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モルガナと契約のキス~3980円で召喚した悪魔と、1日3回のキスをする羽目になった話~  作者: 永久保セツナ


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第1話 モルガナと契約のキス

「ふんふんふ~ん」


 枯尾花(かれおばな)幽子(ゆうこ)は鼻歌交じりに、黒いマジックペンを模造紙に滑らせていた。

 本棚には『呪術事典』『魔術大全』といった怪しげな背表紙が並び、机には放り出された宿題。

 今日も勉強よりオカルトが優先だった。

 

「できた」


 ――描いていたのは、魔法陣。

 ネットオークションで落札した魔導書を片手に、満足げに床に置いた魔法陣を見下ろす。

 深夜二時。

 両親は既に寝ている。

 明日は平日。

 どう考えても褒められた行為ではない。

 けれど――。


「本当に出たりしたら素敵なんだけどな」


 幽子は魔導書に書かれた手順のとおりに、わくわくしながら呪文を唱えた。

 そう、彼女の趣味はオカルト研究である。

 学校でもオカルトサークルに所属し、理科部にちょっかいをかけながら楽しく暮らしていた。


「……えっと、なんて読むのこれ。まあいっか。サラダアブラ・メンチカツラ・アブラハム・リンゴーン!」


 ……失礼、魔導書のとおりじゃなかった。完全に適当である。

 しかし、魔法陣から光が溢れた。なんでだ。


「えっ」


 幽子は予想外の事態に、思わず声が出た。

 そのうえ。


「きゃあぁ!?」


 魔法陣からなんか飛び出してくる。

 角とコウモリのような翼、尻尾を生やした女の子だった。


「……えっ?」


 幽子は二度見する。

 それは間違いなく、悪魔であった。


「う、嘘ッ、私、学校にいたはず……ここ、人間界……!?」


 尻餅をついた悪魔の少女は動揺している。

 そして、なぜか苦しそうにしていた。


「……っ、まずい……人間界、魔力が薄すぎる……」


「わぁ、大丈夫?」


「大丈夫に見えますか……? このままだと数分で活動停止します……」


「えっ、そんなレベル?」


 悪魔は予想外に敬語である。

 呑気な口調で声をかける幽子を睨みつけた。


「私と契約してください。本当に死にます」


 角の生えた少女の肩は小刻みに震え、額には冷や汗が浮かんでいる。

 冗談を言っているようには見えない。

 幽子は初めて、事態の深刻さを理解した。


「それは大変。いいけど、どうしたらいい?」


 少女は恥ずかしそうに目を逸らす。

 よほど言いづらいのか口ごもっていた。

 しかし、もはやそんな余裕もないらしい。


「……キスしてください」


「……えっ?」


「だから、キスです。早く」


 契約でキス。意味不明である。

 しかし、悪魔の少女は冗談を言っている顔ではない。

 多分キスしないと本当に死ぬ。


「え、キスってそういう……いやでも死ぬのはまずいよね」


 躊躇している暇はない。

 ファーストキスと悪魔の命、比べるまでもなかった。


「……まあいっか」


 幽子は悪魔に、そっと顔を近づけ――。

 唇を重ねると、幽子の中に流れる何らかの力が、悪魔に流れ込むのを感じる。


「!?」


「はい、これでいい?」


 幽子が悪魔から離れると、角を生やした少女は顔を赤らめていた。

 魔法陣からの光は消えたが、悪魔の少女は残されたまま。


「……夢とか幻覚ってわけではなさそうだね」


「私は悪い夢であってほしかったですけどね」


 悪魔は拗ねたような顔をしている。

 幽子はちょっと可愛いなと思った。


「君、名前は?」


「……モルガナ。サキュバスです」


「わぁ、本物なんだ。ちょっと触っていい?」


「許可を取る前に触らないでください」


「すご~い。翼も尻尾も本物だ」


「話聞いてください。何なんですかこの人間」


 悪魔――モルガナは尻尾でペチペチと幽子の頬を叩く。

 それでも、幽子は嬉しそうだった。

 なにしろ、初めて成功した悪魔召喚である。


「とにかく……契約は成立しました。してしまいました。契約者、あなたは私に魔力を提供する義務が発生します」


「さっきみたいに、キスで?」


「……非常に、とっても、すごく不本意ですが、あなたから生気を経口摂取しなければなりません」


「そうなんだ。これからよろしくね、モルガナ」


「……あなたって、変わり者とか変人とか変な人って呼ばれません?」


「え、なんで? 私は普通に平凡な一般人だよ」


「絶対嘘だぁ~……」


 ――そんなわけで。

 悪魔・モルガナと枯尾花幽子は、召喚契約を結んだのであった。

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