56 悪・夢物語
俺の名前は 神谷 浩 だ。
仙台にあるショッピングモールに勤務する警備員だ。
その日は朝から仕事で、その時間は巡回業務をやっていた。
そのショッピングモールは、中央にある建物と、それを取り囲む建物に、それぞれお店が入った2階建てのモールとなっており、2階は連絡通路で繋がっている。
外側の建物には、東西南北にエントランスがあり、そこから外の駐車場に出る事ができる。
そして、一番大きい南側にあるエントランスを巡回中にそれは起こった。
俺は一度エントランスから外に出て、駐車場の方に目を向ける。
そこでは、駐車場の警備員が華麗な動きで誘導を行っていた。
その警備員が一台の車を誘導したのだが、その車は停まる事なく、他の車にぶつかってしまった。
警備員が心配そうに、ぶつかった車に近付きドアを開けると、中から血だらけの男性が出て来た。
その男性は、何を思ったか警備員の首筋に噛み付きだした。
「ぎゃああああぁぁぁ!」
警備員の絶叫がその場に響く。
警備員は必死に抵抗するが、その男性の力が強く振り解く事が出来ない。
俺は防災センター無線で応援を要請し、警備員の場所まで走った。
その間にも周りにいた人達が、警備員から男性を剥がそうしているが離れる気配がない。
その場に着いた俺は、手にした警戒棒を男性の肩や腕に振り下ろすが、痛がる素振りさえ見せない。
「ごめんな」
俺は最終手段として、男性の頭を警戒棒で殴った。
さすがに痛がって離すだろうと思ったが、全然効いていない。
「何なんだこいつは!」
悪態を吐きながらも男性を観察してみると、その顔は青白く血管が浮き出ていて、目は白く濁っている。
これはもしや、俗に言うゾンビと言う奴では?
警備員は事切れたのか、その場に倒れてしまった。
女性が警備員を介抱しようと近付いていた。
そのゾンビのような人は続けて、周りにいた警備員を助けようとしていた人に噛み付いた。
俺は必死にそのゾンビのような人に、警戒棒を振り下ろし続けたが無駄に終わった。
その噛まれた男性も、その場に倒れてしまったからだ。
すると後ろの方から悲鳴が聞こえた。
警備員を介抱していた女性からだ。
そこでは、先程死んだはずの警備員が起き上がり、介抱していた女性に噛み付いていた。
俺の目の前でも、さっき噛まれた男性が起き上がっている。
その時、応援に呼んだ警備員達が到着し、刺すまたを使いゾンビのような人達を包囲してくれた。
これで助かったと思ったが、そいつらの力は凄まじく、刺すまたで押さえても止まらずに向かって来る。
そしてノーマークだった、女性のゾンビのような人に、警備員の1人が後ろから首筋を噛まれ、包囲網は崩壊した。
周りの人達や警備員が、我先にと逃げ出して行く。
俺も無理だと悟り逃げ出そうとしたが、誰かに後ろから掴まれた。
最初に噛まれた警備員だ。
そいつは俺の首筋目掛けて噛み付こうとして来るが、間一髪、腕でガードする事が出来た。
しかし噛まれた腕からの大量の出血と、激痛によって気を失ってしまう。
失い行く意識の中で、悪夢なら覚めてくれと切に願いながら、俺の意識は遠のいて行った。
俺もあいつらみたくなるのだろうか・・・
それから目が覚めた時、辺りは静寂に包まれていた。
どれくらい時間が経ったのだろか、辺りは夕闇に包まれていた。
俺は周りを見渡し愕然とした。
ぶつかった車、撒き散らされた血の跡、投げ捨てられた刺すまたや警戒棒が、意識を失う前と同じだった。
悪夢はまだ続いていたのだ。
俺はショッピングモールがどうなったか気になり、出て来たエントランスへと向かう。
辺りにはチラホラと、ゾンビのような人達がフラフラとしていた。
もうゾンビで間違いないだろう。
ただゾンビ共は俺に対して向かって来ない。
「ああ、俺もゾンビになってしまったか」
俺は意識を失う前より軽くなった体で、軽快にスタスタとエントランスへ向かう。
エントランスからモールの中に入った途端、、絶望した。
そこには、所狭しとゾンビの群れが蠢いていたからだ。
これは皆ゾンビになり、生存者はいなさそうだな。
俺はエントランスに戻り、まだ動いているエスカレーターから2階に上がる。
2階も1階と同様にゾンビだらけだった。
さて、これからどうしようかと考えながら歩いていると、ふとお店のウインドウに映った自分の姿を見た。
そこに映っていたのは、前の姿のままの自分だった。
しかし、周りにいるゾンビ共は、俺が最初に見たゾンビと同じ姿をしている。
「まさかゾンビになっていない?そういえば、周りのゾンビはウーとかアーとか言ってフラフラ歩くだけだが、俺は喋れるし普通に歩ける。でもあいつら襲って来ないんだよな」
考えてもわからないので、俺はとりあえず防災センターに戻る事にした。
まだ悪夢の物語は終わらない。




