猛吹雪
*1
「なんで…!?
なんで…ノクティの事を……見捨てたの…!?」
これで何度目か?
姐さんは声を荒げたんだ
姐さんの言いたい事もわかる、が別に俺からしたらあの男が居なくなろうがなかろうが関係ない事
しかし姐さんの悲しむ顔は見たくないもんだ……
「そう言ったって仕方がないことなのよ
私だってできればすぐにでも助けに行きたかったわ……
でもね何度も説明したけどあそこで着陸してしまったら
二度と離陸できなくなってしまう
……そうなったら私達も一緒に遭難していたかもしれないのよ?
それにきっと……」
姐さんの肩を持ちたいがこの小さい女の言う通り
あそこで馬車を降ろそうもんなら生い茂った木々が邪魔をして再浮上することは出来なかっただろうな
よしんば空を諦めて陸路を行くにしても、人の踏みいらない山道は降り積もった雪が邪魔をして立ち往生することになっていたのは想像するのも容易いってもんだ。
「遭難…?
違うよ…ノクティは…」
「姐さんあの悪運の強い男ならきっと大丈夫ですよ
それに今は自分たちの無事を先に祈るべきじゃないですか?」
外は猛吹雪フロストバーンまであと少しと言うところで緊急着陸をする羽目になった。
そして今はは着陸した横に運良く横穴があってそこで吹雪をやり過ごそうと避難している所だ。
しかしこの横穴やけに広いんだ……
馬車ごとそのまま入れたくらいだからな
暗くて奥まで見渡すことは出来ないが
人の手によって壁が崩れないように石が詰まれ補強されているのも気になる
もしかしたらこの横穴は……
「ノクティ…大丈夫かな…」
そうポツリと呟きながら虚空を見つめる姐さん
余計に心配させてしまう事を言ってしまったようだ
姐さんすんません……
「そうよこの男の言う通りまず自分たちの生還する方法を考えましょう
まずはどうやってここを脱出するか
吹雪が収まったとしても馬車を引いて行くのは難しそうね」
この生意気な小さい女は本当にイラつかせるのが上手い思わず舌打ちをした
「なによ!?
なにか文句あるわけ?」
「『この男』はないだろ!
俺にはネイソンって名があるんだ」
「私がこの男だと思ったらこの男なのよ!
これとかあれとか呼ばれないだけありがたく思いなさい!」
「なんだとこのあまぁ!」
思わず立ち上がり生意気な女の方に詰め寄ろうとしたら
その間にすうっと割って入る陰が
「ノエルちゃんも…ネイソンさんも…喧嘩しないで…」
こうされると何も言えない
「しかし姐さん……
ああもう……わかりやしたよ」
あれはふんっとそっぽを向いてしまった。
本当に腹の立つ女だ
「はあ……まあいいわ
いい?
私はこう思うの
この吹雪がやんだら馬車を捨てて町を目指すのがベストだと思うわ
ノクティはきっと大丈夫だから……
だからノクティの捜索はこの辺りの地形は私達ではままならないじゃない?
だから町で詳しい事を聞いてからがいいと思うのよね
あなた達はどう思う?」
その言葉のなかには希望的観測のような言葉も含まれていたが
この女の目には光が宿っている
なんだかんだ言っておいてどうやら本当にあの男の事を信じているようだな。
その信念に満ちた言葉を聞いた聞いた姐さんは
「私も…ノクティの事信じてると思う…でも心配で…
多分どこか…信じられてないんだと思う…
でも今のノエルちゃんの言葉で…決心がついたよ…!
私も心から…ノクティを信じる…!
だからノエルちゃんの案で…良いと思う…!」
姐さんもいい目をするな
しかしその案に俺は乗ることができないんだ
「乗ることができない?
なんでよ?
今度はあんたがノクティを探しに行くって言うつもり」
少し睨むような目付きで生意気な女はそう言った
「いや違うな
馬車を捨てる事に反対するんだ」
「はあ?
そんなの無理よ
それともそこまで言うんだもん
何かいい案があるんでしょうね?」
少し小馬鹿にするようにすら感じる不敵な笑みを浮かべて女は問う
思わず笑みがこぼれる
「当然だ
飛びっきりのやつがな」





