矛盾
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二階の以前借りた部屋とは反対側の大部屋
扉の前、ヨキ婆ちゃんと二人並んで立っていた。
「じゃああんた達はこの部屋を使うといい」
ヨキ婆さんはそれだけ告げると看病していた部屋に戻るためなのか一階に降りる階段の方に歩き始めた。
「本当にいいのか?
俺達泊めてもらっちゃって?」
歳のせいなのか階段に危なっかしく一歩踏み出していた足を止めてこちらに向き直る
「セイラ‥‥‥いや、あの子が
こんなことになっていなかったらこうしたはずさ
ご飯は用意がないから作ってやれないけど
そこは自分達でなんとかしておくれ」
「わかった
ありがとう
それとセイラでいいよ
俺達は世論には疎いからさ」
「そうかい
‥‥‥でもね目上の人を呼ぶときは『さん』をつけた方がいい」
この世界にも敬うっていう分化はあるようだ。
「ああわかった
これからは気を付ける」
素直でよろしいと頷いてからこう続けた
「ところで‥‥‥ネイソンとは仲良くしてくれているのかい?」
今も仲間割れをしている最中だ
それにそもそもが仲良いと言えるのだろうか?
それを一からこの老婆に説明するのも気が引けるな‥‥‥
「ああ
仲良くさせてもらってるよ」
「そうかい
それなら良かったよ
あの子は小さい頃から一人でいることが多かったからね」
安堵したのかうんうんと頷いている、
がどこか寂しそうな雰囲気なような気がした
「婆ちゃんとネイソンはどういう関係なんだ?」
「なーに
ご近所さんだからね
小さい頃からただ面倒をみてあげていただけだよ」
少し声が上ずったような‥‥‥気のせいか?
「あいつはどんな子供だったんだ?」
「あの子は大人しい子でね
よくヘイルっていうガキ大将にいじめられてよく泣いて帰ってきたもんだよ」
「へぇー
今の姿からは想像できないな
ヘイルって買取り屋の?」
「今は立派になってくれていたみたいで安心したよ
なんだい?ヘイルと知り合いなのかい?」
「ああ知り合いと言うか、お世話になってるんだ
そういえばちょっと前に城下町でヘイルに会ったぜ」
「なんだいあの子やっぱりネイソンを探しに行ってくれていたんだね」
ボソボソと話したからよく聞き取れなかった。
「なんだって?」
「なんでもない
こっちの話さ
さてじゃあそろそろ」
そう言って降りかけていた階段の手摺を掴みヨキ婆さんは降り始めた。
「あのさ、まだ聞きたい事があるんだ」
「後にしておくれセイラの事を見てやらなくちゃあならないからね
‥‥‥夜でいいならまたゆっくり話を聞くよ」
「わかった
じゃあまた後で」
ヨキ婆ちゃんは時計が長針を刻むようにゆっくりゆっくりと階段を降りていく。
そのなかば辺りまで見送ってから廊下の端にある窓の前に移動して開き、声をかける。
「おい!いつまでそうしてるつもりなんだ?」
呼び掛けた相手はノエル
ネイソンに手を払われたのがそんなにショックだったのか
馬車の荷台でヒナを抱えこんで籠城しているのだ。
返事はない。
「まったく」
一人でいても馬車に居るぶんにはユニがいるから安全だろうが‥‥‥
後で風呂に入りに行っているネムが帰ってきたら様子を見に行ってみるとしよう。
それにしても泊めて貰える事になって本当に助かった。
最初はとりつく島もなかった感じだったのに
どういう風の吹きまわしか
セイラさんが元気だったらこうしたはずだと
わざわざ部屋を準備してまで迎え入れてくれた。
その準備の過程で二階にいたから俺達の言い争いを聞いて窓から顔を出したみたいだった。
まあそんな事はどうでもいいか。
準備してもらった部屋の前に移動して扉を開く。
大部屋と言うだけあって木製のベットが左右に2つずつ計4つ並んでいる。
病院のベットみたいな配置だなこれ
間を仕切るカーテンがないのが病室との違いか
扉から見たら正面に窓があるのだが
俺は窓際が好きだからそちら側のベットをチョイスして腰をおろす。
後で文句言われても知らない!
だって早い者勝ちでしょこういうのは?
さてと
なんか色々と話が噛み合わない事があったな
夜ヨキ婆ちゃんに聞くために考えをまとめておかなければ。
まずセイラ(美少女)を知っているかだよな
セイラって名前は禁忌だと言っていたがそう名乗る女の子が居る。
次にこの国について
王様って名前を出しただけでネイソンのあの態度だ。
この世界ではあの王様はどう思われているのだろう?
そして魔王はいないとネイソンは言っていた。
しかし俺は王様から魔王討伐を依頼されたのだ。
この矛盾
ヨキ婆ちゃんが全て知っているとも思えないが
俺よりかは知っているはずだ。
それにしてもちょっと疲れたなちょっと横になるか‥‥‥





