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ドラキュティックタイム  作者: 秋山 楓
第6話『クビナシシンドローム』

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第9章 ターニャの正体

 追跡に失敗した天崎は、重い足取りでおののき荘に帰還していた。


 まずはリベリアの部屋へ顔を覗かせたものの、誰もいない。もしやと思って自分の部屋へ戻ったところ、畳の上に横たえられた犬飼の胴体を、興味津々に眺めているリベリアと円を発見した。


「あ、天崎さん。おかえりなさい」


 天崎の帰宅に気づいたリベリアが、普段よりも声を落として迎えてくれた。

 まあ犬飼は天崎の友達なので、こっちに運んだことについては何も言うまい。


 部屋に上がった天崎もまた、沈痛な面持ちで犬飼の胴体を見下ろした。


「その顔から察するに、どうやらターニャちゃんには逃げられちゃったようですね」

「あぁ、悪いな」

「天崎さんの足ですら追いつけないなんて、もしかして乗り物にでも乗られちゃいました?」

「そうだよ。コンビニでチャリをパクってった」

「なら仕方ありませんよ。乗り物に乗ったデュラハンは、私ですら追いつくことができなくなりますので」

「お前で追いつけないって、いったいどれだけ速いんだ……」


 リベリアは北欧から日本まで、一日かそこらで移動できるはず。そんな驚異的な能力を持つ彼女ですら追いつけないなんて、自転車としては間違いなく人知を超えていた。


 だがリベリアは首を横に振り、天崎の考えを否定する。


「いえ。速度が速いのではなく、乗り物を運転するデュラハンに逃げる意思があった場合、決して『追いつけない』んです。不思議なことに、こちらがどんなスピードで追いかけても、それ以上の速度で逃げられてしまうんですよ。捕まえる方法としては、何らかの方法で乗り物から降ろすか、壁に囲まれた場所へ追い詰めるしかないでしょうね」

「それがデュラハンの能力ってわけか」


 切り離された首筋から食事ができる種族だ。もう何があっても驚くまい。


 そしてリベリアと会話している間にも、天崎はようやく決意を固めた。

 現実と向き合う決意を。


「えっと、それで……犬飼は、死んじまったのか?」


 首のない胴体から目を背けながらも、天崎はゆっくりと問う。

 現状を言葉にすることで、受け入れたくない現実が一気に押し寄せてきた。

 もちろん、許容したくはない。しかし断頭された姿は、どう甘く見たところで……、


「いいえ、天崎さんのご友人は亡くなられていません」


 断言するリベリアの言葉を耳にし、天崎はパッと顔を上げた。

 だが死んでいないと明言したにもかかわらず、彼女の表情は浮かなかった。


「こちらを見てください」


 と言ってリベリアが指で示したのは、切断された首筋の断面だった。

 言われるがまま、恐る恐る犬飼の首元を覗き込む。


 そこに人間の身体が切断された生々しさはなかった。何か黒い靄のようなものが発生しており、首の断面を覆っているのだ。ターニャの首筋がそうだったように。


「彼は今、ターニャちゃんに首を斬られたことにより、半デュラハン化しています」

「半デュラハン化?」


 聞き慣れない単語を耳にし、天崎は首を傾げた。


「デュラハンは、その手で人間の首を刎ねることによって、相手をデュラハンにすることができるんです。吸血鬼が眷属を作るのと同じようなものですね。天崎さんのご友人は、今まさにデュラハンになりつつある状態なんです」

「犬飼は……デュラハンになるのか?」

「……はい」


 神妙に頷くリベリアに、天崎は失意の底に突き落とされた。


 命を失うよりはマシかもしれない。だが今まで人間として生きてきた奴が無理やりデュラハンにされるなど、社会的に抹殺されたも同然だろう。


 決して天崎に責任があるわけではないが、もう少し慎重に行動するべきだったと、自責の念に囚われてしまっていた。


 重々しい空気の中、天崎はリベリアに問う。


「戻る方法は……ないのか?」

「あります」

「あるのか!? 教えてくれ!」


 なりふり構っていられない天崎は、リベリアの両肩を掴んで懇願する。前後に揺すられて頭をガクガクさせながらも、彼女は犬飼が人間に戻る方法を口にした。


「今、天崎さんのご友人は頭も胴体も眠っている状態にあります。目を覚ますのは個人差がありますけど、だいたい一日か二日くらいかと。それまでに頭と胴体を繋ぎ合わせれば人間に戻ります」

「このまま目が覚めたら、どうあってももう人間には戻らないんだよな?」

「はい」

「だから逃げたのか……」


 首を刎ねた後、ここで待っていても天崎たちに反対されるのは目に見えている。犬飼を強引にデュラハン化させたいのなら、頭を持って逃げるのが合理的だ。


 ただそうなると、一つの疑問が見えてくる。


「なんでターニャは犬飼をデュラハンにさせたいんだ? 俺たちが来るまでの間に何かあったのか?」

「私だって分かりませんよぉ。暇つぶしに漫画を読んで待ってたんですが、突然ターニャちゃんが暴れ出したんですからぁ」


 突然? と訝しげに思ったが、泣きそうになりながら訴えるリベリアを見る限り、本当に突発的な行動だったのだろう。心当たりすらもなさそうだ。


 とりあえず……と、天崎はスマホを取り出した。


 今第一に優先すべきはターニャの確保であり、犬飼の頭部を取り戻すことだ。どこに行ったか見当もつかないなら、あの男の助けを借りるほかない。


 電話をすると、コール三回で相手が出た。


『やあ、『完全なる雑種』。君からの連絡は面倒ごとが多いから、つい居留守を使おうか迷ってしまったよ』

「悪いな、小悪魔。ご期待に違わず、その面倒ごとだ」

『……一応、話してみろ』


 どうやら聞く気はあるようなので、天崎は遠慮なく一部始終を話した。

 そして話し終えたところで、電話口から今世紀最大のため息が聞こえてきた。


『はああああぁぁぁぁ!!? なんで頭部を返しに行っただけで、そんな面倒なことが起こるんだい!?』

「俺に言うなよ。なっ、頼むから力を貸してくれ。犬飼の危機なんだ」

『そりゃ手伝うけどさ……なんで君の周りはいつもそうなんだ……』


 後半はただの愚痴だったものの、そんなこと天崎だって知ったこっちゃない。何故か面倒ごとが向こうからやって来るのだ。そしてそれを是としない安藤も、ある意味連帯責任みたいなものだと、天崎は思っていた。


『……分かったよ。今から僕も捜しに行くから、見つけたら報告する』

「いや、その前にウチに来てくれないか? 一応、お前の目で犬飼を診てほしい」

『そっちまで行く時間が惜しいし、必要ないだろ。どうしても心配なら、隣に住んでるサキュバスに診てもらえ。おそらくだけど、この件に関しては彼女の方が詳しいと思うよ』

「この件? どういうことだ?」

『彼女に聞けば分かる。それでまた何か不明な点があれば、僕に連絡して来い』


 そう言い残すと、挨拶もせずに通話が切れてしまった。


 どうやら安藤は相当ご立腹の様子。とはいえ奴の境遇からすれば、腹を立てるのも無理のないことだ。むしろ協力してくれるだけ感謝しなければならないだろう。


 通話を終えた天崎は、側で待機しているリベリアに報告した。


「安藤も協力してくれるみたいだ。けど犬飼を診断したかったら、空美さんを呼べだってさ」

「あっ、じゃあ私が呼んできますね。この時間、空美さんは寝起きですから、天崎さんが訪ねると不機嫌になるでしょうし」

「え? あぁ、おう……頼むわ」


 颯爽と部屋から飛び出していくリベリアを見て、アイツも責任を感じてるんかなぁと思った天崎だったが、どうしても気になってしまうことがあった。


「空美さんって、俺以外なら寝起きでも不機嫌にならないのか?」


 確かに男が一人暮らしの女性を訪ねるのはあまりよろしくないとはいえ、今さらながら知った事実に、天崎はちょっとだけショックを受けたのだった。






 五分後、リベリアが空美を引き連れて戻ってきた。


 どうやら寝起きという予想は当たっていたらしく、彼女は誰がどう見ても不機嫌そうではあった。ただ急な呼び出しでもちゃんと来てくれるところに、空美の人の好さを窺えたが。


 挨拶もそこそこに、空美は横たわっている犬飼の身体を検分する。とはいっても医者でも専門家でもないので、ほんの少し眺めただけで終わった。


「ふーん、なるほどねぇ」


 状況を把握したのか、空美は大きな欠伸をかました。


「何か分かったことでもありますか?」

「別にねえよ。リベリアが言った通り、デュラハン化が進んでいる肉体は遅くても二日で目を覚ます。それまでに頭を合わせなきゃ、こいつは完全にデュラハンになるってわけだ」

「そうですか……」


 つまり解決方法は、犬飼が目を覚ます前にターニャを捕らえる以外にない。あまりにも手掛かりが少ないこの状況で、逃げる彼女を捕まえるのは限りなく不可能に近いなと、天崎は半ば諦めかけていた。


「ただ解せんのは、なんでデュラ美がコイツの頭を斬ったかってことだ。心当たりはあるのか?」

「ありませんよ。犬飼を連れてきたら、いきなりターニャが出てきて襲われたんですから。理由なんか、本人に聞くしかないんじゃないですか?」

「そりゃそうだが……いいか? デュラハンが人間の首を刎ねるのは、その相手を生涯の伴侶として認めた時なんだよ。デュラハンと人間じゃ結ばれないからな。だから普通は見境なく人の首を斬ったりはしない。デュラ美なりに理由があったはずだ」

「伴侶……?」


 犬飼とターニャの頭部は、三日ほど寝食を共にしていたはずだ。

 その短い間で、将来を誓い合うほどの仲に発展したってことなのか?


 いや、犬飼にそんな素振りはなかったし、デュラハンにならなきゃいけないことを知っている様子でもなかった。デュラハン化が不同意なのは、疑う余地もない。


 では、いったい何故……。

 天崎が黙したまま考えに没頭していると、空美は疑わしげな視線をリベリアに向けた。


「おい、リベリア。お前、何か隠してないか?」

「ぎくっ……」


 露骨に目を泳がせたリベリアが、顔を背けた。冷汗すら浮かべているよう。


 空美、天崎、そして円の視線が、押し黙るリベリアへと集中する。


 責められているような空気に耐えきれず観念した彼女は、罪を告白する子供のように肩を竦めて語った。


「えーっと、実はその……ターニャちゃんって、少々ヤンデレなところがありまして……」

「ははあ、なるほどなぁ」


 呆れながらも納得した空美が、目頭を押さえて天井を仰いだ。

 しかし聞いたこともない単語を出された天崎にとっては、ちんぷんかんぷんだ。


「そのヤンデレって何ですか?」

「簡単に言えば、キャラクター性の一つだよ。相手を好きで好きでたまらなくて束縛してくる奴のことを言うが、具体的な定義はねえな。アニメやマンガじゃ、彼氏が浮気するくらいなら殺してでも自分の物にしたがるような奴だ」

「うげぇ……」

「天崎さん、それはあくまでも創作ですからね?」


 そう諭されても、目の前の結果を見せられては説得力の欠片もなかった。


 一方的に相手の首を刎ね、頭部を奪って逃走する。実際に殺したわけではないが、ターニャは空美の説明するヤンデレ以上の行為をしているんじゃないかと天崎は思った。


「ってことは、ターニャの方も犬飼に想いを寄せていたってことか……」

「おそらくな。確証はないけど、デュラ美もコイツもお互いの想いを打ち明けなかった。たぶんデュラハンになってくださいと頼んでも、断られると思ったんだろうな。んで気持ちが暴走したデュラ美は、無理やりコイツをデュラハンにするため首を刎ねた。胴体がいきなり暴れ出したってのは、頭と精神がリンクする10m以内に入ったからだ」

「……空美さんの方が適任だって、安藤が言ってた理由が分かりましたよ」


 要は、痴情の縺れが原因だったというわけだ。


「ちなみにデュラハンの性行為は人間と同じで、下半身の男性器と女性器を……」

「その話、今は関係ないでしょ!」

「いいや、大ありだぞ。デュラ美がコイツに恋してデュラハン化させようってんなら、将来的に胴体も必要だろ」

「つまり、いずれここに戻って来るってことですか!?」

「まあでも、それはコイツがデュラハンになってからだろうな」


 わずかな希望が見えたものの、それもすぐに消滅してしまった。


 ターニャは必ずここへ戻ってくる。しかし、それは間違いなく二日後以降……犬飼が完全にデュラハンになった後だろう。でなきゃ、逃げた意味がない。


 どのみちターニャを見つけ出さなければ解決しないのかと、天崎は肩を落とした。


「お前ら、デュラ美を捜しに行くんだろ? あたし今日は仕事休みだから、ここで円と一緒に見張っといてやるよ」

「……そうしてくれると助かります」


 そうと決まれば街中を走り回るしかない。


 おそらく今回は目撃者もいるだろう。めちゃくちゃ速く走る自転車か、背の高い美人な外国人を見ていないかなどの聞き込みも視野に入れ、大まかな段取りを立てる。


「なんか面倒ごとが起こるたびに走ってる気がするなぁ」


 うんざりと呟きながら、天崎は靴を履いた。


「あっ、私は日光対策した後、もう少し太陽が傾いてから出発しますので」

「……早く来いよ」


 さすがに今すぐ捜しに行けとは言えず、天崎は一人で部屋を出たのであった。






「さて、まずはどの辺りから攻めるか……」


 おののき荘を出発した天崎は、ひとまずターニャを見失ったコンビニへと足を向けた。そこからどう捜索するのか計画はまだないが、とりあえず逃げていった方角へ進んでみよう。まさか裏をかいて逆方向……とか考えても意味はない。


 というか、そもそも見つけた後はどうする? 自転車に乗られでもしたら、絶対に追いつけないのだ。尾行して、寝るまで待つのが理想的か? それで制限時間までに間に合うか?


 などと思案しながら公道を歩いていた天崎だったが――、

 ふと前方に人が立っていることに気づき、彼は足を止めた。


「……?」


 思考に没頭していたためか、危うく衝突しそうだった。


 だが、その責任は相手にもある。その人物はまるで天崎の行く手を阻むように、道の真ん中で堂々と仁王立ちしていたのだから。


「お前……」


 そして、その容姿と匂いには覚えがあった。


 今日の昼休み、屋上から教室へ戻る途中、廊下で出会ったあの女子生徒だ。あの時と同じくカーディガンを腰に巻いており、アイプチによって大きく見せた瞳は天崎を真正面から凝視している。


 どうしたものか。と思いつつも、天崎は面倒くさそうに声を掛けた。


「えっと……俺に何か用か?」


 そこからは昼間の再演だった。


 天崎の目を見つめながら、ゆっくりと無言で近づいてくる女子生徒。そのままつま先が触れ合う位置まで接近すると、顎の下から顔を覗き込んでくる。物理的な距離が近くなることで、彼女から漂う甘い匂いが鮮明になった。


「ねえ」


 昼間とは違い、今度はハスキーな声で呼びかけられる。

 彼女の目的に見当がつかない天崎は、困惑しながら次の言葉を待った。


「あんたって、おののき荘に住んでるんだよね?」

「――ッ!?」


 驚きのあまり言葉を失った。


 いや、よくよく考えれば驚く必要はない。別に天崎は住んでる場所を隠しているわけではないし、おののき荘は知る人ぞ知る隠れ家というわけでもない。ただ自分の知らない人間が、自分の個人情報を握っていることに嫌悪感を抱いただけだ。


 なんか、この女子生徒を前にすると調子が狂う。

 そんなことを考えながらも、天崎は当たり障りのない返答をした。


「あぁ、そうだよ」

「ふーん」


 何を納得したのか、女子生徒は鼻を鳴らす。

 すると突然、彼女は天崎の手首を掴んだ。


「ちょっと話したいことがあるから、付き合いなさい」

「は? いや。今、急いでるんだけど……」

「ふーん?」


 まるで断られるとは思っていなかったように、彼女は目を丸くする。しかし天崎が拒否したところで退却する様子はない。手首を掴んでいる力が、さっきよりも強くなっていく。


 あ、こりゃ相当に面倒いタイプだと直感した天崎は、相手にしないことを決意した。

 手を強引に振り払い、相手を刺激しないよう下手に出る。


「悪い。今は本当に急用なんだ。それが終わったら話でもなんでもするからさ……」


 申し訳なさそうに頭を下げて、天崎は女子生徒の横を通り過ぎた。


 今はこんな所で時間を取られている場合ではない。リベリアや空美は、犬飼が目を覚ますまで一日か二日と言っていたが、それが絶対とは限らないのだ。短くなる可能性だってある。一秒たりとも無駄にしたくはなかった。


 さっさと諦めてくれないかなぁと、歩き出す天崎だったのだが……。

 前を向いていても、女子生徒がついてきていることはよく分かった。


「ねぇ、待ってよ」


 強めの口調で呼び止められる。

 しかし天崎は止まらない。むしろ歩調を速める。


「待てよ」


 さらに語調が強くなる。

 怖くなった天崎は、ほとんどランニングに近い形で逃げ始める。


「待たないと殺すぞ」


 ついに脅迫になった。

 背中に殺意を感じ、天崎はとうとう全力で駆け出した。


「待てっつってんだろ、ごらあああああぁぁぁ!!」

「えぇ!? マジでなんなんだよアイツ!?」


 走りながらも、肩越しに振り返ってみる。鬼の形相を張り付けた女が、ものすごい勢いで迫って来ていた。


 しかもめちゃくちゃ速い。『完全なる雑種』の天崎と遜色ない走力。見た目はまったく運動ができなさそうなギャルなのに、その脚力はアスリート並みだった。


 まさか追いつかれる!?

 その焦りと不安は、一瞬にして吹き飛んだ。

 背後の女子生徒が、足音に混ざって叫び声を上げた。


「うちのジャンプ力は、人の頭を越える!」

「は?」


 自慢なのか気が狂ったのか、訳が分からなかった。


 どちらにせよ、そんなバカなことがあるか! という思いで、天崎はもう一度振り返る。そこで衝撃的な光景を目にした。


 運動にはまったく適していないローファーが、アスファルトを蹴る。走り幅跳びの要領で地面から離れた女子生徒の身体が、なんと天崎の頭上を飛び越えたのだ。


 唖然とした天崎は走る速度を落とし、女子生徒の行方を目で追うばかり。


 真上に来た時、スカートの中から非常に際どい紐パンががっつりと見えたのだが、パンツ見えたぜやった! なんて思う余裕はまったくない。そんな小さな喜びよりも、目の前で起こったことへの驚愕が、平常心を奪っていった。


 天崎の頭の上を飛び越えた女子生徒は、そのまま放物線を描いて前方へ着地する。そして身体を反転させると、得意げな顔で指先を向けてきた。


「どお? うちからは逃げられないって、分かったでしょ?」


 これはマジでアカン奴や。けっこう大きな面倒事を持ち込んでくる奴や!

 そう確信した天崎は、無言でUターンを決めた。


「あ、ちょっと!」


 背後で女子生徒が叫ぶも無視。天崎は来た道を戻ろうとする。

 しかし何としてでも引き留めたいのだろう。女子生徒は逃亡を許してくれなかった。


「うちの拳は、アスファルトを砕く!」


 叫び声と同時に爆発音が轟いた。

 まさか……と思い、足を止めた天崎は恐る恐る振り返ってみる。


 道路の真ん中で、アスファルトに拳を突き立てる少女。その足元には、小さなクレーターができていた。


 瓦割のように身を屈めていた彼女は、ゆっくりと腰を起こす。そして拳を顔の前で握りしめながら、にっこりと微笑んだ。


「お話、しましょ?」

「…………はい」


 可愛らしく誘われても、あんなものを見せられた直後では嬉しくもなんともない。


 ついに折れた天崎は、恐怖で身体を震わせたまま、見ず知らずの女子生徒に従うハメになってしまったのだった。

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