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貞操逆転ヤンキー世界のワケありヒロイン  作者: くにねむりと
第2章 静かに見守る影
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第35話 戦いの後

アシダカが沈み、ジョロウが静かに両手を上げた。

その場の空気は静まり返る。

ジョロウの瞳は笑っていなかった。



ジョロウとアシダカを縛り、静がアジトの奥に姿を消す。


数分後、扉が軋む。

そこから現れたのは、血に濡れた静と、その腕を支える一琉だった。



「……静、大丈夫?」


静の身体には、ジョロウのダーツが何本も突き刺さっていた。

「痛そう……抜かないほうがいいのかな……大丈夫?」


一琉は静の腕を優しくさすった。


静は、真っ赤な顔で無言のまま頷く。

動揺を悟らせまいとするように、唇を固く結んでいる。



その様子を、ジョロウは冷ややかに見ていた。

だが目の奥には、明確な敵意が灯っている。


「……騙してたのね」


吐き捨てるような声。

静かにしているのに、その一言が刃のように空気を裂く。


「可哀想な“保護対象”を演じて……

このままで終わると思わないことね」



静が一歩前に出ようとした瞬間、

一琉はそっと手を伸ばし、肩に触れて制した。


笑みは柔らかいが、瞳は深い。


「……騙してた? そうかもしれません」


穏やかな笑み。

それが逆に、ジョロウの眉をわずかに動かす。



「でも、あなたたちも同じじゃないですか?」


「……何?」


一琉は視線を逸らさず、淡々と続ける。


「一方的に監視役を押しつけられて、下に見られて。

本当は、すごくムカついていたでしょう?」



ジョロウの睫毛が、わずかに揺れた。

冷笑が、わずかに崩れる。


「……僕も似たようなものですよ」


一琉の声は、優しさと毒の中間にあった。


「“ただの駒”とか、“道具扱い”とか、

嫌になりますよね」



部屋に沈黙が落ちる。

ジョロウは、舌先で乾いた唇を湿らせた。


「……小僧のくせに……口が立つわね」


言葉は刺々しい。

けれど、その声には先ほどまでの余裕はもうなかった。





そこへ、外から駆け足の音。



「おーい!! 生きてっかー!?」

カンダを肩に抱えた夏菜が扉を蹴り開ける。


ほぼ同時に鷹津が体を重そうにしながら、

肩で扉を押し開ける。


「援軍参じょ…って、うそでしょ!?

もう終わってる…」



夏菜と目が合う。


「……あーし、勝ったわよ」


「おうよ、やるじゃねえか!!

二人ともボロボロじゃん、すぐ梨々花呼ぶからよ、治療してもらえ」



空気が一気に緩む。


連絡を受けた梨々花が駆け込み、

でっかい救急箱をどさっと置いた。


「みんな生きてるみたいね! 

よかったわ……って、鷹津と静はボロボロじゃない! 

まず治療よ、座って!」


鷹津は「へいへい」と笑い、静も大人しく指示に従う。



「縫うほどの深さじゃないわね。

消毒と止血はするから、あとで必ず病院行きなさいよ」


梨々花は皆に水を配ると、手袋をはめる。

手慣れた様子で静の背に刺さったダーツを抜いて消毒、血を止めた。


鷹津の打撲跡には冷湿布を貼り付ける。

消毒液の匂いが立った。



その間、一琉は机の帳簿とカンダのスマホを見比べていた。





一通り手当てが済んだころ、

梨々花がふと縛られた幹部たちへ視線を向ける。

その顔が驚きで強張った。



「……こいつら、“牛鬼衆”だ…」


「!! 牛鬼衆!? 

あの鬼道連の……!?」

夏菜が素っ頓狂な声を上げ、鷹津の顔色が変わる。


「聞いたことある……“暴れ牛鬼”って、

上の代の奴らがよく話してた。

鬼哭冥夜に潰されたんじゃ……」



アシダカは沈黙していたが、やがて低く口を開いた。


「……昔の話だ。

オレが“慾鬼”を名乗ってた時代、

牛鬼衆は確かに暴れまわってた。

だが鬼哭冥夜の影に追われ、地下に潜った」



ジョロウが、冷ややかに笑った。


「時代が変わったのよ。

一度負けた以上、力の“牛鬼”じゃ生き残れない。

だから今は“蜘蛛の巣会”。巣を張って、静かに絡め取る……

そうやって勢力を保ってただけ」



「……六道鬼が、裏でこそこそ弱い奴からカツアゲか。情けねぇ」

夏菜が吐き捨てる。



幹部たちは言い返さず、視線を逸らす。

一琉は小さく息を吸い、問いを投げる。


「前に言ってた危険な武闘派組織——

“鬼道連”の幹部が”六道鬼”ってことで、いいのかな?」


夏菜が頷く。

「ああ。そこのアシダカは“慾鬼”ってポジションだったぜ」


梨々花が静かに続けた。

「一琉には鬼道連のさわりしか伝えてなかったわね。

もう壊滅したと思っていたから……」



「その鬼道連が“暗夜會”と名を変えて潜伏していた。

その尻尾を、あーしたちが踏み抜いたってわけ、ね」

鷹津が苦笑し、肩をすくめる。


「ま、えぐすぎるとこに喧嘩売っちゃったわね、私たち」

梨々花の返答がやけに響いた。



静は黙って頷く。

夏菜は口角を上げる。目の奥に、静かな熱が灯る。

「面白くなってきたじゃねぇか……」


「……やっちまったなァ」

鷹津は空になった水を一気に煽り、ため息をひとつ。

「…てか静アンタ、六道鬼相手に二対一で勝ったの…?

ヤバ…」



ジョロウが、こちらを見上げる。

取り繕った降参の笑みの下で、

光だけはまだ鋭い。


「ねぇ坊や。まだ、間に合うわよ。

“守られる男の子”でいてくれれば、

誰も傷つかない」



一琉は首を振る。

傷の滲む静の肩へ、そっと片手を添えた。


「僕は、選びました。

守られる側じゃなくて、

あなたたちの“巣”を終わらせる側に」



静が、かすかに息を呑む。

その横顔には、痛みと、誇りと、少しの照れが同居していた。


すべてが終わったような空気の中、


一琉の目の奥には油断のない光が宿っていた。


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