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ランスのさだめ  作者: ベギラマ雄子
王位継承編
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砦の偵察その6


 合言葉って何よ、全然分からない。

 ここが普通の小屋じゃないという事だけは分かる。怪しいわ、絶対ドゥーべ砦に違いない。


「谷!」


「ぶっぶううう」


 何だその効果音は、なんかムカつくな。てか、谷って何だ、何で谷なんだ。何処かで聞いた事がある様なセリフだな。


「リク、何か知ってる?」


「知るわけないだろ」


 俺達は、当てずっぽでいろんな合言葉を言い続けた。数十分の格闘の末、奇跡的に当たりを引いた。引いてしまった。諦めて帰るという選択肢は最初から無かっただろうな。

 合言葉は、河蛍。正解の効果音は無いんだな。

 仮面を付けて中へ入ると、赤い軍服姿の男が立っていた。


 (ねずみ)みたいな顔してるわ。前歯も出っ張ってるし、鼠おじさんに決まりね。


「今日配属になりました、ランスです」


 えっ、新人のふりかよ。大丈夫なのかよ。

 ええい、とにかく合わせるしかないか。


「同じく新人の、リクトルです」


「新人?そんな話は聞いてないちゅう」


 ふざけた喋り方だな、鼠のつもりなのか。冗談は顔だけにしてくれ。


「まあいいでちゅう。この名簿に、名前と年齢と生年月日と好きな女性のタイプを書いてちゅう」


 最後の項目必要か。


「あの、私女ですが」


「ちゅう⁈なら、男性のタイプを書いてちゅう」


 真面目に答えるなよ。と、言いつつちょっと気になる。どれどれ…ジョン・メイトリクス大佐って誰だよ。


「あんたはなんて書いたの、見せなさい」


「ほらよ」


「魔女…あんた物好きね」


「うるせ、こういうのはなんでもいいんだよ」


「ランスとリクトルちゅうね。俺はドゥーべ砦の守備隊長ドゥーべ・アルファちゅう」


「ここが砦には見えないわ。しかも、守備隊長一人しかいないじゃない」


 その通りだ。それが本当なら警戒に値しない。

 適当な理由を言って、ここから出た方がいいな。


「せっかちな奴だちゅう。これから案内してやるちゅう」


 そう言って、鼠おじさんは本棚に並んでいる本を押し込むと、本棚ごと横にスライドした。


「凄い、隠し通路だわ。下へ階段が続いてる。分かった、地下に砦があったんだわ」


 まるで恐竜の化石でも発見したみたいに、興味津々で楽しそうだな。


「ちゅう。砦というか、(あり)の巣みたいなものだちゅう」


 鼠おじさんが先導して、蠟燭が灯る薄暗い螺旋階段をゆっくり下りてゆく。

 底の中心を除いても、暗闇だけが広がっていて、吸い込まれそうな感覚に囚われる。落ちたら死んじゃうわ。

 途中、トンネルみたいな横穴があって、奥に進むと食堂とか兵舎とか倉庫とか、そういった横穴が下へ降りる度に沢山あった。


「まるで監獄だな」


「その通りちゅう。だから、食事と寝る時以外は、なるべく外へ出て日光浴をしてるのだちゅう」


 それでも、ここの生活は心身共にきついから、近々解体される事が決定しているらしい。

 そもそもこの砦は、アントルメ周辺を見張るものではなく、河からの侵攻やアルカイド=ベネトナ複合要塞の救援、挟撃といった役割の為だけにある様なもので、膠着状態の最中、不要と判断されたんじゃないかと嬉しそうに語っていた。解体が決まって良かったな。


「逃げ出す兵も後を絶たないちゅう。当然の結果って事でちゅう。ようやく着いたちゅう、ここが本当の守備隊長の部屋だちゅう」


「本当の守備隊長室、どう言う事よ」


「毎日練兵するのに、階段を最下層から地上へ上がるのは流石に辛すぎるちゅう。最初は鍛える為にやっていたけど、もう疲れちゅう。だから、すぐに外へ出られる様に門番として小屋にいた訳だちゅう」


「そうなんだ」


 ランスは途中から聞いていない様だった。自分で振っといて話半分程度とは、酷い奴だな。少しは気の利いた事言ってやれよ。


 鼠おじさんから、紹介状なる物を貰った。


「さっき話した通り、ドゥーべ砦は解体されるちゅう。これで好きな砦に行けるちゅう」


「そう、ありがとう」


 守備隊長室を出たら、反対側に大きな横穴が見えた。鼠おじさんに聞いてみたら、アルカイド=ベネトナ複合要塞に繋がってる地下道らしい。丁度紹介状もあるし、これから行ってみようかな。


「ランス、もう時間だ。戻るのも大変なんだから、大人しく帰るぞ」


「えっ…分かってるわよ。それじゃ、小屋まで競争よ」


「お一人でどうぞ」


「あんたは私の盾なの。盾は主に付いて来ないと守れないでしょ」


 言い出したら聞かないからな、この勝負受けるしかないか。

 階段を全力疾走するなんて、生まれて初めてかもしれない。


「私が勝ったら、明日の朝食はリクが作るのよ」


 あいつは自分が負ける想定はしていないらしい。

 それに、何の合図もしないで上がって行きやがった。


「ずるいぞ、ランス」


「青春でちゅう」


 ランスとリクトルは螺旋階段を駆け上る。

 ドゥーベ守備隊長も負けじと駆け上がるが、途中で足を引っ掛けてしまい倒れてしまった。


 今日一日いろいろあったっていうのに、元気な奴だな。

 俺が止めなかったら、アルカイド=ベネトナ複合要塞に行ってただろうな、あいつ。あぶないあぶない。

 しかしランスの奴、思ったより早いな。追いつきそうで追いつけない。

 このままだと負けちまうじゃあないか。


「負けるかああああああああ!」


「そんなに朝食作りたくないの。私が食べてあげるんだから光栄に思いなさい」


 追いついたと思ったら、ランスの水平チョップが俺の首へクリーンヒットした。


「私の勝ちね」


 何たる非道、人間の所業とは思えんぞ。

 こうなったらお前の足を掴んで引きずり降ろしてやる。


「ちゅうううううう!」


 ゴール寸前で、猛烈な勢いで俺とランスと追い抜いたドゥーベ。

 追い抜かれた事よりも、ドゥーベもこのくだらん競争に参加していた事に驚いた。


「一着でゴールっちゅう。守備隊長として、まだまだ若い者に負ける訳にはいかないっちゅう」


「鼠おや…やるわね、ドゥーベ隊長」


 勘違いしていたのは俺の方だったのか。まあ、どうでもいいか。

 ランスは渋々、優勝賞品として牛頭の被り物をドゥーベに譲っていた。

 帰りは人間として河を渡る事になったな。


 ドゥーベ砦を出た私達は、元来た道を辿って何事もなくアントルメ南門に到着した。

 門の前では、何故かガルシアとジルバがいた。

 家の前で別れた後、心配になって私達の帰りを待っていたのだと言う。

 二人共、私が無事に戻ってきて嬉しそうだった。


「俺は宿屋に戻る」


「あんた私に負けたんだから、明日朝食作りに来なさいよね」


「分かったよ」


 今日は疲れた、帰ってさっさと寝よ。

 しかしとんでもない奴と出会っちまったな。人の話は聞かない、気分屋で我儘、しかも魔法使いときたもんだ。討伐依頼をこなす以外でこんなに疲れたのは初めてだ。先が思いやられる。


「明日何作ろうかな」


 リクを見送った後、ガルシアとジルバを自宅へ招いて、ドゥーベ砦での偵察結果を報告した。

 私が思っていた以上に成果が大きかったらしく、二人共驚いていた。


「まさか、ドゥーベ砦は地下にあって、アルカイド=ベネトナ複合要塞と繋がっていたとはな。しかも、ドゥーベ砦は近々解体されるというじゃないか。戦略の幅が広がるではないか」


「こりゃあ、明日の戦略会議は長引きそうだな、リーダー」


「そうだな。また一から練り直しかもしれん」


 二人共、とても満足して帰って行った。

 今日はだいぶ汚れたから、人一人分は入れる木製の桶風呂にお湯を張って入った。

 本来なら、水を沸かすところから始めなきゃだけど、桶風呂に水を入れてコクシネル(ランスのおまじない)を付与すると、丁度いい温度のお湯を張ることが出来るわ。

 本物の火を点ける事が出来ないのに、水をお湯にする事は出来のよね。

 それにしても、思わず寝落ちするぐらい気持ちいいわ。やっぱりお風呂はいいわね、溜まった疲れが流れ出ていく様な感じだわ。こういう時だけ無属性で良かったと思う。そう言えば、何か大事な事を忘れている様な…まあいいわ。


 桶風呂から出たランスは、火照った体を冷まして寝台に寝転がった。

 今日一日の出来事を振り返りながら日記帳へ記す。

 そのまま寝てしまったランスの表情からは、笑みがこぼれていた。


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