ああ憧れの橘君 (挿絵あり)
ソフトボールが当たった痛みも治まり、真奈美は教室へと戻った。そして、ある作戦を思いつく。
ああ憧れの橘君
教室に戻ると、佳奈は私の顔を何度も見る……。
「良かったね、直ぐに腫れが引いて」
「ええ、きっと手当が早くて良かったのよ。ありがとう」
なんか、私の心境は複雑極まりない。
痛い思いをしてしばらく保健室で寝ていたのは、一体何のためだったのだ? 頬っぺたを触りながらそう考えた。
「もしアザになっていたら橘君に合わせる顔がなかったわ。危ない危ない」
そればかり心配していたような気がする。
「……どうせ、滅多に会えないじゃない……」
佳奈にそう言われると、……確かにそうだ。
「そうよね」
「そうなのよね」
はあ~。二人して深いため息をつく。
クラスが違うと会える機会なんてないし、話したことすら一度もない。
他の女子のように練習する姿を見に行ったとしても……遠目に眺めているだけ。
一度だけでもいいから、会って話してみたい。清純な乙女のこの気持ちを何とか伝えたいの――。
「私、橘君に手紙を出してみようかしら……」
「えー! ラブレター? マナもついに行動に出るのね」
頷いた。よし、決めた!
行動しなくては何も始まらない――。
「いつまでもウジウジしていられないもの。今日、手紙を書いて明日渡すわ」
拳を握って立ち上がると、横から則子が口を挟む。
「頭もかなり打ったみたいね……」
「いいえ大丈夫。いたって正気よ。則子は橘君に手を出したら絶対に駄目だからね!」
「はいはい」
必要な物は守る。
ライバルは蹴落とす。
イナリが聞いていたら拍手喝采かしら?
『パチパチパチ。拍手は不可なので音声で対応中』