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望みうる最善(5)

 頂きへの道。――優れた能力を持ちながら、生母の身分ゆえに、弟に王太子の座を奪われた第一王子。

 スカーレットの顔に、淡い悲哀が薄いヴェールのように漂う。だが、目や声から力は失われなかった。


「それでも息子は道を誤らず、自分だけの道を見つけた。私は、息子の道を、その先の最善を見つめられる同志を見つけてあげたかった。ジルベルトと同じものを見ることができる、最善の相手を」


 静かな輝きを宿した目が、エヴェリーナを真正面から見据える。

 エヴェリーナは一瞬それに呑まれかけ、それでもはっきりと見つめ返した。この強い眼差しには見覚えがあった。


 ――目の前のこの人は、ジルベルトの母なのだと強く実感させられる。


「意地の悪いことを言ってごめんなさいね。ジルの顔を見たときから、わかっていたのだけれど」


 息子と同じ美しい赤毛をした女性は、エヴェリーナに微笑みかけた。それは驚くほどジルベルトによく似た、勝者の笑みだった。


「ありがとう、エヴェリーナ。あなたはきっと、ジルベルトにとって“最善”だわ」


 晴れやかな声が、エヴェリーナの耳によく響いた。スカーレットの表情や声に、一瞬、大輪の薔薇が開いたような印象を受ける。

 自然とエヴェリーナの頬は熱くなった。胸までもが熱い。――ジルベルトに似たこの女性に認められたことが、たとえようもなく嬉しかった。

 すぐには答えられずにいると、控えていた侍女たちが第一王子の帰りを告げた。


「母上」

「あら、もう戻って来たの、ジル? よほどエヴェリーナを独占したいのねえ」

「今回は母上以外に用事のある相手がいないのですよ。あまり社交的になりすぎても後で面倒なことになるだけです」


 にこやかに笑いながらからかう母に、ジルベルトはかすかに眉間に皺を寄せる。他の者が見れば緊張を強いられるジルベルトの表情も、スカーレットの前では、すねたような表情にしか見えなかった。

 スカーレットは再び温和な笑顔を浮かべた。


「まあいいわ。今日はここまでにしましょう」


 穏やかなその言葉が、面会の終わりを告げる合図だった。

 エヴェリーナは立ち上がると、深々とスカーレットに腰を折った。


「お会いできて光栄でした」

「こちらこそ。ぜひまたいらっしゃい。ジルの目を盗んでね」


 スカーレットは軽やかに笑い、ジルベルトはやや苦い顔をする。

 そんな親子をエヴェリーナは微笑ましく、そして感嘆まじりの思いで見つめた。

 差し出されたジルベルトの腕に手を絡めて場を辞そうとしたとき、スカーレットは短く告げた。


「ジルベルトをお願いね」


 気さくな響きの言葉だった。だがそこにこめられた多くのものを感じ取り、エヴェリーナの胸に再び熱がこみあげる。

 優しく微笑むジルベルト似の女性に向かい、自分も短く、けれどはっきりと答えた。


「はい、お義母かあ様」


 ジルベルトは少し驚いたように、それでいて不思議そうにエヴェリーナと母を一瞥した。




 帰りの馬車に揺られながら、ジルベルトはエヴェリーナを見て問うた。


「母とは何を?」


 エヴェリーナは微笑む。そうして、第一王子であり夫である美しい赤毛の人に答えた。


「色々なことです。――殿下は、スカーレット様によく似ておいでですね」

「この髪か。顔の作りも母譲りだとはよく言われるが」

「いえ、それ以外の部分も特に」


 エヴェリーナが続けた言葉に、ジルベルトは不意を突かれたような顔をする。

 瞳が大きくなったその表情に一瞬スカーレットが重なって見え、エヴェリーナは思わず声をこぼして笑った。

◆最新情報、小ネタなどツイッターでつぶやいています。

https://twitter.com/nagano_mizuki

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