵家の使用人を装った公爵様の使用人が爽やかに笑っていた。
ついでに言うと、そんな家の内情調査は口の固い使用人を喋らせるよりも簡単なんだそうだ。……つまり伯爵家は無防備ってヤツなのだろう。
で。
ご令嬢は別だけど、ラテンタール伯爵家は主人も後妻も養女も、俺が嫌う典型的な高慢で我儘で金遣いが荒くて権力に弱くて弱い者には強気な、貴族サマってヤツ。
ご令嬢の兄が跡取りらしいけど、こんな伯爵家でも跡を継ぎたいって思うのかなって他人事ながら思う。
俺からすれば、こんな伯爵家要らないから潰れちゃえばいいのにって思うし、公爵様なら簡単に国王陛下に話を持っていきそうだけど。ご令嬢が家を出てもご令嬢の兄がどうしたいかによって伯爵家の今後が決まる、らしい。
公爵様がご令嬢の兄に接触して考えを聞く必要があるって言ってたからなぁ。
ご令嬢も兄の事は好きみたいだし。自分が居なくなった後の兄の事が心配みたいだもんな。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
些細なことですが、話のタイトルを
「ご令嬢の家(ヘルム視点)」から
「間話・ご令嬢の家〜ヘルム視点」へ変更してます。
第一章との統一を図るためです。