60 何でもは知らないよ
こんな状況なのに、2人も知り合いに会ってしまったが、流石にもういないよな。
マンガ家の奴とか。
でも多分あいつは家にいるだろうな。
引きこもりでマンガ描いているから。
2階のゾンビ共の掃討は、斉藤の案のおかげでスムーズに終わらせる事が出来た。
フードコートの先は南側と西側の店舗のみだったが、防犯ブザーでゾンビを引っ張って行き、全て割った窓から落とした。
「まるでハーメルンの笛吹きね」
「何だそれ?」
「1284年に、ハーメルンという町でネズミが大繁殖した時に、派手な衣装を着た男が現れた。その男が笛を吹くと、町中のネズミが集まって来て、そのまま川に連れて行って、川に落として溺れさせたの。有名な童話だよ?」
「へぇ。堀江さんは何でも知っているんだな」
「何でもは知らないよ。知ってることだけ」
これが聞きたかったんだ。
昔からの口癖だ。
「ところで神谷君?」
「何だ?」
「どうして斎藤さんだけ呼び捨てで、私はさん付けなの?」
「ああ。久し振りに会ったからな。何だか気恥ずかしくて」
「へぇー。斎藤さんとも久し振りじゃなかった?」
「そ、それは」
「元恋人の特権よ?」
「はいはい、ごちそうさま。でも神谷君、これからは堀江って呼ぶこと」
「わかったよ、堀江」
斎藤が助け舟?を出してくれた。
だが呼び捨てするのは確定みたいだ。
まあ昔に戻るのも悪くないがな。
そんな会話をしながら、フードコートに戻り、少し早い夕食を取ることにした。
まだ夕方まで時間があるが、昼食を誰も取っていなかったからだ。
料理は女性2人がしてくれる。
待っている間、窓から外を眺める。
街の至る所から火の手が上がり、煙が空へと昇っている。
昨日はひっきりなしに鳴っていたサイレンの音も今日はしない。
この世界は終わってしまったのだろうか。
感傷に浸っていると、料理の良い匂いがして来た。
「料理できたよー」
「今日はハンバーグ」
堀江と斎藤が料理を運んで来た。
ハンバーグは斎藤の得意料理だったな。
こうしていると、高校時代を思い出す。
窓の外はすっかり変わってしまったが。
夕食を食べ終わり、今後の予定を3人で話し合う。
「2人はこれからどうする?家族がな心配だろ?」
「私はここに残るわ。家族なんていないようなものよ」
「私もかな。家族は心配だけど、ここから出れる気がしないし」
斎藤の家は特殊だからな。
堀江さんはどうにかして家族に会わせてあげたい。
今は無理だろうけど、そのうち外に出る事になるだろう。
「とりあえず中の安全は確保出来たから、外のゾンビをどうにかしたいけど、何か案はあるか?」
「燃やせばいいわ」
「ゾンビが彷徨いて建物に燃え移らないか?」
「さっき試してみたのだけど、ゾンビは光に集まる傾向があるみたいだから、遠くで火を着ければこっちには来ないはずよ」
斎藤はそんな事いつの間にやってたのだろう。
さすが才女、そういう所は抜かりがないな。
ガソリンは外の車に沢山あるから問題ないな。
「どうやって火を着ける?」
「ガソリンは30度くらいで気化するから、車のガソリンタンクを開けて回り、そこに遠くから火を着ければいいと思う」
もう一人の才女、堀江が提案する。
流石は海外でテロリスト扱いされている女だ。
「遠くから火を着ける方法は?」
「そうね。食品売場の雑貨コーナーにロケット花火が売っていたから、それを使いましょうか」
「それ大丈夫なのか?」
「気化したガソリンが広がり過ぎると危険だけど、素早くやれば大丈夫。でも爆発したらごめんね」
堀江が脅してくる。
車のガソリンタンクを開けるのは俺だろうから、爆発に巻き込まれたらまず助からないだろう。
「ゾンビは私が防犯ブザーで引き付けるから、神谷君はガソリンタンクに集中してちょうだい」
斎藤がゾンビを引き付け、俺がガソリンタンクを開け、堀江が花火を打つ。
超高校級だった2人の案なのだから、俺は信じて走るだけの簡単なお仕事だ。
作戦も決まったので、それぞれが準備に入る。
俺は屋上に行き、備え付けてある縄梯子を拝借する。
斎藤は屋上から防犯ブザーを投げ入れる準備をする。
堀江はフードコートの窓に、ロケット花火を設置する。
準備完了だ。
俺は2人に手を振り、バールを手に縄梯子を降りて行く。
因みにゾンビに襲われない事は、堀江には既に説明済みだ。
下に降りる前に、屋上からブザー音が聞こえて来たので、斉藤の誘導も始まったのだろう。
ゾンビ共が音に釣られたおかけで、俺の前には歩けるスペースができて来た。
だがまだ移動するゾンビのせいで、車まで近付けない。
すると、さっきとは逆の方からもブザー音が聞こえ、ゾンビは真っ二つに別れて移動し、ちょうど俺の前に道ができた。
多分、斎藤の計算通りなんだろうな。
俺は心の中で感謝を言いながら、ゾンビと車の間を突っ切り、車の窓ガラスをバールで割りながら、駐車場の端まで辿り着いた。
そして、遠くの車から順にガソリンタンクを開けて行く。
ガソリンに引火しないよう、窓ガラスを先に割ったので、その作業はすぐ終わった。
そして、モールまで戻った俺の後ろで大爆発が起こった。




