6-2 間話・ご令嬢の家〜ヘルム視点
正直な気持ちとしては、我儘な令嬢がちょっと親の言う事を聞きたくないから拗ねているのだろう、と思っていた。まだ十二歳だから許されるギリギリといったところか。子どもだ、と考えれば仕方ないと思えるような、そんな年齢だ……と。だから。
いくら子どもでも我儘で高慢な令嬢と接触するのは嫌だ、と本当に思っていた。
オズバルド様の護衛件ラテンタール伯爵家を調査するというのが俺が与えられた任務で。オズバルド様を懐柔したいのか、ラテンタール伯爵とその妻と娘の胡散臭い笑顔を横目に伯爵家の中を見て回るため、そっとオズバルド様から離れた。
「あれがオズバルド様の婚約者とかいう令嬢かぁ。確かに可愛い顔立ちかもしれないが、如何にも我儘そうで自分がこの世で一番可愛いと信じて疑ってない表情なのが鼻につくな」
オズバルド様も可哀想に、なんて独り言を呟きながら庭に出れば片隅に粗末な小屋が見えた。
ボロくて今にも壊れそうな小屋。
庭の景観を台無しにするその小屋を取り壊すことはないのか、なんて考えながら何となく足を向けて近寄ってみた。……女の子が窓を開けたのが見えて戦慄した。
なんでこんな壊れそうな小屋に小さな女の子が……。あれか? 養女が居ると言っていたが、その養女か?
こんな壊れそうな小屋に? 養女を押し込めている?
更に近寄ってみて身体に合ってないドレスっぽい色褪せた服を着ている女の子が視界に入った。
そこでようやく公爵様から言われていたラテンタール伯爵令嬢の話を思い出した。
実父から嫌われ、義母と異母妹からも疎まれ、当然使用人達から見向きもされていない令嬢のこと、をーー。
まさか、彼女がラテンタール伯爵令嬢、か?
まともに食べさせてももらえないから痩せっぽっちで身体の成長も止まっているような小柄な骨と皮ばかりの、という表現そのものの女の子。
その姿を見た時、自分の思い込みを心から反省した。
公爵様の話を嘘だろうと決め付けていた。
そうじゃない。真実だった。
ずっと生まれてから恵まれていて、美味い物をたらふく食って、煌びやかな衣装を身に纏って、平民を見下して、金を湯水のように使うのが貴族だって思ってた。
だから。
親から虐待されているなんて信じられなかったし、食べ物に事欠いて痩せっぽっちな姿なんて有り得ないと思ったし、色褪せて手足が丸見えのドレスなんて着るわけがないと思ってた。でもこの子はどうだろう。どう見たって俺が孤児院で生活していた頃のみんなと同じくらい、病のように痩せてた。
だからつい。
「何をしてるんだい?」
なんて、声をかけてしまっていた。
俺の声に顔を上げた女の子は白髪に見える程薄い茶色の髪に、同じくらい薄い茶色の目をしていて。
その色味はロニーを思い出させた。全く同じ髪色と目の色をしている女の子は、ロニーみたいに生きることを諦めたような笑顔は浮かべてなくて、真ん丸な目で俺を見た。
そうして俺の予想通り、この子こそ、ラテンタール伯爵令嬢だった。
公爵様の話を自分の目で見て真実だ、と理解した俺。
今度はロニーと同じ色を持つご令嬢のことが気になって気になって仕方なくて。
それからは婚約者との交流を目的としたオズバルド様の護衛という名目でラテンタール伯爵家を訪ねて、全然会えないオズバルド様には申し訳なく思いながら小まめにご令嬢に会いに行って。
後、公爵様から命じられたラテンタール伯爵家の内情調査もきちんとやった。……尤も俺よりも適任者が居るとは思うけど。公爵様はハッキリと言わなかったけれど、多分公爵家お抱えの裏でアレコレ行う連中が内情調査を請け負っているはず。
でも。
あんなご令嬢を見てしまったら、俺は俺の出来る限りをしたくて仕方なかった。
孤児院の小さいみんなを思い出すからか、ロニーを思い出すからか。
妹、という存在が居たらこんな風に何かしてやりたい、と思っただろうか……と思いながら。
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