野営戦 -終-
夜が明けかけている。
勝利の狼煙を天幕から見上げた戦死組は、喜びの歓声をあげてひとしきり騒いだ後、弾む心をそのままに撤収作業へと移っていった。そんな兵士たちの声を聞きながら、フーリェンは能力の反動の残る身体を近くの木に預け、明け方の光を浴びていた。生ぬるく吹き付ける夏の風が、彼の白髪を優しく撫でる。その時、足音が二歩、三歩と近づく気配に、彼の耳がぴくりと動いた。
「………どうしたの」
その声に、近づいてきた影が立ち止まる。ゆっくりと目を開けたフーリェンが顔を向けると、そこにいたのは、中央防衛を担っていた兄――ジンリェンだった。
「…様子を見に来た」
ジンリェンはフーリェンの隣に腰を下ろすと、ちらと弟の顔を覗き見る。
「少し顔色が悪いな。反動か?」
「…うん。……でも、そろそろ動ける」
「そうか」
ジンリェンは静かに頷き、空を仰ぐように目を細める。朝の光が、じんわりと二人の影を伸ばしていた。しばらくの沈黙の後、兄の視線がふと、弟の腰のポーチへと落ちた。開かれたままの口が空であることを確認して、彼は少しだけ口角を上げる。
「……で、あれは役に立ったか?」
淡々とした問いかけ。だがそこには、弟に託したものへの確かな関心と、少しのからかいが混ざっていた。
フーリェンは苦笑しながら肩をすくめる。
「……一度、全員凍った。お陰様で、次の瞬間には動けた」
「それは良かった」
「でもやっぱり、……使うとしんどい」
「それでも、大したもんだよ」
そう言ってジンリェンはさらりとした顔をしている。
フーリェンはそこで小さく笑い、目を細めた。そこには安堵と、兄の力を借りねばならなかったことへのほんの少しの悔しさが、同時に滲んでいた。
「……ずるいな、ジンは。なんでも一人でやれる顔してさ」
「お前にだけは言われたくない」
静かな言葉のやり取りの中、どこか緊張が解けていく。戦いの夜が明け、ようやく兄弟が並んで座る、その時間が訪れたのだった。




