全然ソフトじゃない! ハードだ! (挿絵あり)
体育の授業中、真奈美に打球が襲いかかり、次元戦艦オイナリサンが……ややこしく処理する。
全然ソフトじゃない! ハードだ!
グランドに出ると、寒さが靴の底からじーんと伝わってくる。
授業はまたもやソフトボール。体育の先生がいい加減なやつで、晴れの日はソフト。雨の日はバスケ。それをかれこれ一年近く繰り返している。
「もっと他にやんないといけないこともあるでしょうに」
「そうねえ。でも……体操とか鉄棒とかも、あんまりやりたいとは思わないなあ」
それも同感。
佳奈も私と同じで、体育なんかには全く興味がない。
「そうそう、ソフトボールが一番楽しいじゃない」
則子だけはそう言って、私達の横を走ってグランドにかけ出した。
……部活で毎日ソフトボールをやっていて、それをまた体育でもやり、さらにそれが一番楽しいと言う則子の頭の中は……いったいどうなっているのだろうか。
見ると則子は係でもないのに大きなベースをせっせと運んでいる。……則子は性格も良いのだ。
――ちなみに、私だって性格がいいと言っておきたい!
私がサードを守っていた時、たまたま球による事件が起きた。
手加減をして投げている則子のボールが、クリーンヒットされたのだ!
カキーン!
「サード!」
則子の声と同時に私の顔を目掛けて打球が一直線に飛んでくる――!
――運動オンチの私に取れるわけないじゃない!
と思った瞬間に、目の前でボールが裂けて……当たらなかった。
驚いてペタリとその場に座り込む……。
「大丈夫? 真奈美」
則子が駆けつけてくる。佳奈も外野から駆け寄って来てくれた。
「ええ、大丈夫……みたい」
『危険信号により接近物を表裏反転処理。その後異次元転送し検証。安全処理後に返送。待機中』
目に映るその文字のおかげで、ボールの直撃を免れたのだけは容易に分かる。
後を見るとレフトを守っていた友達が奇麗に四つに裂けたボールの残骸を持ってきた。
則子やみんなでそれを輪になって凝視する。
「――包丁で切ったように奇麗に四つに裂けてるわ」
「……こんなことって、ありえるのかしら……」
不自然極まりないボールを、みんなが手に取って見つめている。
「もともと亀裂が入っていたのね! おかげで怪我せずに済んだわ、ラッキ~!」
白々しくそう言って元気に立ち上がると、不思議そうな顔をしながら、みんな散らばり、何事もなかったようにソフトボールが再開された。
――ちょっとイナリ! 守ってくれるのはいいんだけど、不自然過ぎよ!
『守るだけならどうってことはない。今回は君の危険信号により処置を施した。待機中』
だから、その処置が不自然だって言うのよ。普通、急にボールが奇麗に四つに裂ける?
『昨日、真奈美の母は、表面赤色内部白色果実をそのように処置していた。それに習った。待機中』
リンゴと言いなさい!
まったく……。
サードベースの横に転がっている裂けたボールを見ると、御丁寧に裂けただけでなく、芯の部分もえぐり取った後がある。
『芯の部分はゴミと判断。自宅の真奈美の部屋のゴミ箱へ転送済み。待機中』
はあ? 私の部屋のゴミ箱?
『学校内ゴミ箱への転送も可能。異次元80318で保管するのも可能。どちらにする?』
「学校のゴミ箱に決まってるでしょ! そんなもの異次元で保管してどうするのよ!」
そう言った瞬間、また則子の声がした――!
「サード! 危ない!」
ボールの残骸から瞬時に前を向いたのだが、ボールを目に捉えることはできなかった。
「キャアー!」
ボールは私の体に……またしても当たらずに、後ろへ逸れた――!
ふー危なかった。
『異次元シールドにより物体接触回避。待機中』
また……みんながこちらを呆然と見ている……。
さっきと同じように……わざわざ私の周りに集まってくれる。ありがたいような迷惑のような……。
「当たったと思ったけど、大丈夫みたいね」
「――なんか、後ろから見ていたら、体を突き抜けたようにも見えたんだけど」
『突き抜けたのではない。異次元へ転送後、今回は姿を維持し背後へ再転送しただけ。待機中』
――ええい、ゴチャゴチャ文字を映すな。
「大丈夫よ、何ともないわよ。あー怖かった。さ、みんな戻って戻って」
またみんなをそう言って守備位置へ戻すと、イナリに文句を言ってやった。
――だ~か~ら、あんなんじゃバレるって!
『バレることの問題について理解不能。待機中』
理解不能ですって?
イナリのことなんかがバレたら、普通の生活ができなくなるかもしれないでしょ。私は今の生活に満足しているのよ。そりゃあ……色々要求とかはあるけど。
『バレて問題が発生すれば、それら全てを削除予定。待機中』
「何でも削除するなっつ~の!」
カキーン!
思わずそう声を出していた時、三度目のライナーが私の顔へと一直線に向かってきた!
「真奈美! 危ない! 避けて!」
「ほえ?」
直ぐに前を向いたのと同時に――目の前が一瞬真っ白になり、今度こそ顔面にボールが直撃した。
――ゴッ!
頬骨に鈍い音が伝わると私は、ノックアウトされたボクサーように……ゆっくりと後ろへ倒れた。
頬にはソフトボールの縫い目と模様がクッキリと赤く浮かび上がった……。




