きおく
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「おいぃ猪野口立てよぉ!
こっちはよぉ腹の虫がおさまらないんだよぉ!」
そう言いながら男は猪野口と呼んだ男をガシガシと足蹴にしている。
「すいません‥‥すいません‥‥もう勘弁してください‥‥」
猪野口と呼ばれた男は地面に頭を擦り付けて許しをこうている。
その二人を遠巻きに眺める人達が数名。
眺めていると言っても視界の端でちらちらと見る程度で、みんな興味がないふりをしている。
俺はその光景を俯瞰から眺めていた。
どこかで見たことあるような風景。
「すいません‥‥本当に許してください‥‥」
そう言いながら顔をあげた猪野口と呼ばれた男の瞳には光がない。
そして傷だらけだった。
猪野口と呼ばれた男の手を踏みつけながら男はこう言った。
「許してやってもいいぞぉ?
お前が死んでくれるんならよぉ!」
「くっ‥すいません‥‥すいません‥‥」
それを傍観していた一人の女の子が意を決したような表情で二人の方へ歩みを進める。
「ちょっとあなたいい加減にした方がいいんじゃない?
さすがにやり過ぎよ‥」
「あぁ?」
男は意見されたのが気にくわないのか女の子の顔を覗き混むようにしてキッと睨んだ。
「ん‥なんでも‥」
怯んだのか少し後退りをした。
「お願いします!助けて下さい!」
渡りに船は逃さないと、猪野口と呼ばれた男は女の子にすがるように懇願を始めた。
「あぁ!?お前こいつを助けるって事はぁどういうことかわかってんだろうなぁ?」
女の子の表情が曇った。
「猪野口君悪いけど離してくれる‥?」
そう言うと女の子は猪野口と呼ばれた男の手を振り払った。
「そんな‥
見捨てないでよ‥」
「猪野口君も男の子なんだから‥ね‥?」
女の子は元いた場所に戻っていく。
「わかりゃあぁいいんだよぉ!」
そう言うと男は高笑いをあげた
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「うわぁぁあぁあぁあ」
「ノクティ‥ノクティ‥どうしたの‥?
落ち着いて‥大丈夫‥大丈夫‥だから‥」
「うっうっうっ」
「なんで泣いてるの‥?どうしたの‥?
ヨシヨシ‥」
かれこれ30分ほどそうされていたらしい。
落ち着いてからしばらくたって
ネムが恥ずかしがりながら聞かせてくれた。
日が傾きかけていた。
「この先の道をね‥右に曲がると‥森を抜けられるの‥ユニと見つけたんだ‥!
いこう‥!」
「うん‥」
力なくただ頷くことしかできなかった。





