第11話 幕間 梨々花の修羅華速報① 四天王出現
チョークの粉の匂いが残る朝の教室。
一琉は打ち解けた様子で夏菜や鷹津と談笑している。
チャイムが鳴る前のざわめきの中、突然ドアが開いた。
「ねぇ聞いた!?
修羅華、入学式早々もう大炎上よ!」
勢いよく飛び込んできたのは、いつもの梨々花だった。
スマホを掲げ、髪を揺らしながら息を弾ませている。
彼女は一琉の机に駆け寄りバンッと叩いた。
「黄金世代だって……
“四天王”って呼ばれ始めてんだから!!」
教室が一瞬静まり返る。
隣の席の夏奈が、椅子をきしませて前のめりになった。
「四天王!? おいおい、いきなり看板背負うような奴ら出てきたのかよ!」
窓際で腕を組んでいた鷹津は、あきれ半分に口角を上げる。
「へぇ……修羅華なんて上の代も化けモン揃いでしょ。
新入生がどんな仕掛けしてんの?」
梨々花はスマホをスクロールしながら、早口でまくしたてる。
「まずは我らが鬼哭冥夜、“夜叉天”——明堂アカネ!
入学初日で三年の大派閥”阿久津派”の実力者、“毒拳”こと蛇ノ目サラを返り討ちよ!!」
「はあっ!? “毒拳”を!?」
夏菜が思わず立ち上がる。
「関節外しと締めで無敗だった女だろ!? あいつ相手に返り討ち!?」
「伝統の新入生狩りを返り討ち。
……ほんととんでもないわね、鬼哭冥夜」
鷹津が低く笑う。
「そりゃ一発で名が轟くわ」
一琉はノートにペンを置き、窓の外へ目をやった。
「へぇ、アカネさん……元気でやってるんだね」
梨々花は息を整え、また早口でしゃべり始めた。
「で、次っ。“増長天”!
入学式を無視して、二年の教室に殴り込み!
十人まとめて沈めて、“南の暴君”なんて呼ばれてんの!」
「入学式サボって喧嘩!? 馬鹿すぎんだろ!」
夏菜が爆笑する。
「でも最高じゃねぇか!」
「……オラオラ系が寄ってくる未来が見えるわ」
鷹津が苦笑交じりに髪をかき上げる。
一琉はペン先をくるりと回した。
「ふーん……そう」
「まだあるわ!」
梨々花のテンションは下がらない。
「“持国天”は新入生狩りに来た上級生から、
教室ごと守りきったんだって! “守護番長”って渾名ついてる!」
「守護番長……。地味だけど、相当難しいことやってるわね」
鷹津がつぶやく。
「そして“広目天”!
アタシも使ってる裏SNS、広目天が立ち上げたって明らかになったの!
修羅華の情報網は全部、あいつ経由って言われてる!
これからの采配次第でとんでもないことになるわよ!!」
「……マジかよ」
夏菜が息を漏らす。
「四人ともバケモンじゃねぇか」
「戦国乱立の修羅華で一年から四人並び立つなんて、
聞いたことないわ」
鷹津が感心したように笑う。
「黄金世代って大げさじゃないかもね」
「良かったね」
一琉は柔らかく微笑む。
梨々花がスマホを掲げ、瞳を輝かせる。
「“夜叉天”“増長天”“持国天”“広目天”——
おほほほ、修羅華が燃えてるわぁ〜♡」
梨々花は両手でスマホを抱きしめ、椅子に腰を落とした。
(当たり前だけど、いろんな場所でいろんなことが起きてるなあ。
ちょっと教団から脱走したことなんて、大したことじゃないのかも。
…なんて、ふふ)
一琉はとりとめのないことを考え、ほほ笑んだ。
桜坂中の朝は、今日も平和で、少しだけ騒がしい。




