課長になりたかったなあ…
「ふふふ、いよいよ明日だ…明日が内示(異動発表日)、この俺が課長になる日がいよいよ来たんだ…」
宮本 ルイ、53歳にして地方都市の役場勤務。階級は課長補佐という、課長の一つしたの位に属していた。
大学卒業後、新卒で入庁して早31年、住民からのクレームに耐え、時にはサービス残業をし、休日も地域イベントなどに顔を出す日々を乗り越え、いよいよ、課長へと昇進しようとしていた。
「総務課長と面談も終わったし、いよいよ明日!!俺は課長として残りの公務員人生はスローライフを満喫するんだ!」
そう。課長になれば、ほとんど仕事をしなくても済むのだ。回ってきた決済に印鑑を押して処理するだけ。
残業代もつかないので、さっさと帰るが吉。大きな仕事と言えば、たまにある議会で課員がまとめた原稿を読み上げるだけ。これでなかなか高い給料がもらえるので、ルイはこの課長を一つの目標として頑張っていた。
「今日は気分がいいし、帰りにビールでも買っちゃおうかな~」
ルイは独身である。地方公務員はそれなりに安定しているので、女性にはまあまあモテたが、縁に恵まれず、この年になってしまった。
なので、ルイはお金を自分のためだけに使える。時間も、自分に100%使える。
ゆえに、仕事終わりにコンビニでビールの1本を買うことくらい容易いのだ。
ただ、この1本が時には命取りになるのである。
すこし酔っぱらったルイは軽い足取りで帰路についていた。
歩道橋を渡ろうと、スイスイ階段を上り、そして反対側の歩道へ階段を下ろうとしたときに悲劇は起こった。
足を踏み外したのである。
「う、うわ!!うわああああ!!」
情けない悲鳴とともに転がるルイ。これだけならば命は助かったのであろうが、運の悪いことに、階段の数m先には、バス停があった。
そこには鉄製のベンチが置いてあり、ルイが「ああ、これにぶつかったら死ぬな」と思うと同時に目の前が真っ白になった。
「うわあ!!」と声を上げて飛び起きたルイの目の前には、二人組の犬耳少年少女がいた。




