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第32話 鷹津vsマネキ

外の空気は冷たい。

コンテナから続く小道は夜露に濡れ、

蛍光灯がちらついている。


足音、砂を蹴る音。

鷹津はマネキを追い、

開けた自然公園の道に飛び出した。



走る背に鷹津が怒鳴る。

「逃げんじゃねぇ!!」

「……狭い場所だとやりづらいんでね」


マネキはゆったりと止まる。

振り返ると、袖をまくりながら歩く。


「“本物”とやるのは怖いからさぁ、

雑魚で肩慣らししとかなきゃな」


「よく回る口だな。

負けた時の言い訳も考えとけや!」



マネキが軽いフットワークで円を描く。

ステップは正確、呼吸は乱れない。

ボクシング、オーソドックスなアップライトスタイル。


対して鷹津は直線的。

力と速度を前に押し出すストレートなMMAスタイル。


「シャラぁッッ!!」

鋭い踏み込み。鷹津の右が風を裂く。

マネキは一歩外、外、外。針のようなジャブだけ置いていく。

軽い打撃が鷹津の頬を掠める。



「ちっ、ちょろちょろしやがって」

「キミ、勧誘断る程度には小賢しかったけどさあ」


「あぁ?」

「顔に出てたよ、“ビビってます”ってね」


「うるせぇ!!」

鷹津の拳が鳴る。


だが、空を切った。



「蜘蛛の巣会潰そうなんて度胸、ないでしょ? 

異名持ちに影響されちゃったかな?」


マネキの声が耳朶に染みこむ。


次の瞬間、左頬に軽い衝撃。

鷹津のミドルは空を切る。


「っ……!」

「ほら、図星?」

血が一滴、夜気に散る。



「っ……てめぇこそ、地獄鬼がどうとか言ってたなぁ。

消えた閻魔にビビりやがって、繊細な女だぜ。」


マネキは笑ってステップバック。


「ふ、何にも知らないでカチコミかけてきたんだね。

アイツと比べれば、キミみたいな“中途半端”が一番面白い。

殴れば泣く、けど逃げはしない。ちょうどいい歯応えだよ」



マネキが重心を前に構えた。

次の瞬間、連打が飛ぶ。

鷹津は防御しながら後退。


呼吸が荒い。額の汗が光る。

「効かねえんだよ……

テメェみたいな口だけ女の攻撃なんてな!」


「さぁどうかな?

そういえば君、逃げたんだってね。

——家からも、流派からも」


「……っ!」


「あの“血祓戯チバラギ流”がこの程度? 

失望したなぁ!」



鷹津の視界が白く弾ける。

怒りが理性を塗りつぶす。


「おらぁッ!!」


踏み込み。ジャブのフェイントからタックルの姿勢へ一気に沈む。



マネキは受け入れるように体を預け——顎下に腕を滑らせた。


「やっぱりね。”半端者”は読みやすくて助かる」


ギロチンチョーク。

喉が詰まる。視界が白む。

鷹津は片手を顎下に挟み、必死に空間を作る。



「っ、ぐ……!」


「そら、締め落としちゃうよ。

……ねぇ、裏切ってこっちについちゃいなよ。

“本物”についていくの、しんどいだろ?

君とは仲良くやれそうだ」


締め付けが強まる。

視界が霞む。





絶体絶命——そのとき、鷹津は笑った。


勝負所タイミング、到来だぜぇ……!」


鷹津が取り出した何かがマネキの腹にあてがわれる。

親指が小さなスイッチを弾く。


「……え?」


次の瞬間、閃光。

白い稲妻が夜を裂いた。



「ぐぉおぉぉぉッ!!?」


マネキの悲鳴。

鷹津の声がかすれる。


「改造品だ!! 効くなぁおいッッ!!」


電撃。筋肉が跳ね、

二人はもつれ合うように地面に崩れた。

煙が上がり、焦げた臭いが漂う。



先に立て直したのは鷹津。

肩で息をしながら、笑う。



「“卑怯”上等、“半端”上等ッ! 

好きなだけ見下しな!

一琉助けるためなら、それがアタシの筋なんだわ!!」





マネキの目に、初めて焦りが宿る。


(読みやすい半端者——じゃない。

こいつは……何するかわからない)


「っ……くそ、ハリキリやがって……

器じゃねぇんだよ、てめぇ!!」



反撃のコンビネーション。

まだ鋭さを保っている。


被弾しながらも、鷹津の目には狩人の冷徹さが宿っていた。



大振りになったフックを読み切り、体をねじる。

全身を連動させたカーフキックがマネキのふくらはぎに突き刺さる。


「イヅッッ…!!」

声にならない激痛がマネキを襲う。


さらに追撃の——ヴァレリーキック。

踵を使った特殊な蹴りが太ももを撃ち、

さらなる激痛を生む。



「ヅア゙ア゙ァアア!!テメェ!!!やりやがったなァアア!!!」


怒りで視野が狭まる。

アドレナリンの分泌により痛みが飛ぶ。

フォームの崩れた乱打を鷹津は冷徹に受け続ける。



大振りな攻撃の隙間。

ジャブ、ロー、ストレート。

一つずつ重ねた三つ目、

右ストレートが綺麗にマネキの顎を捉えた。


「ぁっ…?」

マネキの足がもつれ、急速に体が重くなる。


「シアァァァッ!!」

空気が一瞬だけ止まる。


裂帛の気合と共に放たれた後ろ回し蹴りが、

マネキのこめかみを捉えた。



思いのほか静かな音、

マネキが地面に崩れ落ちた。



立ち上がってくる様子は、無い。





鷹津は息を吐く。


膝が震え、立っていられない。

夜風が頬を冷やす。



絶対に負けられなかった。

本来最も実力の劣る自分がカンダを追うのが筋。


何の躊躇もなく武闘派の相手を自分にまかせた”アイツ”



「はぁ……はぁ……へへ、大金星ぃ……」



気に入らなかったのが”憧れ”からだったと気づいた今、

自分が変わるきっかけとなった”あの子”が体張ってる今、


”弱者”でだけはいられなかった。



もはやマネキの言葉は鷹津の心を惑わさない。



倒れたマネキが、気絶寸前に呟いた。

「こんなの……地獄鬼に……バレたら……」


「……地獄鬼……ち、なんだってんだ」

鷹津は眉をひそめた。

首を振り、夜の奥で何かが蠢く気配を断ち切る。



「タイマンでもこれだぞ…

”音無し”でも、流石にやべえんじゃねえのか」


マネキを縛り上げ、静の援護に向かう。

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