7話目 『 東の双鬼 』
これは去年の春頃体験したことだ。
僕は年下の綺麗な彼女と地元の桜が有名な神社に来ていた。
彼女は真面目な性格で、外も中身も清楚な子だ。
凄く可愛くて、綺麗で、美しくて、気高くて、
・・・・・・・・・あ、話が逸れたね。
ごめんね。
つい、彼女の事になると止まらなくなるんだ。
それで、その神社は神様を祭っているんじゃなくて、2匹の鬼を封じる為に立てられた神社だ。
マイナーだけど、昔話にもなっている。
昔々、東の山には“双鬼”と呼ばれる双子の“鬼”が居たそうだ。
兄の名は紅、弟の名は蒼。
双子の鬼はとても仲がよく何所に行くにも人や家畜を襲うときも一緒だった。
ある日、何時もの様に鬼共が近くの村を襲い山に帰ろうとしていると一人の美しい娘とその従者が現れた。
娘は鬼を退治に来た巫女だったが、兄鬼は娘が巫女だと知っていながら惚れてしまった。
山に戻った兄鬼は村を見ると、
「あぁ、何と美しいのだろう・・・だが俺は多くのものの命を“喰い”この身を汚してきた鬼だ。あの者と共にいることはできぬ・・・」
と嘆いた。
そんな兄を見た弟鬼は、
「兄上、兄上が好きな若い娘の肉ですよ。兄上の為に取ってきました。さぁ、喰べてください」
と村の娘を連れてくるが、兄鬼は
「弟よ、娘を村に返してあげなさい。俺が人を喰えばあの娘が悲しむ。俺はそんなことをしたくない。だから返してあげなさい」
と弟鬼に言い食べなかった。
仕方なく弟鬼は娘を返し1頭の牛を連れてきて
「兄上、人ではなく牛はどうですか?人も牛を食う。だから大丈夫ですよ。」
と言って差し出すが、
「弟よ、その牛は人だ育てた牛だ。俺が牛を食えば育てた人が悲しみそれを見たあの娘が悲しむ。俺はそんなことをしたくない。だから返してあげなさい」
と兄鬼は食べなかった。
仕方なく弟鬼は牛を返し木の実を両手いっぱいに持ってきた。
「兄上、兄上。木の実はどうですか?山の奥地にある木の実を持ってきました。あそこの物なら人も獣も食べません。誰も悲しまない。さぁ」
そう言って木の実を差し出すが兄鬼は首を振って、
「駄目だ、駄目なのだ。あの娘を思うと何も食えなくなる。」
と食べなかった。
弟鬼は木の実を兄の近くに置くと何処かに行ってしまった。
しばらくして戻ってきた弟鬼は抱え切れないほどの竹の筒を持っていた。
「兄上、水を持ってきました。食べることができないならせめて飲むくらいはできるでしょう?」
1本の竹筒を渡すし、
「あの娘を想うと何も喉を通らぬ・・・おぉおお、おぉおおお!鬼であるこの身が憎い!なぜ、俺は人ではなかったのか!おぉぉおおおぉおぉおおおおおおぉぉぉぉ」
と兄鬼は空を仰ぎ嘆いた。
兄鬼は雨が降ろうが冬が来ようが何も口にせず嘆き続けた。
そんな兄に弟は毎日毎日何か食べさせようと色々なものを持ってきた。
それは花だったり魚だったり、自分の血肉だったりした。
しかし、弟の想いとは裏腹に兄はなにも口にせずどんどん弱っていった。
ある日、何時もの様に弟鬼が兄のところに行くと兄鬼が居なくなっていた。
「兄上?兄上!何所ですか?!兄上っ!!いるなら返事をしてください!兄上ぇええぇぇぇえ!!!!!!」
弟鬼は泣き叫び山を走り回った。
「兄上!!!!」
ようやく見つけた兄はすでに冷たくなっていた。
目の前には兄鬼が想い続けていた巫女がいた。
兄鬼を見つめた巫女は、
「この地に住まいし鬼よ、私はあなたの兄の願いを叶えました。鬼であることを苦に想ったあなたの兄は私の手で封じてくれと頼んできた。・・・・・・・・・・・・・あなたはたった1人の肉親を奪った私を恨みますか?」
巫女の言葉を聴いた弟鬼がなんと答えたかは分からない。
だが今も双子の鬼は同じ場所に封じられている・・・・・・
と言う話だ。
この鬼の兄弟は異国の者だとも、何らかの理由で食人鬼になってしまった村人だとも言われているらしい。
でも、大体の人はそんな昔話を知らずに神社に来ている。
その神社の境内にある桜の巨木は毎年見事な花を咲かせている、その神社のご神木で、その木の下に鬼の兄弟が封じられているそうだ。
だからこそ、毎年綺麗な花が咲き誇るんだとも言ってる人も居たそうだ。
まぁ、全部彼女の受け折だけどな。
あの日初めて、彼女と共にあの神社に行った。
噂通りの見事な桜の花を咲かせた巨木。
それを見上げる彼女はとても美しくて、儚げで、幻想的で、まるで物語の中から出て来たみたいで、今にも僕の前から消えてしまいそうだった。
だからつい、彼女に断り無く写真を撮ってしまった。
あの時の彼女をどうしても残して置きたかった。
その後は何事も無く、花見をして帰った。
問題は、家に帰った後。
あの時撮った彼女の写真を確認をして、僕は心底驚いた。
その写真に彼女の姿は写っていなかった。
代わりに蒼い髪の、額から1本の角を生やした鬼が、本来なら彼女が居る場所に写っていた。
桜を見つめるその鬼はとても、とても、美しく、今まで見てきたどんなものよりも美しかった。
そして思い出したんだ。
昔、あの神社は女人禁制だったと。
その理由が、女性が入ると封じた鬼が女性の腹を使って蘇る。
人の器を使い蘇った鬼は周りに怪異をばら撒く。
だから、女性は入ってはいけないと言う事だった。
彼女が生まれる前、彼女の両親もこの神社でお参りをしていたという。
もしかしたら、彼女は封じられた鬼の生まれ変わりかも知れない。
あの美しい鬼が彼女だというのなら、なんと素晴らしいことなんだ!
彼女が人を食べたいというなら、僕は喜んで彼女に食べられよう!
あぁ!
あの美しい彼女の血肉の1つに成れるなら本望だ!!
あぁ、あぁ!!
何と素晴らしい事なんだ!!!!
*****
恍惚の表情を浮かべたまま私と同じ位の年頃の男性は蝋燭の炎を吹き消した。