友達の友達は友達の理論はまず友達がいなければ成立しない
「我らが世界へようこそ、勇者様方。私はこのアティライト王国の女王。セレン・アティライトと申します」
煌びやかな大広間。汚れ一つない真紅の絨毯。目の前に現れた、金髪の少女と中世の頃を思わせるような服装の大人達。それらを呆然とした面持で眺めながら一人、虚空に問う。
当たり前の毎日、当たり前の日常。それが、突如として考えられないような非日常に変わったら人はどんな反応をするだろうか、と。
例えば、アニメや漫画なら仰々しく驚いたり、はたまた冷静に事実を飲み込んだりするのが常だろう。
だが現実は違う。芸人バリの反応ができるわけでもなければ、落ち着いて状況を受け入れることもできない。出来ることと言ったら悲しいほどに何も面白くないリアクションだ。
つまり、答えは一つ。
動揺して声も出な——。
「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」
バカ広い大広間にクラスメイト達の叫声が響き渡った。
......。
ということでやってきました異世界。声も出ない、どころか叫んじゃってたね。まあ、このクラスノリいい人多いからね。べっ、別に恥ずかしくないし! 一人ドヤ顔で語ってたことをすぐさま全否定されたって悲しくないんだからね!
さて、羞恥を乗り越え多少は落ち着いてきたので状況整理をしてみようか。え、全然落ち着いてないって? 残念、これが通常運転だ。思考はいつでもフル回転。脳内だけはリア充。やかましいわ。
つい先程まで俺を含むクラスメイトは、至って普通の高校に居たはずだ。時間はHR直後の一時限目。物理の教師であり、我らが誇れない担任である、清水真姫先生が寝坊したため、その時間は自習となった。
文化祭間際+突然できた自習+育ち盛りの高校生。騒がないわけがない。かくして第六回クラス内カバディ大会が始まったのである。
試合は想像を絶するものだった。肉のぶつかる音が響き、勝利を求める雄叫びが木霊する。なかでも圧巻だったのは女子たちだ。お調子者の男子がタックルを言い訳にボディタッチを狙おうものなら、その顔面を膝蹴りでかち上げ猿臂で追撃。すぐさま足を取り、倒したところをチームの垣根を超えた全員でボッコボコにしていた。
絶対にやってはいけないし、それで死んだ三浦くんはどうでもいいのでみんなは真似しないでね。
問題はこの後起こったことだ。
教室の床が突然光を発したのだ。眩しくて瞑りそうになる眼を必死に開けて見てみると、その形は幾何学模様を描いていた。俺のようなオタクにとって、それはまさしく魔法陣。何故、という疑問とともに俺たちは光に呑み込まれ、今に至ると。
いや違うから。現実と妄想の区別がつかなくなったキモオタとかじゃないから。嘘じゃないからホントだから。多分。
「えーと、勇者というのはどういうことですか?」
少しではあるが、皆が落ち着きを取り戻してきた頃にクラスの委員長、神野光が疑問を口にする。
いかにもな主人公然とした物腰の柔らかさと端正な顔立ちを見て、奥で控えてる侍女らしき人たちが何やら小声で話し始めた。その内容は聞こえずとも何を言っているかは想像に難くない。同じ男として思うことがないわけでは無いが、残念ながら典型的なモブ顔である俺とは天と地の差があるため早々に諦めがついている。今更感じることは特に無い。
「申し訳ございません。それを含め、あなた方を呼んだ理由を今から説明させていただきますね」
多くの女性が顔を赤らめる中、一人涼しい顔でそう言うのは女王様だ。どうやら、彼女だけはその毒牙にかからなかったようだ。さすがは女王。やはりそういうのには慣れているのだろうか。見た目的には同年代だと思っていたがもっと年上なのかもしれない。何はともあれ。
っしゃぁざまぁみろ神野! てめえのイケメンフェイスなんて所詮その程度なんだよ、バーカ!
何も感じないと言っておきながらのこの切り替えの速さ。全然知らないけど今のサッカーに最も必要なものだと思ってる。余裕でプロは目指せるだろう。その場合まずはウイイレを買ってイメトレをしなければならないが、さほど興味のないスポーツのために高い出費を被るのは御免なのでサッカー界のレジェンドになるのはやめるとしよう。意識高すぎだなおい。
ちなみに神野の顔でさえ揺るがないならお前って論外じゃんなどというコメントは受け付けない。人間、言葉にしなければ救われることもあると信じてるから。
ピリッ。
そんな音が聞こえたように感じるほど一瞬にして空気が変わった。俺の余計な思考も全て吹き飛び、視線が勝手に女王様へと吸い寄せられる。これがカリスマ性と言うものだろうか。日本にいれば永遠に感じることは無いであろう緊張感が走る。そして、彼女は俺達の未来を決める言葉を言い放った。
「単刀直入に言います。あなた方には魔王を倒し、この世界を救っていただきたいのでしゅっ」
驚いたような表情を浮かべる女王様。すぐさま真顔に戻し俺達を見つめる女王様。耳だけ赤く染まってきた女王様。ちょっと涙目になってきた女王様。
「ブフッ」
誰かが吹いた。
* この物語はコメディーです!
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結局あの後はなんの問題もなく、ガープという名の宰相により魔王やらなんやらの説明が続けられた。いや、なんの問題もないというのは少々語弊があるかもしれない。
具体的には、先の発言を噛んでないと言いはる彼女に対して、絶対に噛んだと主張をし続け、とうとう。
「うるさい! 噛んでないって言ってるでしょ!」
などという可愛いお小言を貰ったのである。俺が。
先に弁明しておくが、決してそのようなことをしたかったわけではない。むしろやりたくなかった。そういうのは主人公がやればいいと思ってる。
では何故俺がそのような大それたことをしなければならなかったのか。そう、神野がやらなかったせいである。あの野郎根っからの主人公キャラのくせに肝心なところで何も言わなかったのだ。
女性には優しく。わかる。わかるのだが違うだろう。実際学校とかでやられたら、小学生かよ禿げろや、などと思うのは間違いないのだがここは異世界。オタクの夢と希望が詰まったロマンなのだ。一回ぐらい生でそういうやりとりが見てみたい。そしてその後制裁を加えるまでがワンセット。やばい俺クラスの男共に殺されるよ。
並々ならぬ視線を一斉に受けているが、特に、厨二病患者四人の目がやばい。完全に犯罪者である。うち一人ほんとに犯罪者予備軍である。いやまあ、守備範囲ロリ限定じゃないことは知ってるんだけどね。でも鼻息荒く、自分より小さい女の子を見ると頭を撫で回したくなるって言ったのはちょっとアウトだったかなって思うの。ちょっとじゃないなあ。
まあそんなことはどうでもいい。重要なのは宰相の話の内容だ。簡単にまとめると、異世界人の俺たちは強い魔法が使えて、その力でこの国を襲う魔王を倒してくれということだ。そいつを倒したら元の世界に帰る事ができるらしい。
短い。短いよ。 重要事項四行で終わったよ。どんだけ薄いんだよ話の中身。実のない話の方が長いぞおい。余談だがこの話をした宰相の髪の毛もこれくらい薄い。さらに言うならこれだけで四行超える。
話を戻すが、俺の意見としてはハッキリ言ってやりたくない。戦いたくない。働きたくない。なお、どんな場所だろうが働くことは嫌である。それはもう嫌悪と言うより恐怖。それぞれ泣きながら、笑いながら深夜に仕事をしている二人の姉を見た時は流石の俺も自室へ撤退した。あの場に残っていたら殺されていただろう。
俺のように渋っている人も数人程度いるみたいだ。了承しているのは正義感の強い奴とノリのいい連中。要は素でやろうとしている神野とそれに乗るリア充達だ。つまり渋っている人はだいたい陰キャ。あっという間に意見が潰されてしまう。残念。
「すみません、一ついいですか?」
諦めの体勢に入っているとクラスメイトの一人である永光彩香が声を上げた。
「先程の説明で私たちが強力な魔法を持っていることはわかりました。あなた方のこれまでの苦労も理解したつもりです。ですが、私にとってはクラスメイトの安全の方が大切なんです。だから......やってもいいという人だけでやるのはではダメですか? あ、もちろん私はやります」
そんな提案をする永光。否、さすが我らの永光様だ。相手のことを考えながらも大事なところはしっかり通す。賢いコミュ力おばけに出来ないことはなにもない。欠点がない。胸もない。イェア!
「申し訳ないがそれはでき——」
「構いません」
「女王陛下?!」
宰相の言葉を遮り女王様が許可を出す。こちらとしては認めてくれるのは嬉しいが、宰相の懸念もよくわかる。もしこれで、誰もやらないなんてことになったら彼らにとって最悪だ。
しかし、その点に関してはもう心配いらないだろう。やらない奴なんて多分いないから。何せ神野と永光が戦うと公言しているのだ。この二人へのクラスメイトの信頼度は半端じゃない。さらに、今回は永光が戦いたくない者のため、即ち自分達の為に前に立って話をしてくれている。それだけで渋っていた者は男女関係なく彼女についていくだろう。それはもうメロメロである。
かくいう俺もさっきまでの固い意思はどこへ行ったのやら。ま、戦ってやってもいいけど。べっ、別にあんたのためじゃないんだからね! くらいには堕ちてる。というのは流石に冗談だが彼女を庇って死ねるなら本望だろう。ガチ恋じゃねえか。
「我々は本来無関係である勇者様方に尻拭いをしてくれと言っているのです。あなたがこの国を案じているのはわかりますが勇者様にも事情があります。我々の無礼を許し戦ってくださると言って頂けることに感謝しなさい」
「......わかりました」
「お見苦しいところをお見せしました。このとおり私共は勇者様方の要望にできる限り応える所存です。ですからどうかこの国を、世界を理不尽に命を奪われることの無いものに。お願いします」
そう言ってこちらに頭を下げる女王様。不謹慎かもしれないが、その姿には尊敬の念を抱く。それはもう、さっきウザ絡みしたのが申し訳なくなってくるレベルで。今後彼女には礼儀をもって接するようにしよう。
心に強く誓った後、気を取り直して話を聞こうと前を向いた。
「それでは早速ですが皆さまの魔法について説明を——」
「陛下、それは私が」
スっと女王様の後ろから現れたのは、護衛らしき男性らと同じ服に細剣を携えた長い青髪の女性だった。敢えて言おう。そこまで胸はないと。無論、永光ほどではない。あれは登山不可能だ。むしろ山じゃないまである。壁(笑)。
「ヒエッ」
何だかわからんが唐突な恐怖に襲われた。ごめん多分わかってる。なんでわかったのなんて言わないし、もう二度と言わない思わない悟らないから許してください。
不思議そうに俺を見つめる青髪の女性に、なんでもないです、と一言謝罪し大人しく話を聞くことにする。
「はぁ。ではまず自己紹介から。私はアティライト王国牙狼団副団長のテミスと申します。以後お見知りおきを」
お見知りおきをー。
「話をする前にひとつ質問です。皆様は魔法についてどのような認識を持たれていますか?」
「魔力を消費して行使する不思議な力のことだと思います」
質問からほぼノータイムでそう答えたのは四人の厨二病のうちの一人、坂本達也だ。
流石はオタクと言ったところか。普段はあまり発言しないくせにこういう所では誰よりも早く言ってくるあたり超きもい。学校行事の雰囲気に当てられ、一人盛り上がり周りに引かれる陰キャに多いタイプだ。認めたくはないが多分俺もここに含まれる。死にたい。
「概ね正解です。魔法とは人によってその種類や数は違いますが誰もが必ずひとつは持っている能力のことを言います。そしてそれは自分の持つ魔力を消費して使うことが出来ます。たとえばこんな風に」
そう言ってテミスが右手をに突き出した瞬間。
音もなく氷像が出来上がった。
「私は氷の魔法が使えるのでこのようなことが出来ます。使い方はおいおい話してゆくので、まずは皆さんの使える魔法を確認しましょうか」
そう言われるとクラスの皆がざわめき出した。そこには陽も陰も関係ない。皆が自分もやってみたいと期待の眼差しをテミスに向けていた。
「意識してみてください。自分の魔法は何かを。そうすれば声が聞こえるはずです」
なるほど、その声が自分の魔法を教えてくれるということか。よくあるラノベのように「ステータス」とか言わなきゃいけないのかと思っていたので、ありがたい。厨二臭いことをやるのは好きだが、それは脳内と一人の時であって人前でやるのはしんどいのだ。
しかし意識か、難しいな。やってみてはいるのだがなかなか答えが返ってこない。周りの声に耳を傾けると出てきている者もいるようだ。聖剣だの聖弓だの聞こえる。集中すればわかるよ、というクラスメイトのアドバイスが聞こえたのでやってみよう。無駄な思考を捨て、その一点のみを考える。集中、集中、集中。
『俺の魔法はなんだ?』
『......ありませーん!』
......じゃねえだろおぉぉぉぉぉ!
何がないんだよ。何も無いのか。意味わかんねえよ。ないって何事? さっき誰もが持ってるって言ってたやん。嘘なの? 嘘だったの?
落ち着け片桐、冷静になれ。落ち着いてまず羊の数を数えろ。違う素数だ落ち着け。
とりあえずもう一度だ。きっとさっきのはバグかなんかに違いない。
『俺の魔法はなんだ?』
『ありません』
期待も虚しく、先程と同じ返答をもらう。だが、そんなことで諦める俺ではない。貯めていた小遣い全てをつぎ込んで限定キャラを当てた俺の執念を舐めるな。
『俺の魔法はなんだ?』
『ないです』
『俺の魔法はなんだ?』
『ないって』
『俺の魔法はなんだ?』
『しつこい! ないって言ってるでしょうが!』
あまりにしつこすぎたのか怒鳴られてしまった。怒鳴りたいのはこちらだし、怒られても諦められる類の話では無いのだが。
『ていうかさ、質問する度いちいちキメ顔になるのなんで? 恥ずかしくないの? 』
おい待てそれはやめろ。形から入りたがるオタクとかちょっと恥ずかしい。
『それにさあ、聞いてる側がなんでそんな偉そうなの? 敬語とか使えないの?』
『......俺の魔法はなんですか?』
『ないでーす』
てめえこの野郎!
『どうすれば俺に魔法を下さるのでしょうか?』
『悪いけど、こればっかりは生まれついたものだからしょうがない。私にできるのは伝えることだけ。諦めて』
『ちょっと待て! おい!』
『仲間を頼って頑張りなさい』
結局、それ以上の言葉は返ってこなかった。
......終わった。俺の異世界チート人生終わった。終わったというか始まりもしなかった。エンドロールに名前乗らない。
ああ、最後の助言を貰う前にひとこと伝えておけばよかった。友達の友達は友達の理論はまず友達がいなければ成立しない。即ち片桐幸希はぼっちであると。




