残業
深夜11時。ガタン、ゴトンと揺れる電車の中で僕は今にも弾けてしまいそうな意識を何とか保っていた。
手に持つスマホで流れる知らない配信者の動画だけが、僕とこの世界をつなぐ唯一の架け橋だった。
僕の乗る五号車に、今、人間は一人もいない。
というか、ここ最近この電車で人間と乗り合わせていないような気がする。
どうしてか、不思議に思う気もするけど、まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく、早く仕事を済ませて帰りたい。
そう思いながらも、どうしようもないので微睡みながら惰性的にスマホに視線を落とす。
ガタン、ゴトンと揺れる感覚がかえって眠気を助長する。
そんなことを考えていると、電車が駅に止まったようだ。
ようやく、一人の女性が僕の乗る車両に入ってきた。
空いた席を探すように彼女はキョロキョロと辺りを見渡す。そして何かに気がついたように顔をひきつらせ——
「キャァァァァァァァァァァ——」
と叫ぶとそのまま、走り逃げてしまった。
辺りにはしばらく沈黙がながれて。そして。
「ふぅ、やっと終わりましたな」
僕の隣にすわるおじさんがそう息を吐いた。
すこし、生臭かった。
だけど、それが仕事の終わりを実感させてくれた。
おじさんの言葉を皮切りに次々と周囲の仲間たちが労い合う。
僕もまた、スマホの電源を切って、少し伸びをして。
「はぁ、これでノルマ達成かぁ。人間を驚かせるバイトも楽じゃないなぁ」
電車は再び僕たちをのせて動きだした。




