王子様?
マコトが覚悟を決めて一歩踏み出すと、重厚な自動ドアが上にせり上がって開いた。二人を見つけた子供たちは、待ってましたばかりに押し寄せ、マコトは再び囲まれた。元気よく手を上げる子供たちを、マコトは立ったまま一人一人さばいていく。
「マコトお姉ちゃん! このマグロのスシってどんな味するの?」
「私も食べたことないけど、お魚とご飯と、おスっていう酸っぱい味がするんだって」
「お空は青かった?」
「うん、青かったよ。それにね、手を伸ばしても全然届かないんだ。たぶんここにいる全員が肩車しても届かないよ」
子供たちの間から「へえー」という声が上がる。
「お外には何があったの?」
「緑色の草とか、おっきな石の塊とか。それに、『壁』って呼ばれる大きな仕切りのある広場があるの。私は入ったことないんだけど……」
「わたしもお外に行きたーい」
その子の言葉に、マコトは表情を改めた。
「お外は危ないこともいっぱいあるんだよ。乱暴な人とか、怖い動物さんが沢山!」
子供たちの間で、悲鳴が上がる。
おとなしそうなメガネの子がおずおずと手を上げる。
「お姉ちゃんはだいじょうぶだったんですか?」
「うん、譲治さんが守ってくれたから。あ、譲治さんって言うのはさっきの男の人ね」
マコトが答えると、子供たちから感嘆の声が上がる。
メガネの子供の隣に座っていたやんちゃそうな子が手を挙げる。
「じょーじさんってどんな人なの?」
「えっ、と……」
マコトは少し考えてから口を開いた。
「とっても頼れる人だよ。私のことを何度も助けてくれたし、ちょっと乱暴だなって思うときもあるけど。普段はとっても優しいんだ。力も強くて、勇気もあって、いろいろな事知っててね。あんな大人になれたらいいなって思う。でも、時々すごく不思議な顔で私を見るときがあるんだ。寂しそうなんだけど、優しい目で……とにかく、私は譲治さんのこと好きだよ」
最後のフレーズが出たとたん、子供たちから黄色い声が上がった。
「じゃあ、じょーじさんがお姉ちゃんのおうじ様なんだね!」
「王子様……っていうのは違うかな。好きっていうのもそういう意味じゃ……」
「王子さま! 王子さま!」
「やめなさいって……譲治さんは王子様なんかじゃなくて……」
「じゃあなにー?」
「うーん……」
子供たちはわくわくとした視線を向けて待機する。しかし、マコトは少しの間腕を組んでうなってばかりで結論が出せずにいた。
「王子様じゃないなら何―?」
「え、えーとね……」
「オトウサンじゃないの?」
子供の群れの中から声が聞こえ、全員の視線がひとりに集まる。自分に注目が集まった女の子は、居住まいを正すと、怖気づくことなく得意げな顔をして見せた。
「オトウサンってね、すごく頼りになる男の人のことなんだよ!」
「いや、それは家族じゃないとダメなんじゃ……」
「でもこの間見た映画フィルムじゃ家族じゃないのにオトウサンって言ってたよ」
他の子供がそういうと、また子供たちはざわつき始めた。
「じゃあオトウサンだね!」
「オトウサン! オトウサン!」
「あー、もう……」
子供たちの大合唱に、マコトは頭を抱えた。




