(Old) Girl's Talk
日曜日の午後。
診察時間が終わると同時にわたしの携帯が鳴った。
亮子ちゃんだ。久しぶりかも...。
「もしもし」
「灯子ちゃん。今からヒマ?」
「ヒマだけど」
「よし、中間の**インター出たとこのファミレスに集合。お互いすぐに出れば、一緒くらいに着くはず。じゃぁ、スタート!」
ふえぇ...。
舞ちゃんに「あとお願い」と言い残し、すぐさま車に飛び乗った。
空気の壁を無理矢理押しのけ、高速を疾走するナインティ。
きっと亮子ちゃんは飛ばすぞぉ。
ああ、サンクにすれば良かった...。
高速を降りると、すぐに目的のファミレスが見つかった。
駐車場に車を止める。
するとすぐにベンツが入ってきて、空いていた隣の枠に頭から突っ込んで停止した。
こんなのは、きっと亮子ちゃんだ。
わたしが車から降りるとほぼ同時にベンツのドアが開いた。
ああ、やっぱり亮子ちゃんだ。
「ひさしぶりぃ」
わたしが声をかけると、亮子ちゃんはちょっとびっくりした顔をこちらに向けた。
「あれ?灯子ちゃんだ」
「なにびっくりしてんの?」
「だって、車違うから分かんなかったよ。やっと変えたんだね」
そうか、ナインティで亮子ちゃんに会うのは初めてだ。
「変えたわけじゃないよ。もう一個買ったんだ。中古だけど」
亮子ちゃんはナインティを見回した。
「それにしても、もう少し普通の選べないかなぁ」
「なんで? これ、ちょー快適だよ。それにこの子が来てから、お出かけの時のオシャレの範囲が広がったんだ」
「どこが...」
亮子ちゃんは、そう言いながら今度はわたしを見回した。
そうか、スクラブ脱いだまま普段着で来てしまった...。
「だって、急がせるから...」
そんな会話をしながらお店に入り、案内された席に着いた。
メニューを見る。
「わたし、イチゴパフェ食べたいな」
「じゃあ、あたしはチョコバナナ」
そのあとのコーヒーも一緒にオーダーした。
「子供は?」
「じじばばが相手してる」
「実家?」
「じゃなくて、旦那の両親が来ててさ。孫孫ってうるさいから、貸してやったんだ」
「はは、貸すんだ...」
「ところで、ごめんね。急に呼び出して」
「何かあったの?」
「全然ないよ、あたしは。あるのは灯子ちゃんでしょ? のろけ話聞いてやろうかと思って」
「のろけないよ。別に」
「とか言って、今が一番いい時でしょ?」
「そーかなぁ...」
「彼のこと考えてドキドキしたり、心置きなく安心して官能的な欲望に溺れたり...、なんて」
「あのね。もう、そんな歳じゃないよ」
「歳は関係ないと思うな。まぁ、灯子ちゃんはツンデレだから、裏で上手くやってると思うけど」
「ヒトのこと言えない。亮子ちゃんだって知らないうちに二人目つくってたじゃない。それはドキドキ? それとも官能?」
「どっちとも違うな。それはあたしの夢...」
「夢?!」
「そう」
「なんだか、壮大だね」
「灯子ちゃんも子供が出来れば分かるよ。って、もー出来てるとか」
「出来てないよ」
「まぁ、早くつくるんだね。かわいいよ」
「わたし、子供を育てる自信ないなぁ...」
「なに言ってんの。自信があるから子供育てるんじゃなくって、育ててくうちに自信が付いてくんだよ」
「そんなものなのかな...」
わたしは届いたパフェのイチゴを口に入れた。
「結婚式はどーすんの?」
「式ねぇ...。そんなの別にやりたくなかったんだけどさ。親にしてみれば、やってほしいんだよね」
「まぁ、親戚の手前とかね」
「ああ、やだやだ」
「じゃぁ、式やんないの?」
「やるよ。教会で」
「結婚式場の教会でしょ?」
「ちがうよ、ほんとの教会」
「ほんとの教会ってのも変だね」
「だからさ。式までに、神父さまのお話を何度か聞きにいかなきゃいけないんだよ」
「へぇ、ほんとに神様に誓うんだ」
「うん、神聖なんだよ」
「別れたらバチあたるね」
「でね、式はいいとして。教会だから披露宴をやんなくていいと思ったら、そーはいかないんだよ」
「それこそ、親戚の手前でしょ」
「そうなんだよね...」
「盛大にやればいいじゃない」
「そんなの考えただけで頭痛くなる。そーいえば、亮子ちゃんはドライアイスから出てきたよね」
「はは、なに考えてたんだろね、あの時は。人生最大の汚点だわ」
「わたしには無理だな...。あと、ゴンドラとか。今もあるのかな?」
「でも、幸せの絶頂期にしか出来ないことだからさ、やっといたら」
「ゼッタイ、いや」
最後のイチゴを頬張る。
「ところで、病院はどうするの?」
「そのままだよ」
「そのままって、生活基盤は?」
「それなんだよね。少なくとも一緒には仕事しない方が変な喧嘩しなくてすむかな...って思うんだ。その方が仕事と切り離せるし」
「いざという時、すぐに別れられるしね」
「あのね。縁起でもないこと言わないでよ」
「彼の病院からでも通うの?」
「中間に部屋借りた」
「なるほど、それいいかもね」
「でもさ...。なんだか最近、このまま仕事が続けられるかなぁ...なんて思うんだよね」
「なに? お疲れなの?」
「そ...」
「だったら、きっぱり仕事辞めて彼に食べさせてもらえばいいじゃない」
「あ、そーいうのって嫌なんだよね。仕事が結婚までの腰掛けだったみたいでさ」
「灯子ちゃんはさ、真面目に考え過ぎるとこがあるからね。もっと適当でいいと思うよ」
「そうだ。わたしの今年の目標は、てきとーに生きる...だったんだ」
「じゃぁ、そうしなよ。成り行きにまかせて、適当に...」
コーヒーが運ばれてきた。
亮子ちゃんはミルクだけ入れると、スプーンで簡単に混ぜたあと、一口飲んだ。
わたしは何も入れずそのまま口に運ぶ。
口の中に残っていたパフェの甘さが中和される。
「大きなお世話かもしれないけど、彼の背後に女の気配はしない? 大丈夫? 獣医のオスは何してるか分かんないからね」
「どうだろ? それこそ四六時中ストーキングしてるわけじゃないしね」
「これを機に、きっぱりと手を切ってくれればいいけど」
「女がいること前提に話さないでくれる」
「彼、何か趣味はあるの?」
「ゴミみたいな車いじってる」
「そんなのがあればいいかもね。おもちゃ与えとけば大人しくしてるし」
「確かにね」
「ごちゃごちゃ問題起こして女に刺されるよりは、車いじってて下敷きになって潰れた方がかっこ付くもんね」
「それちょっと極端過ぎぃ...」
「あはは...」
亮子ちゃんはカップを両手で持ったまま笑った。
ガラス越しに見える風景が、車のライトや街灯のひかりに変わる。
日曜の夕方ということもあり、お店の中は人が多くなってきた。
「おなか空いちゃったね。何か食べようか」
「うん、そだね」
わたしがうなずくのを確認すると、亮子ちゃんは空になったカップを置き、テーブルのコールボタンを押した。
「あたし、パスタにしようかな」
「わたしはカレーが食べたい」
「そのあとは、ケーキ食べたくなるよね、ぜったい」
そんな調子で (Old) Girl's Talk は終わりを知らない...。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
開業編はここまでです。次からは戸惑い編がはじまる予定です。
よろしければ引き続きお付き合いください。 Kei




